第8話

 諦めて帰ろうとしたその時、勇者が現れた。


「ゆうべはおたのしみでしたね、ですっ!」


「ゆうべはおたのしみでしたね、なのじゃ」


「はぐらかさないでください」


 ツンツンに立てていなければならないはずの髪はすでに乱れていた。


「本当に布の服装備とは。父上殿の鎧はどうしたのじゃ?」


 勇者は隣の建物に目をやる。


「『国立大勇者記念館の展示物なのじゃ』と言って没収していったのは誰かしら」


「わらわなのじゃ」


 そっぽを向く王女。


「返して」


「目玉展示を返すわけにはいかぬのじゃ」


「ま、そう言うと思ってた」


 落胆する勇者。


「それよりも、冒険者登録じゃ」


「めんどくさい」


「妾は廃棄されそうになっておらぬぞ」


 フィールドに出る、じゃなかった、街の外へと続く城門へ近付くと、


「そっちではないのじゃ、勇者」


「冒険者登録しないとダメですっ! 勇者」


といって邪魔して出られない。


 渋々、ギルド兼酒場兼宿屋兼両替商兼保管倉庫の建物へ向かった勇者。冒険者向けのあらゆる施設が営業しているものの、戦利品を換金する交換所だけは裏手の目立たない場所にあった。


「無駄に派手だな」


「ギャンブル場の居抜き店舗じゃからのう」


 中に入ると、美少女の冒険者で溢れかえっていた。


「溶岩を溶かす杖を使わずとも女だらけの国とは、イマドキじゃのう」


「26年前の話じゃ……」


「リメイク作で知ったのじゃ。というか、この章の最初のネタは30年前じゃ」


「それはよくネタにされる話でしょ」


 用事を済ませた冒険者たちは次々と出て行こうとするが、勇者たちの前で立ち止まる。


「そういうときは、一度出るのじゃ、勇者」

    

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