第22話


 

 密林の死神、キリング・マンティスを倒すために始まりの街、アクアリードでレイドメンバーを集め終わった。集まった人数はボクのフレンドのグレンとアイラを含めた22人。課金してキャラクタークエリエイトをやり直した人もいるので、実力は不明。

 半数以上が訓練所でしっかりと訓練を受けた人達だ。それにみんな、それぞれ一つは強力なスキルや武具、召喚獣を持っているから大丈夫だと思う。


「では、迷いの森にあるレイドについて説明します。お兄様、お願いします」

「え? ボク? 嫌だよ。よくわからないし、ディーナ達がお願い」


 VRMMOどころか、普通のMMOもRPGもやったことがないし、本当にわからない。こういうのは慣れている妹達のほうがいいと思う。それにしても、ボクの容姿でお兄様とかお兄ちゃんとか言われて不思議がったり、愕然とした人がいるけど気にせずにぬいぐるみを作っていく。できる限り、数を作ったほうがいいし。


「まあ、お兄ちゃんは初心者だからね。というわけで、ディーナ、お願いね」

「はぁ……わかりました。では、あらためてご説明いたします。まず、今回のレイドパーティは迷いの森を徘徊する密林の死神、キリング・マンティスの討伐です。相手のヒットポイントゲージの数は10本。攻撃力も非常に高く、羽から無数の風の刃ウィンドカッターを放ってきます」

「10本、だ、と?」

「まじかよ……」


 どうやら、他の人からしても、10本のヒットポイントゲージは多いらしい。


「さきにも言った通り、攻撃力が高いのでタンク役の方は気を付けてください。できる限り回避を優先したり、攻撃を弾く方がいいと思われます。私達は一撃で即死しました。明日にはメンテナンスが入るので、強化はリセットされます。

 つまり、全力で特攻して相手の行動を探ることができます。死んでもデスペナルティしか問題はありません。最低でも相手の行動が分かれば避けて通ることもできます」


 タンクというのは盾役の人のことだったね。相手の行動を把握して、防いだりする必要があるみたい。ボクにも必要な技術だ。竜麟があるとはいえ、防御を無視してくる攻撃もあるだろうしね。


「パパはアイが守る、です」

「ありがとう」

「私も全力で守ります。ですから、ユーリは火力の方を担当して頂くといいかもしれませんね」

「確かにそうかも」


 ぬいぐるみ達を操作して、全員で連携魔法を発動すればかなりの威力になると思う。とくにみんなで竜の吐息ドラゴンブレスを放てばいい。

 考え事をしていると、話はかなり進んでいた。メンバーの編成も終わり、必要なアイテムについての話も終わったようだ。こちらは基本的に回復アイテムとかだね。回復や支援を担当するヒーラー役の人も、タンク役の人の回復で手一杯になることが予想されるから、それ以外は各自で回復するようにとのことだ。


「続いてドロップアイテムは基本的にドロップした人の物で、パーティー内で処理してください。ラストアタックやMVPの人に配られる特典は終わってから、皆でオークションを行って分配します。これはラストアタックやMVPを取るために連携を崩さないためですので、ご理解ください。また、各パーティーのリーダーの方はドロップアイテムの表示を全員がみられるように設定をお願いします。それと格パーティーにドロップ自動収集スキルをお持ちの方を入れるか、そのスキルを切ることにします。切った場合は一度回収して再分配になります」


 レイドパーティぐらいに人数が集まると、どうしてもこういう扱いにしないといけないのかもしれない。しかし、パーティーリーダーが設定を弄るんだね。わからないや。


「メイシア、アイ。わかる?」

「わからねー、です」

「えっと、メニュー画面を開いてパーティーの部分を押してください」

「うん、わかった」


 メイシアに言われた通りにメニューを開いて、パーティーの部分を押す。そこにはパーティーメンバーの名前が書かれている。ボク、ユーリと、ディーナ、アナスタシア、メイシア、アイ(NPC)となっている。その下の方にパーティーチャットや設定があった。


「設定を選択してください」


 隣に座ってすぐ横からこちらのメニューを覗き込んでくる。ふわっと漂ってくるいい匂いと、近い女の子の可愛らしい顔にドキドキしてくる。そんな状態を隠しながら、操作する。

 設定の項目にはパーティーの経験値やドロップの分配方法なども設定できるようで、色々と便利機能がある。ボクは経験値とドロップは平均して配られるように設定し、続いてドロップの表示設定も外部からもみられるように設定する。ちなみにドロップの分配は収集機能があるから使えるみたいだ。


「そうだ、お兄ちゃん。設定するなら、フレンドの設定や表示設定も変えておいた方が良いよ。お兄ちゃんの容姿なら、フレンド登録の要請がいっぱいくるし、種族のことがばれたら狙ってくる人は多いだろうから、表示設定をパーティーやフレンド限定にした方がいいの。メイシアもね」

「そうなんですね。わかりました」

「面倒は嫌だし、そうするよ」


 メニュー画面に戻ってから、設定を選択すると色々な項目がでてきた。こちらからでも、パーティーの設定もできるみたいだけど、今は表示設定を弄ることにする。

 そう思って開くと、すでに表示設定が非表示になっていた。どうやら、運営の人が最初からやってくれていたみたい。レア種族だからかもしれない。一応、フレンド限定にしておく。


「アイのはどうなるんだろ?」

「私の項目にもありますから、ユーリのところにもあると思いますよ?」

「ん~?」

「これ、です」

「あ、本当だ」


 アイが自分でボクのメニュー画面を操作して、自分の項目の設定画面がでてきた。仲間NPCの項目で、アイのところには従者や娘として登録されていた。ここにはディーナ(NPC)の名前もあったけれど、灰色の文字で選択できないようにされている。

 説明をみると、ディーナがログインしていない状態だとディーナのデータを使ったNPCが召喚できるみたい。ただ、姿は全身が黒く塗りつぶされていて、戦闘のデータは決められた行動しか行われないとのこと。プレイヤーとして行動する方が明らかに強い。


「アイちゃんの設定も、フレンド以外は非表示にしておきますね」

「それでお願い」


 アイのドロップはボクとメイシア達のアイテムストレージに入ることになっている。経験値はアイにもレベルがあるので、普通に入る。


「では、森に入る手段について説明します。まずは襲ってきたウルフを撤退するまで倒します。この時の注意点ですが、撤退するウルフは必ず殺さずに逃がしてください」


 ディーナの言葉に一部から失笑や嘲りなどといったものが発せられる。これぐらいは他の人もやっているからだろう。期待していた内容じゃないからかもしれない。


「話しは最後まで聞いてください。ウルフを追った方もいらっしゃるかと思いますが、途中で相手側に増援が来て戦闘になったかと思います」

「ああ、そうだな」

「確かに……」

「こちらが調べた限り、この現象は逃げたウルフが私達が追って来ているのがわかっているから、起きることだとわかりました。しかし、離れたとしても追跡手段がなければ撒かれてしまいます。撒かれないようにする手段は二つです。一つ目は私達機人族が使うマーカーを設置し、視界から外れてからゆっくりと反応が消えた場所へと向かうこと。これで次のフィールドへと移動する場所をみつけられました」

「それだと機人族以外、攻略できないじゃないか……」

「そうですね。もちろん、これは運営が想定した攻略方法の一つでしかありません。もう一つの手段が一般的なものとなります。こちらを説明する前に、皆さんはウルフのドロップ品について偏りがあることがわかりませんでしたか?」

「たしか、毛皮が多かったな」

「ああ、そういうことか。ウルフは臭いで俺達が追って来ていることを理解しているから、増援を呼んでフィールドへ移動する場所にはいかない。つまり、手に入れたウルフの毛皮を加工したりして被ればいいのか」

「ベストは加工せずに被ることですね。臭いさえ誤魔化せばある程度近付いても大丈夫でした。ただ、今回は私がマーカーを打ち込むので、必要ありません。次回、各自で行く場合は用意してください」


 ディーナの説明が、次のフィールドに移動する手段から地下についての説明になっていく。地下にはアント達の巣があり、そちらも強力なモンスターが存在する可能性もあることが伝えられていく。


「今回は地下の探索は無視します。マップを作っている暇はありませんでしたし、まずはキリング・マンティスの排除を考えております。それが無理なら、大人しく隠れながら地上を探索するか、地下を探索するかになります。以上で基本的な説明は終わりとします。では、これからどうするか話し合いましょう」


 話し合いが始まったので、ディーナ達に任せておく。ボクはボクでぬいぐるみを沢山用意する。メイシアはアイを撫でながら装備やスキルの調整をしていく。アナは手に入れた血を試験管に入れて、小分けにしている。


「アナ、それはなんでやってるの?」

「ん~? これは飲みたくないからだよ。お兄ちゃんの血以外は飲みたくないし、他の男とか絶対やただから、飲まなくても使えるようにしてるの。まあ、お姉ちゃんやメイシア、アイちゃんの血なら飲むのを我慢してもいいかもしれないけど……」

「やめてあげてね」

「は~い。アナの身体はお兄ちゃん専用だから、お兄ちゃんのしか受け付けないの」


 唇に指をあてて際どいことを言ってくる。それだけで周りの人の視線が集まってしまった。それも、なぜか百合、百合なのか、とか言われている。ボクは男なのに……まあ、放置する。


「それではこれより、キリング・マンティスを討伐するために出発します。くれぐれもウルフを倒さず、体力を多めに残すようにお願いします」


 ディーナの言葉に皆で頷いて全員で移動する。目的地は迷いの森深部だ。




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