第40話 森のくまりゅうさん3
ワニことアリゲーターから逃げられたボクはセーフティーエリアに入り、後ろを振り返ってみる。アリゲーター達は橋を噛み砕き、こちらにも近付いてこようとする。そんな彼等がセーフティーエリアに近付くと、球形の見えない壁に塞がれている。アリゲーター達は球形に噛みつくけれど入ってこれない。こちらから攻撃したらよさそうだけど、人がきたらまずい。幸い、今は人がいないので今のうちに奥に行こう。
少し進むと案内板があった。この
それよりも、地図を確認すると宿屋のマークがあったので少し南に進んでみる。
※※※
7分ほど歩くと中心部には沢山のキャンプが立ち並んでいるのが見えてきた。人通りも多く、沢山の種族のプレイヤーが存在する。
「いらっしゃいませっ! テントの貸し出しをやっていますよ!」
どうやら、プレイヤーにテントが高値で貸し出されているみたい。なんというか、暴利な値段設定だ。一人用のテントが一つ2000Gとか高すぎる。
ボクのアイテムストレージの中には運営が用意してくれたテントもあるので大丈夫……いや、嫌な予感がするしかりちゃおう。
「おい! アーマーベアがいるぞ!」
「小さいな」
「何故セーフティーエリアに……」
色々と言われているけれど、気にせずに移動する。お店の前に立つと、色々なテントが売っている。
「お一つどうですか? 1人用テント2000Gです。2000G追加で大きさが増えていきます」
「では一つ、それなりに広いテントを貸してください。代金は素材と交換で」
「かしこまりました」
10000Gを支払って5人用のテントを借りる。高い出費だけど仕方がない。大きなテントケースを受け取る。どうせ皆がくるだろうしね。
「もしかしてプレイヤーか?」
「どうだろう。反応がわからないが……」
気にせずに進んでいくと、ボクを見て周りが驚いている。こちらを気にしているみたいだけど、気にせずに堂々と行動する。
このキャンプには露店もあって修理から武器など色々と売っているので、ボクも商売をするのはいいかもしれない。とりあえず、今は金属を買おうかな。スズメバチの針は革を貫通してきたし、金属の装甲は増やしておきたいからね。
「すいません、これください。ブツブツ交換で」
「はいよ」
鉄鉱石とボロボロの剣、鉄の塊を購入する。欲しい物を手に入れてから、奥に歩いていく。なんというか、スペースがない。それほどここは繁盛している。
でも、これは都合がいい。木を隠すのなら森の中というし、人を隠すのなら人の中。ボクは今、人の姿だし翼もない。大丈夫だと思う。
まあ、目立つけれど逆にこんな姿をしているからこそ、誰もボクが金竜だと思わない。それを利用する。
スペースを見つけたので、そこでテントを広げて作る。着ぐるみのままじゃやりずらかったけれどなんとかできた。中は十分に広いので、扉をしっかりと絞めてロックする。
これで誰も入ってこれない。そんなわけできぐるみを脱いでいく。やっぱり中は暑いので少し大変だ。大分汗が流れているので、身体を拭いていく。
「んっ」
感覚は通常と同じなので少し変な感じがする。身体を綺麗に拭いてから、着ぐるみのお掃除を開始する。一応、綺麗にしてから次の作業に入る。買った鉄鉱石から金属操作で鉄を抽出。その鉄を
拭いてから中側の各所に金属の装甲を施しておく。これで大丈夫だと思う。
「あ、そうだ。忘れてた。おいで、ドライアド」
召喚の魔法陣が生まれてきた。魔法陣から植物がでてくる。その後、花が開いてドライアドが現れる。
「回復しに……あれ、全回復してる?」
「そうだよ。回復は必要ないから、いくらでも呼んでいいよね? というわけで一緒にご飯を食べよう」
「あーうー」
ドライアドだから、お水か果物をあげよう。そうだ、ガチャで当たった果実をあげてみよう。
「食べない?」
「……食べる……」
果実とお水をあげると美味しそうに食べて飲んでいく。そのまま食事をしている姿を楽しんでいる。ドライアドの顔を撫でながらボクもイチゴシロップを水で割ってジュースにして楽しんでいく。彼女も欲しそうにしているのであげてみる。
「こっちもあげるねー」
「ん。お礼にこれ、あげる」
「いいの?」
「借り、作らない」
「ありがとう」
美味しい果実を貰った。それから凄く嫌な予感がする。
「……食べないの……?」
「……う……食べる……」
ドライアドの視線に負けて果実を食べてみる。とっても美味しい。気が付いたら倒れていた。
※※※
気付いたらドライアドが居なくなっていた。とりあえず、きぐるみを着て外にでると騒ぎが起きている。
「おいっ、やべえぞっ!」
「どうした?」
「対岸に馬鹿みたいな数のモンスターが集まってやがる!」
「セーフティーエリアなんだから大丈夫だろ」
ボクが外に出るとそんな声が聞こえてきた。なので河原まで移動したら、向こう側が凄いことになっていた。地面を埋め尽くすかのような大量のモンスター。空にも同数のモンスターがいて正に総力戦といったような光景。もうこれは本当にやばい。
「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」
「Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!!」
空にはグリフォン達がいて、地上には巨人や様々なモンスターがいる。彼等の度重なる攻撃によってセーフティーエリアの球体に罅が入っていく。このままだとセーフティーエリアが破壊される。
ボクのせいだし、なんとかしないといけない。これは流石に他の人に迷惑がかかりすぎる。いっそ正体を明かしてイベントを終わらせるのもありかもしれない。
「全員、安心しろ。今回は強い味方がいる」
あまりの規模にイベントを終わらせようかと考えていると、動きが起きた。桃色の長い髪の毛をお下げにした女の子が堂々と声を上げた。彼女は頭部に複数の小さな角があり、背中にも大きな翼を広げている。彼女はドレスにアーマーを装備したような不思議な恰好をしている。
「これより竜族による殲滅戦を開始すると通達がきた。我等の仕事は上陸を防止することと、細かな敵の掃討だ。それも我等、
「本当に大丈夫なのか?」
「イルル様がいうなら……」
「まあ、見ているがいい」
周りが暗くなり、空を見上げると10体の成竜であろう色とりどりのとても大きなドラゴン達が飛んでいた。彼等は口を開けると一斉に巨大なビームのような光の奔流を解き放つ。その光はモンスターの集団に命中すると、大爆発を起こして周りの密林ごと消し飛ばすような破壊力だ。
射線上にいた空のモンスターや地上のモンスターは煙が張れると存在せず、巨大なクレーターが複数存在していた。
これはドライアド達に嫌われるのも納得な破壊規模。地形が変わってしまっている。
「これから対岸に乗り込んで掃討戦を開始する。参加する者の条件はレベル20以上だ。それ以下の者達は悪いが、待っていてくれ。流石に20以下だと強いモンスターには対抗できない。ここから遠距離攻撃で上陸をさせないで欲しい」
「グリフォンとかいるみたいだし、瞬殺だろうな」
「俺もやめとこー」
ん~見た感じも聞いた感じも大丈夫そうだね。本当に成竜になった竜族は桁違い強いみたい。まあ、これでボクはすぐに名乗り出る必要がなくなったし、情報を集めよう。竜族がボクをどう扱うかによって、ボクの対応はかわるしね。悪いけど、なんの情報もなく信じることはできない。
おじいちゃんにはお世話になったけれど、ボクにとっての最優先は人形を作ることで、その次が大切な家族のこと。その次に竜族のことくらいかな。作らせてもらえないようになったらそれこそゲームをやる理由がなくなるしね。
しかし、これからどうしようかな?
無理に掃討戦に参加することもできるだろうけど、その必要はないし、無駄な危険がおきる。それなら後方支援として頑張ったほうがいい。
後方支援としてなにができるかと考えると、金属操作による武具の整備や製鉄かな。後は服を縫うくらいしかできない。ぬいぐるみは売れるかわからないしね。
よし、決めた。予定通り商売をしよう。素材もいっぱい欲しいしね。
※※※
5人用のテントでお店を開く。許可が必要かどうかわからないので、テント屋さんに聞いてみる。
「ここで商売しても大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。皆が好き勝手にやってるしね」
「ありがとうございます」
教えてもらえたのでテントで商売する。まずは土属性魔法で石の壁を作りだす魔法を使う。この魔法はある程度操れるのでテーブルや看板を作る。看板の内容は金属製の装備の整備。素材の買取、鉱石の抽出、ぬいぐるみと服の作成。値段も書いてぬいぐるみ達に持たせる。
あっ、一応ちゃんとできるか試そう。買っておいたボロボロの剣に鉄鉱石から抽出した鉄を使って金属操作で整えていく。
ボロボロだった鉄の剣は綺麗な鉄の権になった。ただ、切れ味は悪そうなのでそちらも整える。先端は細く整えて綺麗な刃にすれば切れ味も大丈夫。
商売はできそうなので、メニュー画面をみてみる。すると拠点登録があった。どうやらテントの中は拠点扱いになるみたい。だったら、ワープゲートも使えるかもしれない。
試しに出してみると、ちゃんと設置できた。ただ、行き先はないので、今の所は使えないみたいだ。ただ、セーブポイントとして指定できたのでここに設定しておく。むしろ、イベントなので遠くに移動することはできない。こればかりは仕方がない。今は楽させてもらうついでに稼がせてもらおう。
テントの前にお店を出す。ボクは作った椅子に座りながらテーブルの上に置いた鉄を調整して針を作る。裁縫用に必要だからね。それに針に丁度いいのがある。あのスズメバチの毒針だ。この毒針に鉄でコーティングして扱いやすいように持ちても作る。
「すいませ~ん!」
「わっ!?」
どうやらお客さんがきたようで、声をかけられて慌ててしまった。視線を上に向けると、数人の女性がやってきていた。
「いらっしゃいませ。それでどのような希望でしょうか?」
「武器の整備をお願いします。それとこの可愛いぬいぐるみさんも売り物ですか?」
「売れますが、戦闘用ですか? 愛玩用ですか?」
「愛玩用で」
「なら大丈夫です」
「よかった。すごく可愛いですし」
「だよね~」
テーブルの周りでボクが出したぬいぐるみ達が踊っている。集客用に使えるかと思ったけれど、十分な効果が発揮されてそう。
「代金は素材でしますか? それとも現金でしますか?」
「素材でお願い」
「皮系が特に欲しいです」
「じゃあ……」
渡された武器は耐久力がかなり減っていて、芯に罅が入っている。それも埋めながら調整していく。調整が終わると、かなり低くなっていた耐久値と切れ味が元に戻っている。
「どうぞ」
「ありがとう。代金は虎の毛皮とかでいい?」
「ええ、構いません」
「あとその、きぐるみも売ってもらえたりする?」
「可能ですよ」
「それなら一着注文するわね。野営とかで使えそうだし」
「ありがとうございます」
ぬいぐるみ達で客引きして、調べた相場よりも安い値段で売っていく。装備を整備が最初はメインだったけれど、手に入れた布で服を作ってくれって頼まれだしていった。
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