第40話

「ねぇ、折角だから何かプレゼントが欲しいな」

「欲しいな、って……予定表に書き込んでいて」

「時刻が違う」

 そう言って口を尖らせる。

「少なくとも、期待させてくれた弁当の補償くらいはしてほしいのよね。一日千円で……」

「ぼったくりみたいな金銭レートだな」

「冗談よ」

 そう言うと、ショーケースの中の別の商品を見定め始めた。

「それで、何が欲しいんだ?」

 それを言うと、莉紗は腕組みをして不思議そうな表情を俺に向ける。

「もちろん、彼氏が選んでくれたものが欲しいに決まっているんじゃない?」

 そして、こう付け加えた。

「私の彼氏としての素質を試している、って言ってもいいかもしれないわね」

 ……金か、金なのか? それともセンスを問われているのか? もしかすると、現金では買えないものを評価するってことか?

 俺は、店中をまず回って、大まかに商品の傾向を抑えることにした。宝石店というほどでもないものの、雑貨屋というか、アクセサリー屋というか、男性があまり入ることのない女性向けの装飾具を扱う店である。値段は数百円から十万を超える商品まで無数にあった。

 財布の中身は、二万円とちょっと。後のことを考えると、ここで使えるのは一万くらい……。

「莉紗……」

「何?」

 俺の呼びかけにあさっての方向を向いていた莉紗が振り返る。

「こ、これなんてどうかな」

 俺が指差したブローチの価格は九九八〇円。税金入れると予算オーバー。

「いいわね。じゃ、これで」

 その手に握られていたのは、カード?

「一括で」

 そう言うと、俺の方を向いて微笑む。

 店を出て、早速、封を切る莉紗。早速、そのブローチを胸元に取り付ける。

「見て思ったけど、この前の、コスプレ……サキだったっけ、あの衣装にこんなのあったよね」

 図星ですよ。

「かわいかったから」

「でも、なんて言ったらいいかな、昨日は楽しかったわ。こーいちの希望なら、また『変身』してあげるわよ」

 ブローチの真ん中に埋め込まれた小さな石が光を反射する。

「どーせなら、これが本物で、一瞬でサキュバスに変身して戦いたいんだけど。魔法みたいなの使ったりしてさ、なんてね」

「そんなこと、現実にはあり得ないだろ。佐々木先輩だって区別がついてるよ」

「それであの人、なんでこんなの好きなんだろ」

「前に熱弁していたのに、アニメなんか子供の時には見てなかったらしいよ。徹夜で勉強していて、ふと息抜きにテレビをつけたら放送していてはまった、とか言ってたから」

「金平先輩もすごいよね。この前試合に出ていたの見たら、コートの端から端まで、全部員を抜いてボールを運んでいったの」

「プロ級っていうよりフィクション級って感じだよな。プロスポーツのスカウトがどこにも来ないのが不思議でたまらない」

「でも、テレビに出てても違和感ありそうだよね。プロを軽々と抜いていきそうだね」

「そうそう、試合として成り立たない、みたいな」

 きっかけは、些細なこと。その些細なことが発展して、話しが盛り上がる。身近なことから、社会全体の大きな問題まで。俺に分からないことがあっても莉紗が詳しい説明を加えてくれたり、俺の知識が莉紗の知らないことだったり。そういう、言葉のキャッチボールがとっても楽しい。

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