産み方に貴賤なんかない

 こういう言い方は不謹慎かもしれませんが、妊娠・出産ってちょっとブライダルと似たところがあると思うんです。女性にとってはどちらも人生の一大イベントといいますか。そういった意味で共通した部分があると思うのです。妊娠・出産は医療と無関係ではないけれど、基本的にはおめでたいことですしね。


 前項「お産は文化」に関連しますが、出産の方法はひとつではありません。選択肢があるのであれば、できるだけ自分の意向にあうものを選びたい。結婚式と同様に「自分らしい思い出に残るものにしたい」「自分の好きなようにやりきりたい」というのは当然なのかなと思います。


 ただ、私はというと――そういう情熱は持てなかったというのが実情です。とにかく、安全に。そのことだけで、そのプレッシャーだけでもういっぱいいっぱいで。妊娠も出産も興味深い貴重な経験なわけですが、「そのときを楽しむ」という余裕をまるで持てなかったんですね。今思うと非常に残念なことですが、まあ仕方がありませんな(苦笑)


 ところで、私は「母性、母性」と声高に言う人とはどうも波長が合わないわけですが(苦笑)同じように「自然、自然」と強調する人も苦手です。妊娠した途端に「自然」ということに凄まじくこだわり始めた女性、周りにいらっしゃいませんか(苦笑)?


 いや、いいんですよ。否定する気はまったくないんです。むしろ、尊敬するくらいです。オーガニックに徹底的にこだわった食事とか、赤ちゃんに着せる衣類もオーガニックコットンでそろえるとか、もちろん育児は完全母乳とか。私にはできなかったと思いますもん(まあ、やろうとも思いませんでしたが)。


 まさに、合理的にやっていきたかった(やっていくほかなかった)私には無縁の世界です。でも、何を選ぶかは個人の自由ですもの。その人がそれでよければOK。自分が選択した道を邁進できるのは何よりだと思うんです。


 ですから「出産は“下”から産んでこそ」とこだわるのも自由だと思いますよ。完全母乳にこだわるのも自由です。ただ、他の方法を蔑むような言い方はどうかと思うんですね。


「いや~ん、分娩台で生まれるなんて可愛そ~」とか? 「粉ミルクで育てるなんて信じられな~い」とか? いやいやいや、本当に可愛そうでなんとかしてあげたいって思っている人は、そういう言い方しないだろうがよ(汗)まあね、思うことは自由ですよ。でも、自分とは違う考えや価値観をまっこう否定するような感じは嫌ですよね。


 個人的には、子どもが無事に生まれさえすれば方法はどうだっていいと思います。こだわりがないといえばそうですが「方法は問わない」というのが唯一のこだわりみたいなもんでしょうか。


 初産の方で二人目三人目を希望している方が「できれば自然分娩で」とお考えになるのはわかる気がします。でも「“下”から産んでこそ」みたいなこだわりは私にはやっぱりわかりません。


 それでも、否定はしません。できません。だって、わからないものを否定も肯定もできないじゃないですか。自分は自分の価値観で選んだ道を行く、ただそれだけです。


 自然分娩で産んだことを誇りに思うのは自由です。頑張った自分を自身で認めてあげられるのは素晴らしいことだと思いますよ。でも「帝王切開じゃあねぇ」とか「無痛なんてねぇ」とか、そうして他を否定する態度はどうかと思います。


「自然、自然」って何なんでしょうね? 医学が進歩したこの時代ですよ。安全や快適を考えて使える技術に頼ることって、ある意味「自然」に思えるのは私だけでしょうか?


 当たり前のことですが、産み方に貴賤なんかないんですよ。大切なことは無事に生まれてくることじゃないですか。


 みんなそれぞれ様々な事情がありますもの。持病があって帝王切開しか選択肢がないという方もおられるでしょうし。そのことで旦那さんの立ち会いを諦めざるを得ないという方もいらっしゃると思います。


 乳児の栄養についても同じですね。完全母乳は確かに素晴らしいと思いますよ。経済的ですし、調乳(粉ミルクを湯で溶かして飲むために適温の状態にすること)の手間がありませんからね。でも、完全母乳にできない事情もあれば、あえてしない理由もあるわけです。


 ちなみに、当方ミルク育ちです。母乳とミルクの話についてはまた後で取り上げたいと思うのですが、母乳のほうが格上でミルク育ちが可愛そうなんてことはないと思いますよ。あったとしたら、私はまさに可愛そうな人ですな(苦笑)


 とにもかくにも、産み方に貴賤なんてあるはずがないのです。乳児の栄養もしかり。もし、つまらないことを言う人がいたら――。


「あんた、どんな格付け機関だよ!」


と、私が突っ込みにいきますよ!

(あ、出向くのは難しいので強い念を送ります・笑)。


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