産褥期 ――ステータス表示がオレンジ(瀕死)のまま毒の沼地を歩き続ける日々。

 退院してからの我が家は、一時的ながら6名の大所帯となっておりました。厄介なクエストのために急遽メンバーが追加招集された特別なパーティです(笑)。


・夫(戦士)――やる気になれば何でもできる的なことを言うが肝心のやる気がでないようです……。


・私(魔法使い)――HPが著しく低下中。おまけにMPもゼロに近い。魔法が使えない魔法使いなんてカスですか?クズですか?(メンタル弱り中……)。


・子(勇者)――満を持してパーティに参加。レベル?何それ?美味しいの?


・母(僧侶)――吟遊詩人に憧れている。残念ながら、ベホマ(体力全回復の呪文)の唱え方は忘れたらしい。


・妹(盗賊)――パーティの中で一番能力が高い人。すべてにおいて気が利いている。ちゃんとお金を払って商品を購入してくるのでご安心を。


・猫(仲間になりたそうにこちらを見ていた獣)――勇者に細心の注意を払って接する気配り屋。


 父は「母に頼ってよい」と言ってくれたのですが、その母はというと「よその家でおさんどんかぁ~」と……(苦笑)。まああれですよ、環境の変化を嫌う人ですしね。そんな事情もあったりなかったりで、私のサポートとして母が召喚され、母のサポートのために妹がちょいちょい召喚されるという展開に。


 夫には窮屈な思いをさせてしまいました。ただ、どうなのかな? やっぱりこの選択に間違いはなかったんじゃないですかね。誰のサポートもなく長~い時間、閉鎖空間に母子と猫一匹だけ…………ザ・黒い家(戦慄)。想像に難くない展開じゃないですか(苦笑)。


 そういうわけで、基本的に昼間は母と私と子と猫で。そこに妹がいてくれたり。かなり精神的に癒されましたよ。それにね、家事をお願いできるのは本当に助かりました。だって、産褥期って本当にカラダが辛いんですもん。入院していたからって体力を回復させて戻ってきたわけじゃないですからね。


 産褥期――それはまさにステータス表示がオレンジの瀕死状態のまま、毒の沼地をトボトボと歩き続ける日々ですよ。「べ、ベホマさえ唱えられたら……」と思ってみても、魔法使いはそもそも回復呪文が使えませんし(汗)。


それに、MP(魔法を使うためのパワー)も減っちゃってますからね。呪文が使えない魔法使いなんてね、「返事がないタダの屍」と一緒なんですよ、ええ(ちょっと言いすぎか……苦笑)。


 そんなとき、気が利く妹(盗賊)は、薬草(美味しいものや元気が出るもの)を差し入れてくれました。母(僧侶)はベホマの唱え方こそ忘れてしまったようでしたが、熟練の家事技でサポートをしてくれました。そして、そんな二人を猫が癒す。私たち、命大事になんとか暮らしてました(泣笑)。


 夫は……いや、立派だったと思いますよ、うん(笑)。女ばかりに囲まれて居心地悪かったはずですが、その愚痴を私に言ったりしませんでしたし。ちなみに、猫も女性です(笑)。息子が「男は男同士」などといって味方になるのはまだ先でしょうからね。


 私の夫に限らずだと思いますが、男性ってやっぱり察することが下手ですよね……(悩)。その場の優先順位とか、こちらがどんな要求をしているのかとか、わかってもらえないことがしばしばで。すると、魔法使いのご乱心となるわけです(汗)。


 ある夜、いつもより夫が少し早めの帰宅をした日でした。私が沐浴の手伝いを頼むと、夫は「いいよ」と快諾してくれたんです。でも――いっこうに腰を上げる気配がない。なぜ? なぜにベッドに寝転がってマンガ読みはじめるの? 私がせかせかと準備を進める側で、読んでるそれマンガだよね? もうイライラMAXですよ(怒)。


 育児の最大のストレスって「思い通りにならないことばかり」という点にあるのではないでしょうか? 子どもが乳幼児の間は、ほぼ完全に子どものペースですからね。「私」の意思なんて尊重しようがないというか、採用の余地がないわけですよ。そこへ来て、頼んだ通りに動かない夫ですよ……。


 夫は夫で、カリカリする私を見て「誰もやらないなんて言ってない。やると言ったじゃないか」と。けどそれだって、私からすりゃあ「あ? でも実際やってねえし。マンガ読んでんじゃん」と。支援というのは必要なタイミングで介入してくれてこそですからね……。


 まあねぇ、私がもっと具体的に説明と指示だしをすればよかったんでしょうけどね。「タイミングを逃すと面倒だから今すぐお風呂入れるよ」とか、「お風呂は私が準備するから、着替えをお願いね」とか。


 でも、ひょっとしたら――そのときは、あえてそうしたくない自分がいたのかも。夫に対して「育児は“手伝う”ものではなく、あなたの仕事でもあるはずざましょ? その認識があれば、言われなくても主体的に考えて行動できるんじゃございません?」みたいな(苦笑)。


 ちなみに、育児中のママが夫に言われてムカつく言葉の上位にあるのが「僕も手伝うよ」だそうです(爆)。そりゃそうですよね。「いや、手伝うとかじゃなくて。この仕事、おまえの仕事でもあるからヨロ」って話ですよ。


 それでも、私は恵まれていましたからね。母は一貫しておおらかでいてくれましたし。妹は妹で、誰かの味方ではなく皆の味方として中立でいてくれました。私、妹の忠告は素直に受け止めることができましたもん。


 やっぱり大人の目がたくさんあるというのは大切です。新生児を守る(生かす)という重圧は、母になりたての女性ひとりでは、とても耐えられるものではありません。都会のマンションに母子だけという状況、個人的にはとても心配に思います。ずっと独りで赤ん坊を抱いたまま、崖っぷちに立っているようなものですよ。


 人間って、動物たちのように産んだ途端に本能が目覚めて、自動的に赤ん坊の世話ができるとかじゃないですからね。まあ、動物の中にも育児にちっとも関心が向かずに放棄してしまう母親がいるそうですが……。そんな話を他人事だと思えない私なのでした(苦笑)。

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