第13話 迷いの森
東の草原を抜けて道なりに進むと直ぐに深い森の中へと入っていく。道は何時しか木の根に覆われ、でこぼこになってきている。回りには均等に配置されていた木々が何時の間にか乱雑になり、太陽の光も木々の葉で隠れて薄暗くなってくる。
「このまま行けば迷う?」
「そうですね。このまま進めば道がわからなくなりますが、戻るのは直ぐです」
「進むと何時の間にか同じところをぐるぐると回っているんだよね。それで、木に登って上から覗くと一際大きな木が見えるんだけど、そこと反対の方向に進むと入口に戻ってるんだよ」
視線を上に上げても葉っぱで見えないので木に登ってみる。ボクの身体能力はかなり高いので、マリオネットコントロールを使って自分の身体を操りながら飛び上がる。一つ目の木の枝を両手で掴む。そこから身体を振って近くの枝に飛んで、木の側面を蹴って上に上がっていく。
木の先端に到着したボクは先端を掴んで固定しながら前方を見る。すると視界の先に大きな木が見える。反対側を見ればアクアリードの街が見える。上から見た感じ、このまま進んでいけば問題ないんだろうけど、そうはいかないんだろうね。
そんな事を考えていると狼の遠吠えが複数聞こえてきたので一旦、降りて二人と合流する。
「どうでした?」
「んーウルフがいっぱいきそう」
「うん。ここはほとんど戦いながらじゃないと進めないからね。だいたい900から1000体くらい倒してからじゃないと……」
「多いね」
「でも、楽しいよ。弱いし」
草を掻き分ける音が聞こえて少しすると、木々の隙間からウルフが飛び出してくる。飛び出したウルフはボクに噛みついてくる。足や腕に噛みつかれたので、そのまま木へと叩きつけて無力化する。
「お兄ちゃんの防御力ってすごいね」
「痛くないみたいですしね」
ディーナが片手が伸びていて、剣みたいな物になっている。ディーナは襲い掛かってくる敵を切り裂いていく。もう片方の手に握られている小型拳銃でアナスタシアを狙う敵を撃ち倒していく。
アナスタシアは詠唱を行っており、次々とスケルトンを作りだして盾にしていく。しかし、ひっきりなしにやって来るウルフ。900から1000と言っていたけれど、確かにこれは大変だ。
「ん~まとめて消し飛ばすね。すぅぅぅぅっ、ドラゴンブレスっ!」
大きく息を吸って大きな木の方向に向かってドラゴンブレスを放つ。金色の光の奔流は敵の集団ごと木々を飲み込んで全てを薙ぎ払っていく。
円形状に抉れた地面と木の根。先の方を見れば大きな木の姿が見える。しかし、直に地面から木の根が沢山伸びてきて地面を修復していく。更には目の前の空間が捻じれだして元の深い森へと変わっていってしまった。
「ジャミング開始」
しかし、ディーナの言葉と同時に空間が揺らぎだして、深い森の姿と元の壊れた姿にいったりきたりしていく。
「亡者の怨嗟!」
地面から生えてきた無数の手がウルフを掴んで地面の中へと引きずり込んで排除していく。やってくる敵は相変わらず大量だけど、弱いのでさっさと倒せる。
※※※
20分後、ウルフ達の増援は無くなり、残ったウルフ達も一斉に森の中へと逃げ込んでいく。既にドラゴンブレスで破壊した森は修復されていて空間の歪みも無い。
「これで一旦休憩かな?」
「うん。だいたい30分は敵がこないよ」
「なら、休憩はできるね」
「はい。水です」
「ありがとう」
身体から力を抜いて地面に座り込むと、ディーナが水袋を渡してくれる。渡された水袋から水をゆっくりと飲んでいく。
「ん、それでどうするの?」
「先程の事から高威力で広範囲を破壊すると一時的に空間の歪曲が解除されるようですね」
「ドラゴンブレスだね」
「はい。お兄様はただでさえ格の高い竜族でも高位ですから、破壊できた可能性があります」
「でも、ぶっちゃけて言えば効率的じゃないよね」
そう言いながらアナスタシアがボクの方に寄って来て後ろから抱き着いてくる。
「お兄ちゃん、喉が渇いたの……」
「いいよ」
「ありがとう」
“ぺろり”と首筋を舐められた後、チクリと痛みが走る。昼間の行動は吸血鬼であるアナスタシアには負担なのだろう。
「お兄様、ドラゴンブレスはどうですか?」
「ん~あんまり連発はできないよ」
「でしょうね。それにいくらなんでもそんな攻略法はあり得ないと思います」
「力尽くで破壊! ってのは憧れるけどね!」
「まあ、運営が特定の種族だけができる方法を攻略法にするわけないだろうから、正規のルートがあるはずだよ」
では、その正規ルートとは何かということが問題だよね。まず可能性があるのは木の上に登って大きな木を見れたことから、木々を伝っていければたどり着ける可能性がある。何せ目標は常に見えているのだから。
でも、それをするにはかなりの身体能力がいる。それはつまり、魔法系には厳しいということなんだよね。そうなるとこれも間違いだと思う。さきほども言ったけれど、特定の誰かにのみ攻略できるルートを運営が設定するだろうか? それは多人数が行うゲームとしてはおかしな感じがする。つまり、まだ別のルートがあると思われる。
「ここ特有の条件ってなんだろ?」
「迷いの森だから、迷うことだね」
「そうですね。深い森で進めないという事くらいですね。βの時はこんな事は無かったのですが……」
「出てくるモンスターもウルフだけだしね。β時代は蟻も出たはずなんだけど」
「あっ、それだ。なんで一種類しか出てこないの? プルルが固まっている草原は1エリアの1部分だけだからわかるけど」
「確かに森林エリアにしてはウルフだけなんだよね」
やっぱり、要はウルフか。ウルフと言えばいっぱいきて、数が少なくなると撤退していくってことだよね。
「ねえ、そういえばウルフって誰か追撃したり、追ったりした?」
「それはもちろんです。ネットの掲示板に上がっておりましたが、撒かれたそうです」
「撒かれたの?」
それってつまり失敗したってことじゃないのかな?
「どうやら、追跡すると別方向からウルフの集団が襲い掛かってくるようです。それを繰り返すようです」
「それは追跡に失敗したってことかな?」
「恐らく、追跡の技術が足りなかったのかもしれませんね」
「取り敢えず、試してみようか」
「はい」
時間が経ち、襲い掛かってきたので倒して後を付けていく。
※※※
ウルフの跡を付いて行ったのだけれど、掲示板で報告されていたような現状が繰り返された。
「これは誘導されていますね」
「だろうね。おそらく、ボク達が付いて来ているからだろうね」
「そうなると、ばれないように遠距離からつけるしかないよね?」
「そうですね、機人種ならば可能です。マーカーを設置すればいいだけですから。ですが、それだと特定種族だけということになります」
「シーフやスカウト、レンジャー系が頑張ればいけなくない?」
「確かに可能でしょうね。ですが、チュートリアルフィールドのレベル上限は10ですから……職業もそこまで上がるのでしょうか?」
「それだと、別の手段が用意されてそうだよね」
「他の手段……ん~ドロップとか?」
ドロップか。確かにありそう。ドロップは大量に出てくるウルフから手に入るわけだし、確認してみる。すると面白い事が判明した。ボクのバックの中には狼の毛皮914個、狼の牙365個、狼の爪427、疾風のブーツ40セットがあった。見てわかる通り、狼の毛皮だけが大量にある。
「毛皮がいっぱい?」
取り出してみる獣の臭いがする。これだけ毛皮があるということは服を作れということなのかもしれない。
「なるほど、ウルフが鍵なんだね。これで服かマントかを作って着こんで追えということなのかもしれないね」
「有り得ますね」
「手の込んだ事を……」
「まあ、やってみようか」
「そうですね」
ビーコンも設置すればいいかも知れないけれど、念のためにこちらも試しておこう。それにソロで討伐すれば単独討伐報酬がもらえるしね。ディーナが居ない時でも奥に行けるようになればいいし、他の友達に伝えてあげたいしね。
「じゃあ、戻ろうか。服を作るための道具と材料を手に入れないとね」
「は~い」
「そろそろドロップが限界なので丁度いいでしょう」
それからアクアリードの街へと戻って必要な道具を購入して服を作る。本来は臭いを消したり色々としたいけれど、今回はその臭いが大事だからやめておこう。
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