第56話 メイシアと特訓



 会議が終わってからすぐにそれぞれの行動を起こしたボクは今、城に用意した場所でメイシアに色々と教えてもらっている。


「ユーリ、ここは手をこちらに置いた方がいいです」

「う、うん……」


 メイシアに手を握られ、少し横を向くだけで彼女の綺麗な金色の髪の毛や大きな翡翠のような碧眼。整った顔立ちに白い肌が見える。

 それにボクに密着して身体を動かしているので彼女の吐息が身体にかかり、彼女の体温や匂いも感じられて顔が赤くなってくる。


「ユーリ、顔が赤いですが……大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だよ、うん。ほら、続きをしよう」



 思わず振り返ると、ボクとメイシアの顔が間近にあって少しでも動いたらキスしそうなほどに彼女の唇とボクの唇が近い位置にあった。


「「ひゃぁっ!?」」


 ボク達は互いに悲鳴を上げて飛び退り、数メートルの距離を取る。身体能力が高いのでかなり距離が開いてしまった。

 恥ずかしい感じだけでなく、なぜか少し悲しい感じや残念な感じがしてくる。いや、こんな時に何を考えているんだ。色々と忙しいのに。

 そう思いながら、顔を振って変な考えを追い出して思考を切り替える。これでもう大丈夫。


 改めて離れた位置に移動したメイシアの姿を確認すると、彼女は両手で顔を隠してしゃがみ込んでいた。


「め、メイシア……」

「ご、ごめんなさい。随分とはしたないことをしてしまいました……婚姻していない殿方にあのように身体を密着させるなんて……」

「こちらこそごめんね。その、ボクが教えてもらっているから……」

「いえ、ユーリが悪い訳では……ありますけれど」

「あるんだ」

「本当は無いと言いたいのですが、このように距離が近いのはユーリの恰好が関わっています」

「あ~納得だね。これはボクのせいだ」


 ボクのアバターと現在の衣装から考えると女の子と勘違いされてもおかしくないからね。早く男物の衣装を作らないといけない。時間があれば自分で作るか、買いに行くのだけれど今の状況ではそうもいかない。

 だから、誰かに買ってきてもらわないといけないけど、人選を選ばないと女物を買ってくるだろう。

 特にアナスタシアは駄目だ。あの妹ちゃんは嬉々として女物を買ってきそうだ。ディーナはボクの言う通りに買ってきてくれるだろうけど、残念ながらディーナは忙しい。

 他の竜族に頼んでも買ってきてもらえるだろうけれど、他の皆はボクを女と認識しているので持ってこられるのは女物になるだろう。

 来訪者でない竜族の様にボクも竜脈を使って物質化する事で外装を誤魔化す事はできる……はずなんだけれど、残念ながらまだボクにはその力は無いんだよね。できたとしても、戦闘ではあまり使えないだろうし、生産職としてはプライドが許さないから使い道はあまりなさそう。


「服だけどうにかしたいけど、やっぱり後かな」

「ですね。今は急いで覚えましょう。覚えて損はありませんから」

「女の子じゃないから微妙なんだけどね……」

「大丈夫ですよ。食事のマナーは同じですし、立ち振る舞いも一部は男性と同じです。それに女性の立ち振る舞いを知っているとエスコートしやすくなります」


 確かにメイシアの言う通り、エスコートする時に女性の事を知っているといいのかもしれない。


「モテるかもしれませんよ?」

「あはは、それはないよ。リアルのボクもこっちのボクも女の子みたいな顔だしね。だからモテたりしないよ。学校でもそれでからかわれてたし」

「確かにこちらのユーリを見る限り、女としてはちょっと思うところがありますね。女として負けている部分とか……」

「やめて! それってボクにクリティカルヒットだからね!」

「ユーリは男の娘ですからね」

「なんか意味が違いそう!」


 クスクスと笑うメイシア。


「……ひどいよ……」

「ごめんなさい。でも、ユーリの趣味や仕事も女の子っぽいですからね」

「くっ、人形を捨てろというのか……無理だ。絶対無理」

「本当にユーリは人形が好きですね」

「うん、大好きだよ。お祖母ちゃんから与えられた命題はボクの目指す場所でもあるからね」

「そういうところはカッコイイですよ」

「あ、ありがとう」


 照れながら告げると、メイシアがまた笑いながらボクに近付いてくる。


「私は別にこのままでも良いと思いますよ? ユーリは可愛いし、カッコイイところもありますから」

「エー。それとこれとは話が別だよ。ボクとしては男の方がいいしね。うん、可愛いはいらない」

「可愛いは正義らしいですよ?」

「そんな正義は要りません。それに正義は人それぞれあるものだからね」

「まあ、私はどちらでもいいので続きをしましょうか」

「そうだね。もう余り時間もないし、しっかりと覚えよう」

「では、休憩は終わりです。ビシバシ行きますよ。師匠形式のスパルタです」

「え゛」

「身体にしっかりと教え込んであげます」


 戦女神のスパルタ訓練を始めるためか、メイシア自身が自分に支援をかけていく。


「間違ったらお仕置きです」


 彼女の手に現れた帯電する槍を見て、ボクの身体が震えてくる。これはどうにかしないとやばい。


「大丈夫です。ユーリにはできます」

「根拠なんてないよね!」

「いえ、ありますよ?」

「本当にあるの?」

「はい。ユーリは自らの身体を人形として操れるのですよね?」

「五体の完全操作なら確かにできるよ?」

「でしたら、私が教えた動きを記憶してその通りに動かしてひたすら反復練習をすれば短い時間でも可能なはずです。後、ユーリは姫系のクラスとスキルを持っているので、関連する知識や技術を覚える補正はあるはずです。きっと、たぶん」

「……なるほど。人形の操作と思えばできそう!」

「これで納得するんですか……」


 メイシアに少し呆れられたけれど気にしない、気にしない。人形に関する事で妥協なんてしない。むしろ、今すぐ人形を作りたくなってきた。


「ねえ、いっそ影武者の人形を作って対応させるとか……」

「駄目に決まってるじゃないですか」

「ですよね~」

「時間はないんですから、しっかりとやりますよ。アイちゃんのお父様なんですから、頑張ってくださいパパ」

「了解。娘の為にパパは頑張ります。だから、ママもよろしくね?」

「はい、お任せください」


 二人で頷き合った後、特訓を再開する。まずはメイシアの動きをログアウト中以外、四六時中一緒に居て解析し、完全にトレースする事から始める。


 トレースが終われば身体に染み込ませる為、ただひたすら反復練習をする。その間は直視したくないので、大好きな人形について考える。具体的には人形を作るための制作機械などの設計図から考えないといけない。

 ボクが反復練習をしている間、メイシアはボクを観察して間違ったりずれたりしているところを教えてくれる。ボクのトレースはあくまでもメイシアの物なので、ボクの身体で行う場合は微調整が必要だからね。


「ところでユーリ。会談するのはいいとして、その時に用意する食事はどうしますか? 歓迎する準備はできてきているでしょうが……」

「あ、そっか。その辺りも用意しないといけないのか」


 一応、パレードみたいなのは用意している。といっても、ドラゴンになって飛んでもらうだけだけどね。


「こちらの竜族の人達って食事はほぼしないですから、料理なんてしないでしょう?」

「うん。食べなくても龍脈からエネルギーは供給されるから、食べないみたい」


 ボク達、来訪者は食事をしている人が多いので、準備する項目から抜けていたや。


「魔族と神族の人達って何を食べるのかな?」

「掲示板で情報を収集した限り、基本的に私達と変わらないようです」

「なら、ボク達の世界で作られている料理の方がいいか」

「何が作れますか?」

「カレーライス?」

「それ、ユーリが今食べたいだけですよね? そもそもスパイスはどうするのですか」


 確かに食べたい物だ。明日はカレーライスにしようかな?


「じゃあ、ハンバーグ」

「ドラゴンの肉とかですか?」

「美味しいのかもしれないけれど、共食いはしたくないかなぁ……」

「まあ、そうですよね。やはり、食材などはディーナちゃんに調べてもらってから選びましょう。来られる人達に共食いをさせるわけにもいきませんし、食べる事が禁忌な物もあるかもしれません」

「そうだね。そちらの方が安全だし、その方が良いかも」

「ではそれで。あ、そこはちょっとずれていますね」

「こうかな?」

「それで大丈夫です」


 二人で色々と決めたら、ディーナ達に連絡する。それとある程度覚えられたら、メイシアと二人で踊ったりもしてみる。舞踏もしないといけないかもしれないしね。ただ、女の子の手を握ったり、身体を触るのはやっぱりドキドキするや。









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