最高の料理

とある超高級ホテルの一室


名立たる食通たちのいかめしい顔と


報道陣のカメラが居並んでいた


私が新しい料理長にふさわしいかの 審判の日


出されたお題はただひとつ


「あなたの思う最高の料理を」


厨房からワゴンを押す道すがら これまでの歩みを思い出す


送り出してくれた母の笑顔


包丁と油で傷だらけになった手


シャンゼリゼ通りで浴びた嘲笑と喝采


扉が開く


何の料理か どんな高級な食材を使ってきたのか


報道人たちのささやきを聞きながら クロッシュで覆われた皿を置いていく


さぁ どうぞ


よだれを垂らした食通達の前で クロッシュが上げられる


彼らの目が点になった


皿の上にあったのは


可愛い絵柄がついたプラスチックの弁当箱


炊きたてごはんに玉子ふりかけ


ありふれた肉と野菜の炒め物


タコさんウィンナーと ウサギさんリンゴ


なんだこれは、ふざけるな という怒号に


私は静かに答えた


これは女手一つで私を育ててくれた母が


目にクマを作りながら


一日も欠かさずに持たせてくれたお弁当です


これが私の身体を作り


私の舌を育て


つらい時に私を支えた料理です


いくら修行を重ねても


この味を超えることがどうしてもできません



これが私の目指す 最高の料理です



困惑と失望の空気の中


一礼して私は部屋を後にした

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