第49話
ドラゴンさん達と共に転移でやってきたのは思わず見とれるような世界だった。視界に映るのは太陽に照らされて輝く、雲海に浮かぶ島々。その島々の中でも一際巨大な島には大きなお城が建てられている。
「……綺麗……」
雲海の上にある平らにならされている大きな浮島。周りには複数の柱が立っており、足元は石畳が引き締められている。魔法陣のような物は存在しないが、ここは空気がよく、とても過ごしやすい。龍脈から流れ込んでくる力も大く、回復速度とかも上がっている気がする。そんな場所にボクとドラゴンさん達は転移してきた。
「ここは竜族の世界であり、空を飛べる者達でも見る事ができない光景です」
「確かにそんな感じがする……」
ドラゴンさんの一人が伏せをするように頭を下げて教えてくれる。
「あの島々一つ一つが我等竜族の同胞、ドラゴンホエールです」
「え? あれってドラゴンなんだ……」
「そうです。背中の島はドラゴンホエールから栄養などを貰っているので、他の生態系とは別の物ができております」
空中に浮かぶ空飛ぶ島の一つ一つがそれぞれの生態系を作り上げているのかもしれないね。しかし、そうなると竜族の力で育った薬草とかがあったら、凄く効能が高そうで採取してみたい。
「あれ?」
よくよく観察してみると、ドラゴンホエール達の回遊ルートは一定みたいな感じがする。もしかしたら、龍脈に沿って移動しているのかも。
「そろそろよろしいでしょうか?」
「あっ、うん。ごめんね」
「いえ。それでは頭にお乗りください」
「ありがとう」
赤色のドラゴンさんの頭に急いで乗せてもらう。角の間に立って片方の角にしっかりと抱きつく。
「行きます」
こちらの準備ができたのを感触で確認したのか、羽ばたきながら走り、山脈の頂上から飛び降りる。すぐに滑空し、吹き上げてくる上昇気流に乗って更に登っていく。
強い風圧を感じていると、どんどん上昇していく。上昇が終わると、今度は翼を畳んで急降下して加速する。そのまま得た速度を活かして城に向かうみたい。加速し終わったのか、途中で翼を開いて滑空しだす。
空を飛んでいると、他にも様々な属性の成竜であろう大きなドラゴンが七体、その傍に複数の小さなドラゴン達が居て、その子達がこちらに寄ってきてボクの周りを楽しそうに周りを飛んでいく。中にはぬいぐるみサイズの子もいて、頬っぺたを擦りつけてきたりして可愛い。しかし、かなりの速度を出しているけれど、竜族だけあって子供でも平気でついてきている。
数十キロはありそうな一際大きな、ドラゴンホエールの上に作られている大きなお城。それこが竜族の中枢みたい。そこに止まると思ったら、通り過ぎていく。
「あれ、ここじゃないの?」
「本来なら城の方になるのですが、今は緊急事態なので直接試練の会場までお連れ致します」
「うん、お願い」
そのままお城を通り過ぎ、少し空の眺めを楽しみたい。けれど、ボクにはその時間がない。一応、戦闘が起こるかもしれないから準備をしておこうと思う。
ドラゴンブレスがチャージされていて放つことができるドラゴンのぬいぐるみあが8体。
うさぎとオオカミのぬいぐるみが11体。こちらは普通に使えるけれど、戦闘能力は高くない。
金竜幼姫のぬいぐるみは四体。こちらは30㎝から40㎝くらいのダウンサイズ。戦闘能力はボクが持つ使える中では二番目に強い。
金竜幼姫のマリオネットは強さ的には一番だけど、レベルが足りなくて使えない。囮ぐらいにはできるかもしれないけどね。
ここまでは普通の装備で、他にはAI搭載型の動くぬいぐるみ。それの試作型が29体。
回復用のヒットポイントポーションが16本。マジックポーションが12本。毒消しと麻痺治しが2個ずつ。
どう考えてもアイテムが足りない。着ぐるみの制作に集中しすぎていたせいで消耗品の補充ができていない。でも、人形を作るためだから仕方ないよね、うん。布とかの人形を作る素材を最優先するのは仕方ないことだし、何もおかしなことはない。無いったらナイ。妹達には怒られるけれど、ボクは間違っていない。
よし、そんなわけで消耗品である回復アイテムが足りないのは仕方がない。そもそも魔竜の心臓で回復速度は非常に速いから、そんなに必要がないというのも原因の一つだよ。これからは気をつけよう。でも、ボクは生産職なのでおかしくはないと思う。
さて、確認作業に戻ろう。アイテムバックを確認すると、制作した着ぐるみがあったので確認してみる。
熊さんの着ぐるみと猫の着ぐるみなんだけど、はい、残念でしたー。能力全部消えちゃってますね。うん、まあ……予想はしていたよ?
だって、これってどう考えても次のイベントで、金竜争奪戦は終わってるわけだしね。一時的とはいえ、竜族の勝利って感じになるから、能力が消えるのも納得できる。納得はできるけれど、もう少し残しておいてくれてもいいと思うんだよね、うん。まあ、そんな訳で残念ながら、着ぐるみは普通に防御力がある程度でしかない。
「もうまもなく到着致します。これから上昇しますので、しっかりと掴まっていてください」
「ん、わかった」
装備の確認のためにアイテムバックを見ていたボクは視線を上げ、行き先を見詰める。前方、それも上の方にはとても大きな島があって、目的地はそこのようなので言われた通りにしっかりと角を掴む。
こちらが掴んだことを確認したドラゴンさんは翼をはためかせ、加速していく。速度が乗ったら、頭を上げてほぼ垂直に上空に全力で上昇する。
目を見開いて押し寄せてくるGに耐えていると、急上昇が終わって滑空に入る。その衝撃でボクの軽い身体が浮かび上がり、飛ばされそうになる。慌てて角に抱き着いて耐え、無事にドラゴンさんの頭部に着地できた。
「後はゆっくりと滑空して降りるだけです」
「ありがとう」
余裕が出たので、お礼を言いながら進んでいる先を見てみる。向かう場所は複数の小さな島と大きな島で構成されていようだ。小さな島から大きな島には橋がかかっており、それぞれ柱とドラゴンの石像がずらりと並べて置かれている。進路的に小さな島の方に着くみたい。
「いえ、こちらこそ引き受けてくださり、ありがとうございます」
「まだどうなるかは分からないんだけどね」
「それでも構いません。試練を受けて頂けるだけでもありがたいですから?」
「そうなの?」
「はい。なにせ――っと、到着ですね」
ドラゴンさんが何かを言おうとした瞬間、目的地の小さな島に到着した。降り立ったことで少し衝撃が走ったけれど、落ちることもなかった。すぐにドラゴンさんが頭を下げてくれるので、ボクも飛び降りてちゃんとした地面に降り立つ。
それから周りを見るけれど、降りた場所は円形で大きな橋がかかっている以外、柵もなにもないので端に行ったら落ちそうな危険な場所だ。橋の方も先に見た通り、柱とドラゴン、竜族の石像が置かれているぐらいだ。
「それでは私はこれで失礼致します」
「え? 案内してくれるんじゃないの?」
「ここは我等竜族の聖地であり、資格無き者や許可無き者が入る訳にはいかないのです。ですので、私の役目はここまでです。ここからは別の者が案内致します」
「そうなんだね。ここまでありがとう」
「いえ、こちらこそ姫様を乗せられて嬉しかったです」
「いや、姫様じゃ――」
「お迎えがきました」
「――な……ん?」
橋の方から同じ恰好をした三人の女の人が歩いてきた。白く丸い縁の大きな帽子と白色のマント、金色と赤色のラインが描かれた白いローブを着て手には錫杖を持っている。
それぞれ年齢的には20歳、15歳、10歳くらいのように感じ、身長もだいたい同じくらいだ。身長は170㎝、155㎝、140㎝ぐらいかな。スリーサイズは……はいいか。とりあえず、年相応でどの人も綺麗だ。幼い子ですら、無表情でクールな感じだしね。
髪の毛の色は20歳の人が太股辺りまである長い銀髪で、碧色の瞳をしている。15歳の人は赤色髪の毛をショートにして左右の横髪を伸ばしていて、瞳の色は紫だ。10歳くらいの子は肩の下くらいまで水色の髪の毛があり、瞳は翡翠のような碧眼となっている。
「ご苦労様だった。お前は下がりなさい」
銀髪の人からきつめの声がドラゴンさんに発せられる。
「はっ。それでは失礼いたします。姫様、ご武運を」
「うん、ここまでありがとう」
「では」
ドラゴンさんが反転して歩き、島の端から落ちるように飛び去って行った。それを見送った後、案内の三人に振り返って話しかける。
「それで、ボクはこれからどうしたらいいのかな?」
「姫様には私達三人の中から、試練を共に受けるパートナーを選んでいただきます」
代表として銀髪の大人な人が代表として話していくみたい。でも、とりあえずこれだけは訂正しないと。
「姫様じゃ――」
「時間がありませんので、異議申し立てなどは後回しでお願いします」
確かに今は時間が無い。諸々の事は後回しにして試練の内容を聞こう。
「わかりました」
「私達を含め、我等に敬語は必要ありません。貴女様は竜族の王になられるのですから」
「まあ、それも後回しだね。それより、試練の内容は?」
「私達の誰かをパートナーとして選んで戦いをしてもらいます。竜王に相応しいかどうか、判断されます」
つまり、二人で一つの大きな試練に挑むってことか。えっと、どうしようかな。こういう時って何を基準にして選べ場いいんだっけ。ん~怜奈や恵那がやってたゲームでなにかあったかな?
「わかった。それで戦うタイプとかあるの?」
「あります。私は銀竜の巫女であり、邪を払う力を始め、防御力も攻撃力も高いです。金竜様には及びませんが、様々サポートができます」
「アタシは炎竜の巫女。炎を自由に操るから攻撃全般が得意で火力はかなり出せるわよ。でも、防御とかは苦手なの」
「……水龍の巫女。水を操ります。回復や支援が得意です……」
「なるほど……」
三人はオールラウンダー……ディフェンダー、アタッカー、ヒーラーって感じか。ボクにとって相性がいいのは誰だろうか。
「もちろん、全員が竜化もできます。私はシルバードラゴンですので、周りを銀槍の雨を降らせたりできます。選んでいただければ銀竜の力をお見せしましょう」
なんだか自分の力に絶対の自信がある感じだ。性格もきつそうだし、言う事を聞いてくれるかはわからない。
「アタシはフレイムドラゴン。一瞬で周りを煉獄に変えてあげるわ。床は溶岩にして、空から流星のように炎弾を落とすの。とっても素敵よ」
却下。ナイ。この子とは絶対に無理。地面が溶岩になったら飛ぶしかないし、なにより人形が燃える! そんなのボクに許容できるわけがない!
「……私は」
「その子は選ばない方がいいですよ」
「確かに」
「どうして?」
ボクがムッとして聞いてみると、慌てて教えてくれた。
「姫様はその、実力がまだ低いですよね」
「うん。それは否定しないよ」
「はい。姫様の実力がまだ低く、若い状態で試練を受ける緊急時は金竜様に付き従う巫女の中から、それぞれの分野で最優秀の者が一緒に試練を受けるパートナーとして選ばれます。ようは後見人と一緒に受ける感じですね」
「なるほど、わかるよ」
確かに実力が低い金竜が受けたら、すぐ死んじゃうからパートナーをつけるのは納得できる。それに竜族自体が貴重だから、数を増やすのも大変だからむやみに殺すことは滅多にしないよね。
「それで彼女をお勧めしない理由は至極簡単です」
「彼女の力を生かすには一定以上の力が必要なのよ。例えば彼女の支援で、他人が与える攻撃の威力を倍にするなんて力があるわ。でも、姫様の力が小さかったら……」
「倍率が高くても意味がないと」
「そういうことです」
「そっか、虐めとかじゃないんだ」
「ちがいます!」
「そもそも分野が違うから、そういうことは……いや、今回の場合はそれであってるかもしれない。できれば私達は自分が選ばれたいのだし」
「……私は違いますが……」
どうやら、選ばれることで彼女達にもしっかりとメリットがあるようだ。それで銀竜の人と炎竜の人は積極的である。逆に水竜の人は違うみたい。
「とりあえず教えてくれるかな?」
「……ふぅ……私は西洋のドラゴンと東洋の龍のハーフです。東洋の龍のほうが似ています」
「東洋の龍は希少種だよ。ほぼ全滅してるし、先祖返りでしか現れないわ」
「竜化すれば基本的に洪水で相手を押し流したり、拘束したりできます。延々と雨を降らせ続けることもできますが、本来は支援役です。持続回復や身体能力の上昇、攻撃力の倍化、障壁の展開や状態異常の回復などがおもですね。巫女として
「つよっ!」
「活かせなければ宝の持ち腐れです。基本的に自分以外にしか支援をしないという縛りで、支援能力を上げておりますので守ってもらわないといけません。攻撃力も圧倒的に引くく、私達が1000だとすれば彼女は1です」
攻撃は竜化して水で押し流すとかぐらいのようだけど、支援能力を考えるとものすごく強い。他の二人と比べると攻撃力とかが圧倒的に足りないんだろうけれど、それでもこれからのことを考えると彼女が一番か。
怜奈達も支援役がいないと辛いと言っていたし、ボク達のパーティーを考えると専属で支援する人っていないんだよね。
ボクは前衛でディフェンダーをやりながら人形で戦う前衛防御タイプ。ディーナは妨害だからジャマーで攻撃もできるサポーター。アナはキャスタータイプのアタッカー。メイシアは支援もできるけれど、身体能力や攻撃力を上げるのがメイン。一応回復魔法も使えるけどやっぱり戦闘がメインのパラディンタイプ。役割としたら支援よりのディフェンダー? アイリは純粋な物理アタッカー。
つまり、盾役二人、攻撃役二人、妨害役一人となる。専業の回復職が欲しい。そうしたら、バランスは凄くいいと思う。
でも、今は試練だから、支援が生かせなかったら意味が……待てよ。攻撃力の倍化ってなんでもいけるのかな?
「攻撃力を倍にするって本人じゃなくて、装備やアイテムでもいけるの?」
「いけますよ」
「ぬいぐるみや物に支援をかけたりもできる?」
「範囲化できますので可能です」
これなら彼女で大丈夫だね。それにアイリと年齢や見た目が近いし、友達になってくれるだろう。ボク達がいなくても二人で行動できるようにすれば寂しくもないだろうしね。
「わかった。それじゃあ、君に決めた。水龍の女の子、よろしくね」
「「えええっ!?」」
「……わ、私ですか……本当によろしいのでしょうか? 選ばれるのは非常に光栄なのですが、勝ち目があるとは思えません」
「それなんだけど、ボクに考えがあるの。ねえ、二人も竜族の未来のためにちょっと協力して欲しいな」
「まあ、いいけど……」
「選ばれなかったのは残念ですが、協力はやぶさかではありません。ですが、選ばれなかった理由を教えていただきたいです」
「あ、アタシも」
「えっとね、ボクには竜族の娘がいるんだ。その子が水龍の子と年齢とか近いし、ボク達のパーティーには今、支援役がいないんだ。だから、これからもついてきてくれるならって……駄目かな?」
「いえ、なんの問題もありませんよ。ですよね?」
「……我が身はすでに主の物なれば、なんの問題がありましょうか……」
「え?」
水龍の子が跪いて頭を下げてくる。これってどうすればいいんだろう?
「まあ、よくわからないけれど、とりあえず立って」
「畏まりました」
「それに契約を正式にしてしまいなさい」
「そうですね。主よ、私に名前をつけてください」
「名前ないの? というか、主って……」
「我等は生まれた時より、竜王に使える巫女となるために教育されてきております。ですので、竜王となられる貴女様は私共の神様であり、主人なのです」
「そういうこと。そんなわけで名前がないのよね」
「……各種族に巫女は一人だけですから、呼び方もなになにの巫女でことたりますし……」
なるほど。確かに一人だけだったら、固有の名称がなくても役職名でことたりるんだね。店長とかそんな感じで。
「わかった。水龍の子だから、蛟……でも、可愛くないな」
「……我が主に頂ける名前ならなんでも構いませんが……」
「いや、駄目だから。んー」
水使い。水、アクア。アクア……微妙。ブルースカイ。ブループラネット……ん、やっぱりボクの名前から取るのもいいか。青羽悠里。青羽。ブルーフェザー。フェルが使えそう。ユーリから取るとなるとフェリルがいいかな。
「決めたよ。ボクのアースでの苗字、青羽とこちらの名前ユーリからとってフェリルにした」
「……あぁ……我が主の苗字を頂けるとは……」
「いいわね」
「ですね。まあ、いいでしょう。さっさと儀式を済ませてしまいなさい」
「では、我、水龍の巫女、フェリルの名の下に宣誓します。何時如何なる時もユーリ様を我が主とし、生涯の忠誠と隷属をここに誓います。これより我が全ては主であるユーリ様の物となります」
「ちょっ!?」
誓っている内容は物騒極まりないもので、止めようとするけれどその前にするりと彼女が懐に入ってくる。
「んっ」
「んんっ!?」
そのまま口付けをされて、舌と舌が触れ合うとボクと彼女、フェリルの身体が光っていく。次第にフェリルの光が薄れて、彼女の力がボクに流れ込んでくる。光が収まると、フェリルの姿は何処にもなかった。
【水龍の巫女フェリルとの契約が成功しました。それに伴い、召喚・水龍の巫女フェリルと水龍の加護を習得しました】
「ふぇ、フェリルが消えちゃったんだけどっ!」
「大丈夫ですよ。貴女様の中に入っただけですから、呼び出せばいいのです」
「世界の声、聞こえなかった?」
「あ、聞こえた。なんだか召喚・水龍の巫女フェリルってのを習得したって。どうやればいいの? できたら自由にさせてあげたいんだけど……」
「それだったら、権限を与えればいいよ。よくわかんないけど、私達なら口頭で、来訪者の人ならめにゅ~とかいうのからもできるみたいよ」
「調べてみる」
メニューを開いて調べると、召喚項目に水龍の巫女フェリルが増えていた。そちらをタップしてみると設定画面が開いて彼女のステータスが表示された。
彼女のレベルは驚きの421。攻撃力が10で最低値。最大は魔力の28,000,000。文字通りの桁が違う。戦闘時、制限無しの召喚可能時間は約1分。支援を放って終わりという感じ。あの初めてPvPした時に使われた鬼みたいな感じかな。
それ以外にも限定召喚っていうのがあった。これは大幅なステータスダウンと引き換えに召喚でき、パーティーメンバーとして一緒に戦ってもらえる。ただし、本人が召喚コストなどを自ら支払ってまで一緒にいるので、召喚される者の意思が重要であり、好感度が低かったらでてきてくれないし、低すぎると逆に襲われるみたい。
ちなみに彼女のボクに対する好感度は……愛情と狂信。愛情はともかく、狂信とか怖すぎるんだけど。
ま、まあ他に設定できる項目があるからそっちを設定する。味方、パーティーメンバーなどへの攻撃だけを禁止して、それ以外の制限を全て解除する。するとボクの身体が光って、目の前の魔法陣が現れて彼女が姿を現した。
「正妻か愛人かはわからないけど、おめでとう」
「祝福するわ」
「ありがとうございます」
「え? ソレモキイテナイ」
「言いましたよ? パートナーを選んでもらうって」
「そっちのパートナーなの!?」
「そうですよ。これから生死をかけて全力で挑むんですよ。死ぬ可能性がとても高い危険な勝負です。全てをかけるに値する報酬がないと駄目ですよね」
「……私はいらないのですが……」
「そいうのは珍しいしね」
「もしかして、報酬って……」
「竜王の子供ですね。つまり、妻の座になります。愛人でも十分に力がつきます。それだけ子供を産めるというのは素晴らしいことです」
「憧れのマザードラゴンになれるのだから、当然よ」
話を聞く限り、巫女達は金竜、竜王に認められてマザードラゴンとなることを目標に切磋琢磨しているらしい。このマザードラゴン、竜魂転生を使う時にもとても重要な役目となるらしい。なぜならマザードラゴンの素質や力が産まれてくる子供に影響するからだ。もう、どういうことかわかった。
アイリを作った時はボクの金竜としての身体とメイシアの身体を使って作ったけれど、本当はマザードラゴンの身体を使って卵を産むみたい。本当に新しく生まれる場合はこの限りじゃないみたいだ。
「えっと、盛り上がってるところ悪いけど、ボクさ……妻も子供もいるよ?」
「? 構いませんよ?」
「いいの?」
「……王は一夫多妻でも、その逆でも可能ですから。それに竜族は数も少ないので……一匹の雄が一匹の雌を独占することは滅多にありません」
「え!?」
「ああ、安心してください。私達巫女は竜王に仕えるための存在であり、他の因子が混じらないように生涯をかけておひとりだけです」
「そっか。良かった」
話を聞くと、基本的に竜族って卵生らしい。妻の女性が卵を産んで、そこに夫が自分の力を分け与える。これが基本とのことだけれど、別に女性同士で卵に力を入れても産まれてくるらしい。男同士でも同じようだけれど、こちらは卵の入手は女性に頼まないといけないとのこと。だからこそ、巫女は女性限定で、姫様と勘違いされているボクでも女性がやってきたということだと思われる。
でも、この方法じゃ滅多にできないので、人型になって実際にやるらしい。そして、形成されてでてきた卵はゆっくりと、他の卵と変わらず数十年の時間をかけて新しい竜族として生まれてくるとのこと。産まれてくるまでの時間が長いため、卵が放置されていることも結構あるそうな。基本的に竜族って長命で力も持ってるから、この竜界で自由気ままに飛び回って生活しているらしい。
これらの方法以外が、竜王である金竜が持つ秘儀、竜魂転生。これは死した竜族の魂を世界に流れる龍脈から強制的に拾い上げ、マザードラゴンが産んだ卵や器に入れることで確実に竜族を新たに転生させることができる。数十年、数百年に一体という数しか産まれない竜族にとっては最重要であり、この秘儀が失われると滅亡待ったなし。ちなみにマザードラゴンが産んだ卵以外の卵にも普通に竜魂転生は有効なので、マザードラゴンというのはどちらかというと、子供を得られる優先権や竜王の補佐役といった役割の方が大きいらしい。後は次代の金竜を産める可能性があるぐらいとのこと。こちらは長い時間を共に居て金竜の力を身体に受け入れて内部を改変していかないといけないらしい。つまり、時間をかければかけるほど、レアな卵が産まれてくるということだと思う。
「それでは私達はこれで……」
「あ、待って。一つお願いがあるんだ。炎竜の人に特に」
「アタシ? 別にいいけれど……」
「報酬は名前をあげるってことでどうかな?」
「名前っ! オッケー。それなら何でも言って」
「じゃあ――」
ボクがやりたいことを伝えると、快く快諾してくれた。そんな訳で、切り札を作ろうと思う。銀竜のお姉さんも手伝ってくれるらしいので、二人の名前を考えないといけない。でも、これさえあれば火力不足はどうにかなるはず……きっと、多分。なればいいなぁ……
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