第48話
両手で抱いているメイシアをアイのところまで連れていくために加速する。本格的な空戦なんてやったことないし、基本的に逃げ回ることしかできないけれど、メイシアが後ろの目になって攻撃や防御をしてくれたからなんとかなった。
「このままいくよ!」
「はい」
体勢を入れ替えたので、これからはもう後ろが見えない。正直、怖いけれど大丈夫。だって、夜は吸血鬼の庭だから!
「アナちゃんっ、気付かれましたっ!」
アイちゃんがこっちに気付いたようで、竜の翼を大きく広げて空に上昇して離れていく。
「なんで逃げるのっ!」
「おそらく、アイちゃんもわかっているんでしょう。前を見てください。アイちゃんはこちらには攻撃してきません」
メイシアの言われたとおり、アイはこちらに攻撃をしかけてこない。けれど、襲ってくる他の飛行モンスターやプレイヤーには攻撃をしている。よくよく見るとこちらにも攻撃をしようてして、慌てて止めてを繰り返している。
「OK。全力で追うよ!」
「お願いします」
今出せる全速でアイに近付いていくと、彼女は必死に逃げていく。
「待ってください!」
「嫌だ、です!」
「アイちゃんっ!」
「まてぇぇぇっ!」
急上昇していくアイについてこっちも急上昇する。すると螺旋を描いていくので、同じように螺旋をとって上がっていく。近付いたらメイシアが手を伸ばすけれど、アイはすぐに翼を使って後ろに下がったり、力を抜いて落下したりする。
何度も何度も高速でアイを掴もうとメイシアが手を伸ばすけれど、後少しのところで邪魔が入ったりしてうまいこといかない。
また限界高度まで上昇してから降下して追うけれど、向こうのほうが速い。でも、無数の魔法陣を展開して、妨害に様々な属性魔法を撃ってくる。ただ、それらは直撃せずに私達の進路や横で爆発して、衝撃で進路がずれる程度。こちらを落とすつもりなんてないようだけど、身体が流されるので距離が離される。
こっちにはメイシアというハンデもあるし……追いつくのはきつい。加速する裏技はあるけど、それをすると更に距離を開けられて逃げられる場合がある。どうにかして……待てよ。いい方法があったや。
「メイシア、ごめんね?」
「え? どうしました?」
「アイちゃぁぁんっ! 今からメイシアを投げるから、拾ってねぇぇぇっ!」
「ええぇぇぇぇぇえっ!!」
そのまま今の全力でアイに向かってメイシアをぶん投げる。吸血鬼の姫が夜の状態で全力投擲をしたら、メイシアは弾丸のように飛んでいく。
「いやぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ママっ!」
高高度からなので、地上につくまでは少し時間がある。例えアイが助けなくても強化すればギリギリ間に合う計算だよ。でも、攻撃しようとしていたアイが慌てて軌道を変えてメイシアを抱き留めにいったので、大丈夫。
それによって攻撃がキャンセルされたのか、魔法陣が霧散していく。これで安心……なんてことはない。心配ごとがいっぱいある。なので、私は懐からお兄ちゃんの血液が入った瓶を取り出して、中身を煽る。
すると全身から力が溢れてくる。メイシアの血も美味しくて得られる力も多いけれど、お兄ちゃんの血の方がやっぱりいい。そんな
落ちていったメイシアをアイが抱きしめようとした瞬間、アイの身体から黒い槍がでてきてメイシアを貫こうとする。それを見て、私はすぐに今まで以上の速度で急降下していく。予想と違っていた。アイの意思に関係なく攻撃するなんて思わなかった。自動防御かなんかなのかもしれない。
「ママっ! 駄目っ、止まってっ、止まれですっ! ママぁぁぁっ!」
必死に声をあげて止めようとするけれど、メイシアは身体から光を発しながら素手で槍を掴む。
「邪魔です」
「え? ええええぇぇっ!?」
そして、そのまま圧し折って投げ捨て、アイを抱きしめる。メイシアの掌からは血が流れていっている。
「やっと捕まえましたよ、アイちゃん」
「まっ、ママ……ちっ、血が……」
「これくらいは大丈夫ですよ。それよりも、なぜこのようなことをしたのですか?」
「ぱっ、パパがいなくなっちゃって、皆に襲われるって……」
「それなら私達と一緒に探せば良かったのです。家族なんですから、いくらでも協力しますし、私達にとってもユーリは大切な人なんですからね」
「ごめんなさい……です……」
二人でどんどん話し合っていく。こういうことは母親のメイシアが一番。まあ、本当の娘じゃないんだけど……あれ? 身体を別けて作ったってことは本当の娘か。って、そんなことをしている場合じゃないよね。二人だけの世界を作ってるみたいだけど、もうすぐ地上に激突しちゃうしね!
「お二人さん、もう危ないよ」
二人を追い越し、背後からアイを抱きしめてそのまま速度を殺していく。かなり加速がついていたせいでどんどん地上が近付いてくる。
「どっ、どうしましょう!」
「どうもこうも、アイ、メイシアをお願いね」
「わっ、わかったのです」
「あ、あのっ、アナちゃん?」
「回転して吹っ飛ばす!」
二人を掴んだまま身体を何度も回転させて思いっきり上に吹き飛ばす。二人が上空に上がった代わりに私が更に加速して地面に激突する。
「かはっ!?」
身体が地面に激突して周りが陥没していく。激痛こそないけれど、衝撃がきて肺にたまった空気を吐き出し、身体が動かなくなる。このままじゃ死んでセーブポイントに復活になってしまう。普通なら。でも、私は大丈夫。
「みすとふぉーむ」
ボロボロになって手足があらぬ方向に向いていても、一旦身体を霧にして再構築すればすぐに治っちゃう。
霧から普通の身体に戻れば手足は元通り。でも、動きにくい。身体中に痛みがあるからだと思う。痛覚をほとんど切ってるからわからないけど、身体中から霧がでているから間違いないね。
「ん~まあ、大丈夫かな」
身体を捻って確認してから、ポーチからお姉ちゃんの血液を取り出して飲む。これで回復速度も加速するし、能力にブーストもかかる。
瓶を握って砕き、周りの敵に向かって投げる。物凄い速度で飛んで行った欠片達は弾丸となって敵を蹂躙する。まあ、これで倒れない奴もいるだろうし、その間にポーチから傘を取り出す。
「無茶をしますね」
「アナお姉ちゃん大丈夫か、です」
メイシアを抱えたアイが翼をはためかしながら空から降りてくる。
「平気だよ~。これでも吸血鬼のお姫様だからね。とっても頑丈にできているから!」
「確かにそのようですね」
「それよりもアイは大丈夫なの?」
「大丈夫、です」
「そっか。でも、力は使ったら駄目だよ」
「そうです。絶対に邪竜の力は使わないでくださいね」
「わかった、です。アイもこのもも飲み込まれるのはごめんだ、です」
私達がいるクレーターのせいで周りは木々もない。なので、私は傘を構え、メイシアは大きな槍を取り出す。アイも今度はダブルハーケンを取り出して構える。
砂煙の向こうからやってきたのは巨人族の群れ。70はいそうなあれらを相手するのは本当に大変そう。でも、やるしかない。
「よ~し、逃げるよ」
「逃げるんですか?」
「三人で勝てると思う?」
「無理ですね」
「前と同じ状況になればいけるかも、です……」
「「それは駄目」」
「でも、逃げられねー、です」
確かにこのまま逃げても追いつかれる可能性が高い。巨人族の移動速度は遅いけれど、力が強いので木々を引き抜いて投げ槍としてきたらそれだけで危険だしね。
「やはりというか、殿がいりますね」
「というわけで、アナがなるよ。メイシアはアイと一緒に逃げて」
「待ってください。ここは空を飛べない私が残るべきところです」
「駄目だよ。母親であるメイシアがいたほうがアイの心からしていいはずだし、邪竜と正反対の属性を持っているんだから抑えられるでしょ」
「死ぬ気か、です」
「死ぬ気はないけど、まあ……ここは任せて先に行けってことだよ」
「……アナちゃん……」
「それにこれはゲームだよ。リアルだけど、本当に死ぬわけじゃない。だから平気。それにぃ~倒しちゃっても構わないよね」
ニヤリと笑い、二人を見詰める。二人はちょっと引いちゃったみたい。でもこれでいい。
「ほら、いったいった」
「わかりました。気をつけて」
「あの、その……」
「大丈夫だよ。お姉ちゃん……ううん、お兄ちゃんとアイを狙ってるんだから、これはアナの戦いでもあるんだよ。それにおかーさんが子供を守るのは当然だよね!」
「……アナママ……」
「ほら、いっておいで」
「はい、です」
「アナ、無茶はしないでくださいね」
アイがメイシアを抱き上げて浮かび上がり、飛んでいく。ここからアナが全力を超えて、限界も超えて妨害してやる。
「歌え、歌え、生きとし生ける生者に怨嗟の歌を」
閉じた傘で地面をつき、死霊魔法を発動させる。広範囲に魔法陣が展開され、そこから無数の怨霊が出てくる。夜の上にお兄ちゃんの血でブーストしている上にできたての大量の血肉が大地にあり、怨霊もったぷりと存在している。
「歌え、歌え、黄泉より現世へと蘇るために、死へと誘う死者の歌を」
大量の怨霊が歌いながら空を飛び、巨人族の妨害を開始する。他にも戦力を呼び出す。
「現世に黄泉帰りし怨霊よ、その力を持って死した肉体を呼び戻せ」
続いて地面から無数の腕大量にでてくる。地面からでてくる死体の数々は人だけではなく、様々なモンスターも一緒にでてきている。
「さ~て、グールやゾンビ共、ヴァンパイア・プリンセス、アナスタシアの名の下に告げる。巨人共を撃ち滅ぼせ」
「「「うぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」」」
数には数で対抗する。これだけでは足りないので、空を飛んで巨人族の群れへと突撃する。相手側は迎撃のために木々や魔法で作った岩を投げてくる。ゾンビやグールはそれらに爆発四散するけれど、十分に盾としての役割を果たしてくれている。
本命は基本的に物理攻撃しかできない巨人族の天敵、ゴースト達だ。ゴーストも魔法使いがなれば魔法を使える。なので遠距離攻撃を繰り返していく。
「さあ、
そらからドロップアイテムと血をばら撒き、けらけらと笑いながら告げる。ばら撒いたドロップアイテムと血は群れの中心で血液でできたモンスターとなり、襲い掛かっていく。
「死ねぇえええええええぇっ! 小蠅が!」
中でも一際大きい一つ目の巨人が……って、どうみてもサイクロプスじゃないですか、やだー。
「これ、本当にきつすぎる。まあ、止めないけどね!」
サイクロプスの周りを飛びながら、相手の攻撃を避けて他の巨人に命中させて殺す。殺した敵は死霊魔法でゾンビ化してこちらの戦力にする。
「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
「うわっ!」
振るわれる棍棒を大地に染み渡る血液を操作して硬化させ、横から殴って防ぐ。他の巨人から攻撃がとんでくる。味方も敵もないようで、味方が巻き込まれても気にせず攻撃してくるので戦場はどんどん混沌としていっている。振り下ろされる棍棒を空を飛びながら下がり、後ろのトロールの瞳に傘を突き刺して魔法を仕込んでから持ち上げ、サイクロプスに放り投げる。サイクロプスはそれを片手で受け止めて投げ返そうとしてくる。そのタイミングで仕込んだ魔法を発動させ、トロールの内部の血液を爆発させる。血液の礫となったトロールがサイクロプスの瞳を潰していく。
「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」
目を潰されたことで怒り狂って言語すらなくしたみたい。でも、全身が赤いオーラに包まれて狂化モードに入った。狂化モードは攻撃力が格段に上昇する代わりに防御力は下がる。でも、サイクロプスには再生能力があるせいで、不死者のアナとは時間による決着がつかなさそう。
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