第41話

「デートの定番といえば、映画よね」

「ああ、あぁ……」

 って、予定表に記された映画タイトルの上映はずっとずっと先だった。既に公開から日が経ち、朝と夕方、の二回だけ。

「なぁ、莉紗。どうする?」

 ちなみにその映画は、人気テレビドラマのスピンオフ。恋愛要素と、人気があるという理由で選んだのだろうか。

 その選んだ当人は、物珍しそうに映画館の建物を眺めていた。ポスターとか、上映リストとか、そういったものではなくて、建物。

「莉紗」

「な、何?」

「どれ、見るんだ?」

 そこでやっと、ポスターとか、リストだかを見るのだが、頭を掻きながら、首をかしげる莉紗。

「こーいちが選んでよ」

「佐々木先輩ならアニメ一択なのだが……、うーん」

 といいつつも、上映開始時間が早そうなものから順に挙げていく。

「これどうだ? 人気SFアクションの第三弾『スターシップ・オーシャン3』」

「続編なんて安易ね。どうせ回を追うごとに劣化で、もうファンも見てないのじゃない?」

「えーっと、人気ライトノベルの実写化『半分のぼっち』。これは?」

「この『ぼっち』ってのは何?」

「独りぼっち、という意味らしいぞ。佐々木先輩がこれのアニメ、見てた」

「そう。企画が枯渇してそんなものにまで手を出すなんて、お先真っ暗ね」

「次は、……『カラフル美少女戦士vsマスク騎士』、特撮か」

「そういう明らかにターゲットの違うのを言わないでくれる?」

「じゃ、ゲームが原作の『ヒデヨシのヤボ用』……」

「原作付きは原作ファン向け。当然でしょ」

「人気アイドルユニット「アリス・ファイブ」が主演の『ネコガミ』、これは?」

「アイドル人気に頼る、演技の基礎も出来ていないアイドルを出す。最低だわ」

「人気ドラマシリーズの映画化、『家政婦が来たかもしれない』」

「そのドラマ、知らない」

「莉紗が挙げていたのもドラマ原作……見たことなかったりする?」

「えっ、あれって原作あるの?」

「知らなかったんだ……」

 ま、こんなことだとは予想はしてたけれど。

 シネマコンプレックス、いわゆるシネコンは巨大資本を動員した、まさにショービジネスの最前線である。それは、大衆をいかに呼び込むか、その一点を効率的に進めるための装置であり、例えば“みんなが知っている”続編や原作付きといった映画作品、いや映画商品を積極的に上映するのは理に適っている。

 しかしながら、エンターテイメントという環から疎外された莉紗にとって、まさにそれは「訳の分からない物」でしかなく、場合によっては「安易で低俗なもの」としか映らないだろう。オリジナルで、テレビ映えしないものしか「映画」と言わない原理主義者も少なくはないのだから。

 結局、俺の見立てで、莉紗が好むようなタイトルは、日を跨いでも上映される気配はなかった。俺としては、『家政婦~』のドラマはテレビでを見ていたので、気にはなるが、さすがに彼女と見に来るタイトルではないな、というのが正直な所。

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