第21話 キリング・マンティスへの対策会議





 迷いの森。それは原初の世界ワールド・オブ・オリジンが始まってからしばらく経っても誰も完全攻略できていないフィール型のダンジョン。

 生い茂る森の中、やってきたウルフの集団を倒して敗走させ、それを一定距離を開けてウルフに気づかれないように追わなくてはいけない。ウルフの毛皮などを着ることで追跡はばれないので、正しい入口をみつけることができる。その入口から地下へと進めばようやく、進むことができる。

 地下も大量のノーマル・アントとソルジャー・アントが生息する巣となっており、狭い通路で厳しい戦いを行いながら階段を探していく。そこからは地上と地下のダンジョンを行き来することで進んでいく形式となっている。

 そして、地上では空を飛んでエリアを移動してくる凶悪無比な支配者、密林の死神キリング・マンティスが生息している。地下などを使って隠れながら進まないと襲われてすぐに殺されることになる。

 以上の理由から、このダンジョンは原初の世界ワールド・オブ・オリジンが始まってから誰にも攻略されていない。密林の死神キリング・マンティスはレイドボスと思われ、それを倒すには数多くのプレイヤーが必要とのことだ。

 しかし、今まで判明していなかったのか、それとも判明していても無理だと判断して先に進んだ人達はもう始まりの街アクアリードにはしばらく戻ってこれない。つまり、人手を集めようにもすでに進んでしまってここにはあまり人がいない。

 そもそもここが通常の進み方ではいけないように作られているのが原因だと思われるが、どこにもやり込むという人はいる。そんな人達はまだアクアリードに残って必死に攻略しているようだ。


「以上のことから、彼等に協力を要請するのがいいと思います」


 ボク達はカフェテラスに座りながら迷いの森の攻略について話し合っている。上の説明もディーナ達が教えてくれた。


「ボクは別になんでもいいよ。アナとメイシア達は?」

「アナはお姉ちゃんに賛成だよ。訓練所のクエストをやっていると、最後は絶対に迷いの森にいかなきゃいけないし、多分進めないと気持ち悪いと思って進んでない人は少しはいると思うよ。作り直してる人もいるだろうしね」

「そうですね……聞いた感じだと私達だけじゃ無理そうですし……」

「別に密林の死神を倒す必要なんてねー、です」

「そうなんだよね」


 実際、密林の死神であるキリング・マンティスは隠れることでやり過ごすことができるから、倒す必要もない。それでもボクは倒したいと思う。ボクの大事な怜奈と恵那……ディーナとアナスタシアを傷つけたのだから、なんとかして倒したい。


「それと、アナのためにも集めて欲しいの」

「どういうこと?」

「アナの試験は人か血を集めること。だから、密林の死神を倒すために集まった人からもらえばいいかなって」

「それはそうですね。種族を説明して戦うのに必要だと言えば、少しはもらえるかもしれません」


 それなら確かに可能かもしれない。人の血じゃないと駄目らしいから、普通なら襲うか買うかしないといけないんだろうし。


「では人を集めるということでいいですね?」

「それでお願い」

「よろしくお願いします」


 皆で協力して倒せばどうにかなるかもしれない。そんな訳でまだ残ってる人を集めるため、神殿前の広場にあるカフェテラスで募集する。募集内容は迷いの森にいるレイドボスの撃破ということにする。

 募集は詳しいディーナとアナスタシアに任せて、ボクは人形を作る。メイシアとアイリは隣でこちらを見詰めてくる。


「ユーリは凄いですね」

「パパ、アイにもお人形が欲しい、です」

「いいよ。どんなのがいい?」

「パパとママのがいい、です」

「わっ、私のですか!?」

「メイシアがいいなら作るけれど……」


 ボクは構わない。それにボクとメイシアの人形を娘であるアイリが持つのは何の問題もない。


「ママ、お願い、です」

「わっ、わかりました。でも、アイちゃんのも作ってもらうことが条件ですからね」

「パパ、いいです?」

「いいよ。それじゃあ、三人の……」


 そう言おうとしたら、後ろから肩を掴まれる。振り返ると、アナとディーナがいた。


「お兄ちゃん?」

「私達のも作ってくれますよね?」

「う、うん……もちろんだよ」


 底冷えするような無機質で怖い感じがする声に、ボクは即座に答える。なんだか作らないと大変なことになりそうだ。まあ、人形を作るのは好きだから、全員分を作ろう。

 デフォルメされた五体の人形を心を込めて作る。小さいから比較的容易くできるけど、全身全霊で細部まで作り込む。

 歓声した人形はアクセサリーの装備として認められ、結構いい効果がもらえた。



 五体の家族人形 ランクC 耐久200/200

 とある竜族の王族が作り上げた人形。元となった五人が揃えれば真の力を発揮する。

 効果

 1.同じパーティーにこれを装備している五人が全員おれば経験値とドロップ率が25%上昇する。(重複不可)

 2.同じパーティーにこれを装備している四人おれば追撃ダメージが10%発生する。(重複不可)

 3.同じパーティーにこれを装備している人おれば一度だけ即死ダメージをHP1で耐えられる。(重複不可)

 4.同じパーティーにこれを装備している二人おれば死亡時、代わりにこの人形が破壊される。

 5.同じパーティーにこれを装備している人が一人だけになるとHPの上限が6割に減少する。なお、パーティーから一週間は抜けることができない。


 強いけれど、デメリットがある上に最低でもあと五組は作らないといけないということだね。まあ、もとから全員分作るつもりだったからいいけれど。

 しかし、デメリットの上限が痛い。まあ、倒れなかったらいいだけだろうけれど……これは酷い。


「できたよ」

「ありがとう、です♪」

「よかったですね」

「はい、です」


 嬉しそうに喜ぶアイリを微笑みながらメイシアがみている。アナスタシアも嬉しそうに見ているし、これでいいと思う。ボクは視線をディーナの方に向けると、そちらではやって来た人に説明しているところだった。


「では、迷いの森の突破方法が判明したんだな?」

「はい。その先へ行くことができました。ですが、そこにレイドボスが待ち構えていたので倒すために人数を募集しております」

「わかった。何時に行くんだ?」

「今から一時間後くらいに出発する予定です」

「じゃあ、俺達のパーティーもよろしく頼む」

「かしこまりました。こちらにレイド申請用紙に署名してください。それと吸血鬼の方のために血液を少々提出していただきます」

「わかった」


 複数のパーティーでレイドを組んで軍団として戦闘するらしいけれど、連携とかも話さないといけないし、相手のことも伝えないといけない。これは思ったよりも大変そうだね。まあ、ボクは人形を作るだけだ。




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