第47話 メイシアとアナスタシアのアイちゃん救出戦1



 私とアナちゃんはあれからすぐにアイちゃんを探しにでています。大切な娘のためですから、休んでいる暇もありません。

 北から大河を渡り、南に到着した私達はすぐに森の中を進んでいきます。少しするとアナちゃんが私に聞いてきました。


「どうやって探すの? いくらディーナが情報収集してくれるといっても、二人だけじゃキツイよ?」

「人海戦術です。アナちゃんの吸血魔法を使えば可能だと思います」

「え、ちょっと無理っぽいけど……」

「普通なら無理だと思います。私達はアイちゃんの匂いがついている衣服などがあります。それを使えば可能じゃないですか?」

「ん~? あっ、ウルフを使うんだねっ!」

「そうです。ウルフ達を大量に作って、彼等の鼻で探させます。例えば発見したら遠吠え一回させるとかですね。それで方角がわかります。これならできると思いますが、どうでしょうか?」

「やってみよう。でも、血液が足りないかも」

「では……」


 周りを見てみると、他にプレイヤーはいません。これなら見られることもないでしょう。なので、頭を肩の方に寄せて首筋を見せます。元々肩が露出している副なのでこれだけですみます。


「いいの?」

「血を吸われるのは……正直、怖いです。でも、アイちゃんを助けるのに必要なことですから、頑張ります。お母さんですし……」

「うん、わかった。じゃあ、こっちでいただくね」


 アナちゃんは私の腕を掴んで木々の方へと移動し、私が木に背中を預けるような体勢にしました。そのまま首筋に顔を近づけて――


「ひぅっ!? なっ、なんでなめてっ!」

「消毒だよ~」


 ぬるぬるした舌が首筋を這いまわり、身体がビクッ、ビクッと震えていきます。更にアナちゃんは私の臭いまで嗅いできました。


「あっ、アナちゃんっ!」

「メイシアって、戦乙女のせいか……とっても美味しそうって前々から思ってたんだよね……」


 まるで獲物を見詰めメルかのような怪しい気配を発する真紅の瞳が見詰めてきます。こっ、これは危ない気配がします。急いで逃げないと――


「逃がさないよ?」


 引き剥がそうと動かした両腕はアナちゃんの小さな両手に捕まれ、そのまま開いた状態で後ろの木に押し付けられます。


「こっ、怖いです! いっ、一旦落ち着きましょう。ね? ね? 落ち着いて……」

「やだ。もうスイッチ入っちゃった」


 私を見詰めながら、口を開いたアナちゃん。彼女の犬歯は伸びていて、すごく怖いです。


「り、倫理コードに弾かれ……」

「無理だよ? だって、アナ達は互いに解除設定にしているしね」

「ひゃっ!?」


 今度は頬っぺたをペロリと舐められました。そのまま舌を這わせて私の首筋へと下がっていきます。それがこそばゆくて、気持ち悪くて……


「やっ、やめてくれないと、ゆっ、ユーリにいいますよ!」


 叫ぶと同時にアナちゃんは止まりました。それから、アナちゃんは私と互いの瞳を合わせてじーと見詰めてきっます。


「あっ、あの……」

「止めたら、アイを探せないよ?」

「あっ……」


 そうでした。あまりの恐怖と変なシチュエーションに混乱しましたが、これはアイちゃんを探すために必要な行為で……


「って、待ってください。血を吸うなら別に首筋じゃなくて腕からでもいいですし、ましてや舐める必要なんてありませんよね!」

「え? 吸血鬼ってこうやって吸うものでしょ?」


 キョトンとしながら告げてくるアナちゃん。それを見て、私は一つの仮説を思いつきました。


「もしかして、そういう趣味とかじゃなくて、吸血鬼っぽいってだけでやってます?」

「? そういう趣味がなにかはわからないけど、吸血鬼っぽいからやってるだけだよ。ネットで書いてあったの! 頑張って勉強してるんだよ!」

「ほ、他の人にもしていますか?」

「お兄ちゃん以外にはしていないよ。他の男の人にこんなことするなんて、気持ち悪いし。ディーは機械だから流れているのは血じゃなくてオイルか変な物だろうし、飲め多もんじゃないからね。だから、メイシアのは前々から飲んでみたかったの。女の子だと血を吸いたいって思ったのもメイシアぐらいかな。メイシアは家族だし、知らない人じゃないから」


 どうやら、他に女の子をこんな風に襲ったことはないようなので安心です。それにアナちゃんにとって私も家族の一員になっているんですね。確かに間違いではないですが、そう改めて言われると少し嬉しいです。だって、家族のように大切に思ってくれているということですしね。


「わかりました。それでは話を戻しますが、吸血鬼のロールプレイとして演じるのはいいんですが、これは止めてください。腕から血を吸ってください」

「やだ」

「やだって……」

「吸血鬼はやっぱり首から吸わないとね!」


 額を合わせ、少し動くだけでキスできるような近さの状態で話していますので、はやくこの体勢からも抜け出したいです。それにアナちゃんは諦めそうにもないですし、アイちゃんを探すためにもここは我慢しましょう。


「わかりました。首から血を吸うのは妥協します」

「やった!」

「ですが……?」

「ですが?」

「舐めるのはなしです。いいですね?」

「ん~」

「そういうのはアナちゃんの大好きなユーリにやってください。女性同士でやるものではありません。わかりましたか?」

「うん、わかった。それでいくよ」


 やりました。これで貞操の危機は回避できました。後はユーリに任せましょう。おそらく、ディーちゃんも一緒になってアナちゃんを説得するはずです。その時にユーリ達の援護に回れば大丈夫でしょう。多分。


「じゃあ、カプっといっちゃうね」

「どっ、どうぞ」

「はむっ」

「っ!?」


 露出させている肩に柔らかい唇の感触と、冷たい唾液の感触がしたら、今度は痛みが走って太い異物が私の身体を無理矢理突き進んでくる感触がします。そのまま少し我慢していると、痛みが引いていき、今度は吸われるような感じがしたと思ったらふわふわするような気持がよい感覚に襲われていきます。更に身体も発熱したのか、熱くなってきてどんどん力が抜けていきます。


「はぁ……はぁ……アナ、ちゃん……んっ、んんっ……あっ、あぁっ……んぁっ、んっ……」


 漏れてでてくる吐息と湧き出しくる声を我慢しながら、ぼーと気持ち良さに身を任せていると、熱があるのに次第に身体が重くなって寒くなってくるという不思議な感触がします。

 温かいのに寒いという相反する感覚に不思議に思ってヒットポイントゲージの場所をみます。そこにはなにもありません。ここはチュートリアルフィールドではないので、ヒットポイントゲージは見えなくなります。チュートリアル終了クエストは絶対にやらないと進めなくなるので、こればかりは防ぐ方法がありません。

 それでも自分のヒットポイントゲージを確認したければステータスから表示できます。モンスターのヒットポイントゲージを確認するのはライブラリーから確認して暗記しないといけません。それ以外は鑑定のスキル、それも魔眼タイプが必要です。支援職にとっては必須と呼ばれるスキルです。なにせ怪我の感じでどれだけヒットポイントゲージが減ってるかを判断し、回復魔法を撃たなければいけません。外傷はこれでもいいのですが、内部の傷に関しては鑑定しないとわかりません。

 まあ、パーティーの一人は最低でも鑑定系のスキルがないと、どれが良い素材かどうかもわかりませんし、拾ってきたら雑草や石だったとかよくありますので採取などはできません。ハンティングで生計を立てるしかないのです。


「ふわぁっ」


 本格的に力が入らなくなってきて、身体がずり落ちそうになるのですが、アナちゃんが抱きしめて身体を支えてくれます。

 これはいよいよ変な感じがするので、メニュー画面を開いてステータスを確認すると、ヒットポイントゲージとマジックポイントゲージが一割を切っていました。


「…………アナちゃんしゅとっぷですっ!」

「ふぇ? ろーしたの?」

「しっ、死んじゃいますっ!」

「しょんなはず……」

「ユーリと同じ感覚で吸っちゃらめぇれすぅっ!」

「あっ」


 アナちゃんも気付いてくれたようで、慌てて口を首筋から外してくれました。その時にアナちゃんが離れたせいで、私は地面にへたり込んでしまいました。

 上を向くと、アナちゃんが口についた私の血液を舌で舐め取ってから腕で拭っていました。


「それじゃあ、お願いしますね……」

「任せて」


 アナちゃんが血液でできたウルフを呼び出すためにウルフのドロップアイテムと血液をばら撒きます。私の血は増幅アイテムみたいな感じらしいです。

 血液でできた真っ赤な狼達が作り出されている姿をみていると、身体が震えてきてガチガチと歯を振るわせて打ち付けるようになりました。

 私は震える手でポーチからポーションを取り出しますが、震える手のせいで地面に落としてしまいます。


「おっと。メイシア、大丈夫?」

「だ、大丈夫……です……」

「大丈夫じゃないよね。飲める?」

「はっ、はい……」


 蓋を開けて口元に運んでくれますが、震えているせいでほとんど零してしまいます。


「アナは回復魔法とか使えないし……メイシアは無理そうだし……うん、こうなったら仕方ないよね。メイシア、ごめんね!」

「え? んぶっ!?」


 アナちゃんはポーションを口に含むと、無理矢理私に口付けをして、そのままポーションを流し込んできました。口の中に入ってくるポーションが食道を通って胃に流れ込むと、身体が温かくなっていきます。


「ん。震えはもう大丈夫?」

「はい……ありがとございます……」

「アナのせいだしね。ごめんね、本当はお兄ちゃんとしたかったんだろうけど……」

「そっ、そんなことはありませんっ」


 アナちゃんに言われた言葉で想像してしまって、顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかります。ですので、慌てて顔を両手で隠します。


「耳まで真っ赤だから、無駄だよ?」

「五月蠅いですっ! それよりも、これを……」

「うん。狼さん達、見つけたら遠吠え一回。いなかった連続で二回だからね。じゃあ、狩りの時間だよ。獲物以外は無視して戦闘になっても逃げるように。行けっ!」


 18匹の血液の狼ウルフ・ブラッドがアイちゃんを探すために放たれました。モンスターやプレイヤーに襲われても逃げに徹するでしょうし、広範囲の探索ができると思います。


「ディーから教えてもらった方角に多めに放ったけど、これからどうする?」

「休憩、させてください……」

「そうしようか」


 アナちゃんは毛布を取り出してから私の隣に座って抱き着いてきます。二人で毛布に包まって一緒に暖を取ります。


「まだ寒い?」

「少し寒いです」

「そっか。ごめんね。お兄ちゃん……お姉ちゃんと同じ感覚で吸っちゃった」

「ユーリは回復能力というか、再生能力がありますから、あれだけ吸われても大丈夫みたいですが……」

「多分そうだと思う。吸血って血液だけじゃなくて、生命力と魔力、両方吸ってるみたい。吸い過ぎると干乾びてミイラになるんだって」

「そうなんですか?」


 アナちゃんは私の隣で掲示板を開いて吸血鬼の吸血に関するまとめ記事を読んでいました。それを隣から覗いて一緒に見ます。


「眷属になると思っていましたが……」

「それは特別なスキルがいるんだって。アナだとまだ取れても劣化した眷属しか作れないみたい。習得には吸血回数と摂取など様々な方法で取り込んだ血液の量が常に一定値を超えた状態を維持し続ける必要があるみたい」

「なるほど。リソースを一定量貯めて維持し続けないといけないとなると、大変ですね」

「そうだね。基本的に吸血魔法が使えないってことだし……あと、種族ランクによって貯めなきゃいけない量は多いみたい」

「大変ですね……」

「お姉ちゃんのお蔭で質で補うこともできるみたいだけど、ランクの低い血液じゃ、その一定値にも数えられないみたい。強いモンスターをいっぱい狩らないと駄目とか、きつすぎるよ」


 そこでバランスを取っているのでしょう。アナちゃんは確か、ヴァンパイア・プリンセス。つまり、ユーリと同じく吸血鬼の王族ということになります。最高位に近いので、必要な量もかなり多いことでしょう。


「あ、なにこれ!」

「どうしました?」

「えっとね……」


 掲示板には百合の美少女吸血鬼と美少女を発見。その掲示板に森で吸血行為を含めてエッチィことをしている画像が張られています。もちろん、その画像は私とアナちゃんです。どうやら覗き魔がいたようですね。


「じょ、除去依頼を出してください!」

「うん、任せて。あとディーナにも頼んでおこう」


 アナちゃんが対応している間に、もう一つの事実を知りました。アナちゃんを誑かして唆したのはこの掲示板の人みたいです。


「アナちゃん、この掲示板で吸血鬼のロールプレイとか相談しましたか?」

「うん、したよ」

「なるほど。つまり、これは計画された行為というわけですね。ちょっとGMコールしましょう」

「流石にこれは許せないね」


 GMさんに連絡したら、すぐに対応してくれました。アナちゃんも厳重注意を受けましたが、被害者は私だけなのでこちらは大丈夫です。誑かした人にはキツイお仕置きをお願いしておきました。




 それから、しばらくゆっくりとして体調が元に戻ると行動を開始します。一応、ここからは武器も出しておきます。


「あれ、槍が違うね。随分と短いけど、いいの?」

「森の中では長槍よりも短槍の方が使い易いですからね。長槍だとどうしても木々にぶつかりますから、取り回しのいい短槍です」

「攻撃力なさそうだけど、大丈夫? それに片手が空いてるみたいだけど……」

「大丈夫ですよ。そもそも今回は防御優先です。短槍で相手を妨害しつつ、魔法を使います。基本的に火力はアナちゃんに頼みますので、前衛もお願いします」

「え? アナは魔法使いで後衛……」

「夜の吸血鬼が何を言っているんですか。その傘を盾にして頑張ってください。援護はしますから。それにさっきおでまだ

 感覚が変なんですからね」

「は、は~い。頑張ります」


 深い深い森の中、アナちゃんが前を歩いて邪魔な木々を手に持つ傘で粉砕して道を作ってくれます。私は作られた道を戦乙女の加護を使いながらついていくだけです。



 歩いていると、掲示板に書き込みがされた音が脳内に響きます。


「アナちゃん、少し待ってください」

「は~い」


 アナちゃんが立ち止まって警戒してくれるので、私は掲示板を開きます。この掲示板など見れるのは基本的に本人が他の行動をしていない時だけです。馬車など特殊な空間以外だと、動くだけで使えなくなります。

 見る掲示板のスレッドにはパスワードが設定されており、私達しか見ることができません。この掲示板を通してディーちゃんとやりとりをします。本当はチャットがいいのですが、その機能はまだ実装されていません。メール機能も伝書鳩を使った感じですしね。それも戦闘エリアには届きませんのでこちらを使うしかありません。

 さて、ディーちゃんからの連絡を読んでいくと、ユーリが色々とやってくれたようです。


「アナちゃん、一応竜族は味方になってくれるようです。ただ、油断はできません。あくまでも、ユーリが試練を受けて王になったらみたいです」

「それって試練が成功しなかったら、駄目ってことだよね?」

「そうですね。ですから、一応です。私達だけで助け出せるのが一番いいです」

「でも、王様かぁ~結構良さそうだよね?」

「いえ、ボロボロで摘みかけの竜族を率いても後が大変ですよ」

「そうなの?」

「中立地帯に進軍しただけで、他の種族からしたら攻める理由になりますしね。この世界の最大勢力は竜族、巨人族、魔族、神族ですが、その一角を崩せるチャンスです。もっとも、魔族と神族からしたら生かさず殺さずで譲歩を引き出すのでしょうね。これを防ぐにはそれこそ、一回国を解体するしかありませんよ。クーデターでも起こして、国を作り変えて中立地帯から完全に撤退すれば一応はけじめをつけたことになりますから」

「屁理屈じゃん」

「ええ。でも、これをするにも代償が必要ですし、そこまでするかどうかはわかりません。それにしても、ユーリが国家運営とか無理だと思うんですけど……仕事もあるでしょうし」

「常にログインしないといけないといけないもんね~」


 話している途中で掲示板を読み終えたので、返事を書いていたら遠吠えが聞こえてきました。その回数は短く一回だけ。


「あっちか」

「いきましょう」


 掲示板に“アイちゃんを発見したので今から向かいます”と書いてからアナちゃんに向かって両手を広げます。


「最速?」

「最速です」

「他のモンスターをトレインしちゃうよ?」

「かまいません。今のアイちゃんは普通じゃありません。まともに行っても接触すらできないかもしれません」

「囮に使うんだね」

「タイミングはお任せします」

「月はまだだけど、夕暮れ時にはなったね。よ~し、じゃあいっちゃおう! 覚悟はいい?」

「もちろんです」

「ではでは、スリル満点な空の旅をお届けしよう」


 アナちゃんが背中から大きなコウモリの翼を広げます。そして、私の前から抱き着いて脇に手を入れて持ち上げていきます。

 そのまま力強く羽ばたくと、すぐに身体が浮いていきます。飛行は楽しいのですが、問題はあります。


「「「GYRUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」」」


 空を飛んだ瞬間、虫型や鳥型のモンスター達に襲われるのです。そう、空はかなりの魔境となっていて、モンスターの視界に入ると次々と襲ってくるのです。


「いやっほぉおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」


 アナちゃんは大喜びでどんどん加速していきます。急速に上昇したり下降したり、急停止や急加速はあたりまえ。暴走しているかのように敵の攻撃を避けて飛び回り、目的の方向に進んでいきます。







「見えましたっ! 進路を少し右に変更してください!」

「あれだねっ!」


 しばらく飛行して進んでいくと、激しい戦いをしている場所を発見しました。木々は全て溶けたのか、どろどろになって黒い沼のようになっています。その周りは燃え盛っており、とてもじゃありませんがまもとには進めなさそうです。

 その中心に変わり果てたアイちゃんの痛々しい姿がありました。背中からは竜の翼、お尻からは竜の尻尾、腕と足は黒色の鱗に覆われていて剣が突き刺さったりしています。他にも無数の傷口から黒い血液がでているようです。


「誰か、戦っているね」

「ですね」


 黒い沼の中、数人の人達が魔法を必死の形相で撃っています。特大の炎や、岩の攻撃をアイちゃんは気にせずに受けて、身体の一部が吹き飛び、次の瞬間にはその吹き飛んだ部分が沼の泥と合わさって黒いアイちゃんを生み出して人に襲い掛かっていきます。よくよくみれば、アイちゃんの姿をした存在がいっぱいいます。


「ど、どうする? 突っ込むことは確定だよね!」

「当たり前です! というか、止まったらこっちが死にますよ!」

「だよねっ!」


 私達の後ろには一切処理していない大量のモンスターが迫ってきているのです。少しでも速度を緩めたら、こちらがやられます。


「このまま降下して、地面すれすれで円を描くように移動して周りにモンスターをばら撒いてください。それから上昇して降下。低空飛行に変えて後ろのを泥に突っ込ませてください。その後はアイちゃんを目指して一定距離になったら私を投下してください」

「え、メイシア死んじゃうよ?」

「大丈夫です。アイちゃんに抱き着きますから」

「それ、多分殺され……」

「武器をもってなければ大丈夫でしょう。それに殺されてもアイちゃんだけは元に戻してみせます」

「わかった。やってみる!」


 アナちゃんは私の指示したとおり、急降下してモンスター達を沼に誘導しえて円を書くように飛んでいきます。モンスター達は止まれずにそのまま泥に入って沈んでいったり、ついてきてもアイちゃんの分身に襲われてやられていきます。ここにいる他の人達はアイちゃんを殺そうとする人達なので、私達にとっては敵です。MPKになるのでどうかとは思いますが、これは仕方がありません。娘を守るためなのですから。


「アナちゃん、できたら彼等のところにはモンスターがいかないように誘導してください。攻撃してきたら構いませんが」

「了解!」


 モンスター達を連れていると、アイちゃんの分身やプレイヤーの人達にも攻撃されますが、夕暮れ時で視界が悪くなっているうえにアナちゃんに向かって空から大量の攻撃が飛んできますから相手も悲惨な目にあいます。私達は互いに抱き合う状態になっているので、私が後ろを伝えることができます。それに障壁の魔法を使って攻撃を逸らすことだってできます。


「右に20m、次、左に30m。上昇してください」

「本当に忙しいねっ!」


 飛びながら大量の血液を使ってアナちゃんも迎撃してくれます。


「もういいよね」

「はい。やっちゃってください」

「ダークネスミストっ!」


 そして、円を書くように移動していたアナちゃんがダークネスミストの魔法を使って黒い霧を周りに噴き出し、夜の闇を再現します。これによってアナちゃんのスピードは格段に上がる上に、モンスター達はこちらを完全に見失います。モンスター全てが暗視を持っているわけではありません。

 こうなると戦闘フィールドの中に大量の飛行型モンスターがタゲが外れた状態でばら撒かれることになります。モンスター達は当然、目につく人達に襲い掛かっていきます。周りは完全な乱戦状態となりましたので、予定通りにアイちゃんに突撃してもらいます。



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