第12話 魔女メアリーの本屋⓵
プルル・ジョゴスを何度も討伐し、クエストに必要な数のプルルゼリーを手に入れた。その為、ボク達はアクアリードの街にあるお婆さんの本屋へと報告にやってきた。
「こんな場所に店が有るなんて知らなかったよ」
「そうですね。発売当初の時はありませんでした」
「ベータ版の話でも聞かないよ」
二人が知らないと言った店の中に入り、ボクは奥に居る店主であるお婆さんの下へと向かう。二人は興味深そうに回りを見ている。
「おや、戻ったかい」
「うん。これが依頼の品だよ」
ボクがプルルゼリーを渡すと、お婆さんが鑑定していく。
「確かに依頼の品だね。それに物理破壊者の称号も手に入れたようだ。よし、とりあえずの試験は合格だね」
「良かった……とりあえず?」
「そうさね。だけど、その前にそこの二人はなんだい?」
「あっ、ボクの妹だよ。ディーナとアナスタシアって言うんだ」
「ディーナです、よろしくお願いします」
「アナスタシアだよ」
「あんた達も手伝ってくれたようだから、報酬をやろう。といっても、そっちの嬢ちゃんには意味が無いだろうがね」
お婆さんがディーナを見ながらそう言ってくる。二人共、ボクと同じパーティーを組んでいるから貰えるのかな。ディーナには意味が無いってどういうことだろう?
「差別?」
「人聞きの悪いころを言うんじゃないさねっ! ただ、機械種は魔法を使えないから意味が無いだけさね」
「そうですね。魔法関連は一切覚えられません。ですから、私の分の報酬は二人にお願いします」
「じゃあ、報酬として本を一つあげようかね。読まずに好きに選ぶんだよ」
「ランダムって事か~」
「では、三冊ですね」
「ん、どれがいいかな」
「せいぜい良いのを引き当てるさね」
「「は~い」」
さて、ボク達はそれぞれ好きな本を探していく。タイトルからある程度は予測はできる。例えば“良くわかる初級魔法入門・風属性編”“魔法理論”“モンスター解体新書”などがある。初級魔法入門はその名の通り、魔法が貰えるのだろう。魔法理論は魔法そのものの知識で、モンスター解体新書は解体かな?
「お兄様、私の分はこれでどうですか?」
「ん?」
ディーナが差し出してきたのは“機人種についての考査”という本だ。これがあれば何か、整備に役立つ知識が手に入るかも知れない。
「そうだね。これにしようか」
「はい」
「そういえば、ボクにお勧めは何かある?」
「お兄様でしたら、タンクの役割がよろしいかと思います」
「タンク? タンクって水を入れる?」
「違います。タンクは盾職や防御役、囮役などと言われるものです。つまり、敵の攻撃を一身に受けて防ぐ防御役の役割のことです。その役割のお蔭で敵からアタッカーやヒーラーに対する攻撃の頻度が下がります。また、防御力の高いタンクに攻撃が集中することでヒーラーの回復する負担が減り、強敵とも戦えることになります」
「なるほど。防御力の高いボクには丁度いいね。それに男のボクが女の子の二人を守らないとね、それで、どんなスキルを取ればいいんだろ?」
「敵愾心、ヘイトを集めるスキルですが、既にお兄様は持っています。」
「確かにボクは狙われているね」
ヘイトとは聞いた限りでは攻撃の優先順位を決めるための数値みたいだ。つまり、ボクの身体そのものがモンスターや“プレイヤー”に対するヘイト発生装置だ。素材目当てに狙われるだろうし。
「ですが、自ら使えるスキルもあった方がいいです。攻撃すれば途中でターゲットが変わりますからね」
「ふむふむ」
「後はカバーリングなどの攻撃を庇うスキルを取るといいですよ」
「庇うスキルは欲しいね。でも、まだいらないかな」
直感を利用すればスキルが無くてもある程度は分かるし、身体を割り込ませればいいだけだろうしね。モンスターはこれでいける。プレイヤーは流石に無理だろうから必要だね。
「まあ、お兄様なら人形を使えばいいだけですしね」
「嫌だけど、それをすれば確実に守れるだろうね。ん~どうしようかな」
「悩むなら、それこそ直感でどうぞ」
「じゃあ、人形関係だね!」
「言うと思いました。人形となると……集団戦術?」
「ありっちゃありだけど、集団じゃないからね」
「なら、連携魔法ですね」
「
「はい。それぞれがほぼ同じタイミングで、同じ対象に撃つことにより威力が上昇した上位の魔法へと変化したりします」
「人形達を使って一斉に魔法を撃つのか……カッコイイね!」
「はい。それについて書かれている本を探しましょう」
「うん!」
二人で探していくと、アナスタシアが本を読んでいる場所に到着した。
「アナ」
「あっ、お兄ちゃんにお姉ちゃん」
「何かいいのがありましたか?」
「うん。“登録したモンスターを効率良く呼び出す魔法”ってのがあったから読んでるの。これ、召喚魔法だろうし」
「召喚魔法か。それもまた楽しそうな魔法だね」
「アナスタシアは完全な後衛特化型ですし、相性はいいでしょうね」
「うん、INT極振りだし、特化型だよ」
「極振り?」
「ステータスを一点に集中させて上げることです。その分、一つの分野においてはかなり強いのですが、汎用性がありません。アナスタシアの場合は火力は高いのですが、打たれ弱く詠唱が遅いという弱点があります」
ボクの場合だと防御に特化させているって感じかな? いや、そもそもステータスとかまだ一切上げてないや。称号と装備で上がってるだけだし。
「でも、お兄ちゃんもお姉ちゃんもいるから問題ないよ。守ってもらうわけだし」
「まあ、そうですね」
「うん。アナはボクがしっかりと守るよ」
「お願いだよ! かわりにモンスターの殲滅は任せて! 消し炭にするから!」
「私は妨害と支援を担当しますので、範囲攻撃はアナがお願いしますよ」
「任せて。それでお兄ちゃん達は決まったの?」
「っと、そうだった。えっと、集団系の魔法って無かった?」
「あったよ。えっと、これだね」
アナスタシアが床に大量に置かれた本の中から一冊の本を渡してくれる。それをありがたく受け取る。取り敢えずもらえたのはこれでいいので、言わなければならないことがある。
「片付けなさい」
「うっ」
「そうですよ。整理整頓しないといけません」
「片付けないとおやつ抜きにするからね」
「それは勘弁! えっと……手伝って欲しいな……なんて……駄目?」
くるりと周りにある散乱している本を見渡して上目遣いで聞いてくる。アナスタシアにため息をつきながら片付けを手伝っていく。
「お兄様はアナスタシアに甘すぎます」
「そう言ってディーも手伝ってるじゃない」
「えへへ、二人共大好きだよ!」
「「はいはい」」
そんな会話をしながら片付けていく。ついでにお婆さんが散らかしたであろう本も綺麗に整えていく。
※※※
整理が終わり、お婆さんに選んだ本を見せる。選んだのは“登録したモンスターを効率良く呼び出す魔法”と“機人種についての考査”“連携して行う紅難易度魔法についての考査”だ。
「またマイナーなのを選んだねえ……まあ、機人種については機械の嬢ちゃんがいるからわかるんだがね。召喚魔法と連携魔法かい」
「マイナーなの?」
「ああ、マイナーだよ。なんせ、召喚魔法は覚えるのが大変な上にモンスターとの契約が必要だしねえ。それにスキルを取らないとパーティー制限にも引っ掛かるしね」
確かに召喚魔法の方は分厚い辞書みたいな厚手の本となっている。これを理解しないといけないとなるとかなり大変だ。
「で、連携魔法の方は強さからは選ばれがちだけど、難易度が半端ないから廃れるのも仕方ないんだよねえ」
「でも、ボクには関係ないかな」
「おや、どうやる気だい? 一人じゃ意味ないさね」
「人形で一斉に撃つから」
「なるほどねぇ。評価B以上の人形を沢山用意するなんざ、正気の沙汰じゃないと思うけれど、確かにありさね」
「人形軍団を組織してみせるからね!」
「まあ、がんばんな。あたしも応援くらいはしてやるさね。ああ、そうそうアンタ達」
「「「?」」」
急に話をぶった切ってきたお婆さんにボク達は揃って首をかしげる。
「本当に兄弟みたいだねえ。まあ、そんな事よりも、アンタ達はプルル達が居る草原よりも奥へいったのかい?」
「あ~迷いの森?」
「迷いの森なの?」
「永遠にループして、あらゆる方法を試されましたが突破できませんでした」
「ただ、動作テストの為の訓練フィールドだっていう事で決着がついたんだっけ。実際、製品版のあちらだとその先に行けるみたいだし」
「どんな場所なの?」
「延々と森の中を歩かされて、襲い掛かってくるウルフを撃退するという内容です。それもある程度戦闘して、相手が不利となると一目散に逃げ出すんですよね」
それは鬱陶しいね。ヒットポイントゲージを減らしたと思ったら逃げるんだし。それにしても永遠と回り続けるか……大変だなあ。
「当然さね。鍵の掛けた状態でいくら挑戦しても扉が開くことはないんだから、突破できるはずないさね」
「お婆さんは知ってるんだよね? 教えて!」
「嫌だね。タダで教える訳ないだろ」
「けちぃっ!」
「かっかっか、そうさアタシはケチさね。だから教えてやんないよ」
「むぅ~」
「まあ、突破する方法があるのならそれを探せばいいだけだよ」
「それもそうだね~」
突破する方法が有るって分かっただけでもやりがいがある。
「じゃあ、依頼を出してやるかねぇ……」
お婆さんがそう言うと、クエストが出てきた。
【キャラクターサブクエスト・魔女メアリー④:狩猟を行いつつ迷いの森を突破し、ウルフ達のボスを討伐して証拠品を持ち帰る。達成報酬:魔女メアリーが作成した作品であるステータス増強の指輪or腕輪を1つ。最高難易度攻略時、+EXP10000、CP1000or任意の属性魔法1つ】
今回はディーがいるからか、報酬が選択式になっている。それにしても、やっぱりウルフにもボスは居るんだね。どちらにしろ、クエストが出たのなら攻略は出来るはずだ。
「まあ、今のアンタ達なら負けるだろうけど、せいぜい頑張るさね」
「絶対に勝ってやる!」
「そうだそうだ! その喧嘩、買っちゃうからね!」
「二人共、冷静になってください」
「かっかっか、元気があってよろしいさね。アンタ達が何処までやれるから楽しみにさせて貰うさね」
「行くよ、アナ、ディー!」
「絶対攻略してやるんだからっ!」
「お騒がせしました。失礼いたします」
ボク達は本屋から出て、東門から出た草原を抜けた先にある深い森を目指していく。そこは深い深い森の中だった。
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