第9話 嫌な事
衝撃を感じて起きると、ボクのお腹の上に恵那が乗っていた。どうやら起こしに来てくれたようだ。
「おはよう、恵那」
「おはよう、お兄ちゃん。もうお昼だよ」
「そっか。それじゃあ、起きようか」
「うん!」
恵那が退いてくれたので起き上がり、着替えだす。恵那が服を渡してくれたりして手伝ってくれる。そのお蔭で寝ぼけたままでも比較的早く着替える事ができた。
「おはよう」
「おはようございます」
怜奈がテーブルの上に朝ご飯……いや、昼ご飯として素麺を用意してくれていた。
「サクランボ、サクランボ!」
「ちゃんとあるわよ」
「ボクのも食べていいよ」
「やった!」
席について食べだす。素麺は手早くできるわりに美味しい。特に細い面がいいね。少し食べてから薬味を入れていく。
「お兄ちゃん、何処までいった?」
「まだ最初のところ。チュートリアルフィールドだっけ。あそこでレベル上げだよ」
「そうなんだ」
「10レベルが遠いし」
「結構早く上がったと、思いますが……」
「金竜を含めて経験値100倍だからね」
「それは確かに時間がかかりますね……」
想定されてたのかは知らないけれど、本当にレベルが上がらない。でも、その分称号の習得とかは楽みたいだ。上位存在討滅者とかね。
「二人は作り直してるんだよね?」
「そうだよー」
「はい。どうせだからお兄様と一緒にやりたいですから」
「それで、種族とかはどうしたの?」
「秘密だよ! 会ってからのお楽しみ!」
「そうですね。もうキャラはできているので合流しましょう」
「そう……いや、待って」
「どうしましたか?」
「?」
小首を傾げる二人を見ながら、ボクは冷や汗をかいている。不味い、不味い! 今のボクの姿を二人に見せると、兄としての威厳が大変なことになる! そう、お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんになってしまう! だいたい、兄が女装ってやばいだろ!
「一週間、待ってくれないかな?」
「駄目、です」
「却下だよ」
「どうしても?」
「「どうしても」」
断られた。しかし、こちらにもひけない理由がある。
「お兄様は私達と遊びたくないんですか……?」
「いや、そんな事は断じてないからね」
怜奈が涙目でこちらを見てくるので慌てて否定する。
「だよね! 良かった、嫌われたのかと思ったよ」
「いや、実はクエストで呪われた服を着せられててね?」
「それぐらいなら大した事がないのでは……?」
「いや、それがその……女の子の装備なんだよね」
「く・わ・し・く!」
恵那に言われるがまま、今まで起こった事を説明していく。すると爆笑された。
「あはははは、面白い! 面白いよ!」
「ふふっ、そうですね。女にされて男になって、姫はそのまま……」
「二人共、酷い」
「ごめんって。でも、女装って前からお母さん達にさせられてたよね」
「まあ、そうだけどね」
お母さんは娘が欲しかったようで、おばさんと一緒に女顔で童顔のボクを女装させるのはよくあった。だから、絶対に嫌という訳ではない。スキル効果の為には妥協できる程度にはね。似合っているのは事実だから。
「どうせお兄ちゃんの事だから絶対似合ってるし」
「そんなにかな?」
「嫉妬するくらいには」
「怜奈と恵那もかなり可愛いんだけど」
「ありがとうございます」
「えへへ~」
喜ぶ二人と一緒にご飯を食べる。お婆ちゃんが死んでから一人で少し寂しかったけれど、二人が来てくれたお蔭で寂しさを感じる事も少なくなった。本当に二人には助かっている。
「合流場所と時間はどうする?」
「待ち合わせ場所は神殿の噴水でいいんじゃないかな?」
「そうですね。待ち合わせならカフェテリアでいいかと。時間は11時くらいで」
今が9時だから、チュートリアルをある程度終わらせるのかも知れないね。
「わかったよ。名前くらいは教えてね」
「恵那はアナスタシアだよ」
「私はディーナですね」
「こっちの名前とは別にしたんだ」
「リアル割れが怖いからね」
「女の子は特にそうするようにって友達が言ってました」
「なるほど」
確かに女の子にとってリアル割れって結構大変だろうね。ストーカーとか、襲われたりしたら大変だし。
「じゃあ、中で待ってるね」
「お願いします」
「後でねー」
片付けを終えてから本日の仕事の予定を確認する。今日は特に急ぎの仕事も無いので発送と出品だけで済んだ。なので、待たせるのも悪いのでログインする。
※※※
ログインしたボクは変な感覚に襲われながら草原に出現する。目を開いて回りを見ると、絶賛プルルに襲われているところだった。それも、寝転がったままログアウトしたせいか、寝た状態で一気に襲われている。ダメージは1ダメージしか入っていないので気にしなくていい。どうせ直ぐに全回復するし。そう思っていたら銃声が響いてプルル達が消し飛んでいく。
「おい、大丈夫か?」
「あっ、はい。大丈夫です」
起き上がると片手がドリルで、もう片方の手に銃を持つ男性が立っていた。彼の身体はところどころが機械でできているようだ。
「あの、その姿は?」
「これか? これは機人種と呼ばれる機械仕掛けの人形、エクスマキナという種族だ」
「人形!?」
かっこいい。こういう人形も有りなんだね。しまった、こっちの種族にした方が良かったかも? ボク自身が生きた人形に……いや、それはそれで問題か。
「そうだが……どうした?」
「いや、そういう人形も有りなんだって思いまして……ボク、人形師なので」
「そうか。それは作り直す事をお勧めするぞ」
「え?」
「人形師は不遇職だからな。だいたい、人形で戦うなど正気の沙汰ではない」
「大丈夫です。何の問題も有りませんから。それよりも、その身体も人形じゃないんですか?」
「これは別だろう。なんせ、機械や銃器が使えるんだからな」
「そうですか。助けていただき、ありがとうございました。それでは失礼します」
お辞儀をしてからさっさと踵を返して街へと向かう。
「おい、待て。護衛をしてやろうか? なんだったらレベル上げを手伝ってやるぞ。だから……」
「結構です。ボク、こう見えても結構強いので」
「なに? おい、待て!」
さっさと走って逃げる。人形を馬鹿にするようなむかつく奴と一緒に居たくないし。だから、声を無視して走る。途中で寄ってくるモンスターは八つ当たりも兼ねて殴って倒していく。
※※※
アクアリードの街に戻ったボクは必要の無いアイテムを売ってお金を作る。自動収集のスキルのお蔭で3,205Gとなった。昨日の微かな時間でこれだけ稼げるのだからとても美味しい。というか、プルル・ジョゴスの素材を売ったらもっとお金になりそうだけど、一応残しておく。
でも、触手って何に使うんだろうか? いや、細い糸の塊みたいだけど、繊維みたいにできるかもしれない。筋肉の代わりに利用してみるのもいいかも。
どちらにしても、いらいらするのでカフェテリアで食事を注文していっぱい食べる。軽食を頼んだけど、あんまり味は美味しくない。調味料が足りていないみたい。やっぱり、自分で料理する方がいいのかもしれない。
そんな事を考えながらサンドイッチを両手で掴んでもきゅもきゅと食べながらシステム説明を呼んでいると、ナンパ目的なのか男達が何度も声をかけてくる。鬱陶しいので無視して食べていく。
「おい、無視するなっ!」
「いらないお節介はノーセンキュー! 人を待ってるって言ってるでしょうがっ!」
「いいから俺達とこいよ、悪いようにはしないからさ」
「……」
どうしてくれようか。そう考えていると、システムの説明を読んでいて見つけた面白いのがあったのを思い出した。
「付き合ってあげてもいいけれど、ボクに勝てたらね」
そう言って決闘システムを起動する。賭けの対象は装備とお金、全て。相手の人数は4人だけどしったことじゃない。
「へっ、いいだろう」
「やってる!」
そして、相手が了承した事で戦闘フィールドが設けられた。この中には参加者以外が入れないようにされている。相手は剣士、盾使い、黒魔法使い、白魔法使いだと思われる。
「大人しく降参するなら今のうちだぞ!」
「俺達は既にレベル12だからな」
「ふぅ~ん。ありがとう」
開始のゴングが鳴った瞬間。ボクは自分にウィンドアクセルをかけて突撃する。相手は盾を構えて迎えるようだけど、その前にアースシールドを発動して視界を封じる。
「なんだと!?」
「回り込んでくるぞ!」
作戦を声で話すとか、馬鹿なのかな? まあ、いいや。
床を蹴ってアースシールドの上に飛び乗る。そこから更に跳躍して連中の上を通りこして天井を蹴って、方向転換をする。そのままの勢いで白魔法使いの頭部に蹴りを叩き込むと同時に用意しておいたファイアボールを放つ。
「ぐぎゃっ⁉」
「なんだと!?」
白魔法使いはそのまま踏みつけて、隣にいる棒立ちの黒魔法使いに身体を回転させながら金色の粒子を纏う拳をお腹に叩き込むとくの字にになって吹き飛んで消滅していく。同時に足でえぐられて追加ダメージを受けた白魔法使いも消滅した。
「さて、残り二人」
「卑怯だぞ!」
「正々堂々と勝負しろ!」
「くだらない。だいたい、正々堂々となら一対一だよね?」
「ぐっ!?」
「それに回復役や打たれ弱い魔法使いから倒すのが鉄板だって教わったし、間違いじゃないはずだよ」
恵那と一緒にゲームをしたらそう教わったんだよね。それと魔法使いから倒したのはボクが魔法が苦手だからだよ。物理相手なら自信があるしね。
「さぁ、行くよ」
「くそっ!」
竜脈の力を足に集めて突撃し、すぐに拳に集中させて盾へと叩き込むと同時に爆発させる。すると、盾が上に吹き飛んで防御が空いたので蹴りを叩き込む。相手は剣で斬りかかってくるけれど、金色の光を纏わせた片手で受け止めて握りつぶす。
「んなっ⁉」
剣身に指が入り込み、粉砕されて光の粒子となって消える。
「もう終わり? だらしないよ?」
「このっ、こうなったら仕方ねえ!」
「おい、それは流石に……」
「馬鹿野郎! 負けたらこれまで奪われるんだぞ!」
「っ!? そうだな! やるぞ!」
「おう!」
「?」
小首を傾げると剣士の男が懐から何かの石を取り出した。盾の男も同じだ。
「召喚・羅刹天!」
石が光輝き、巨大な魔法陣から4メートルくらいありそうな大きな鬼が現れる。
「はっ!」
嫌な予感がしたので、ボクは鬼が現れる前に攻撃を仕掛ける。
「させるか、イージスの盾!」
しかし、盾の男が割り込んで来て、何かのスキルを発動させる。すると巨大な光の盾みたいなのが出現した。
「邪魔っ!」
でも、物理破壊者を持つボクの敵じゃない。光の盾を貫通させて普通の盾を殴りつける。
「馬鹿なっ!?」
これで盾の男は消滅し、残るは一人。
「よくやった! 蹴散らせっ!」
巨大な鬼はその大きな拳をボクに向かって放ってくる。それに対して、ボクも小さな拳を全力で放つ。大きな拳と小さな拳が互いに重なりあい、ボクのヒットポイントゲージは大きく減らされた。でも、大きな拳が粉砕されて光へと消えていく。
「嘘だろっ!?」
「うわぁ、ありえねえ」
「金髪幼女、怖い」
「ステキっ!」
残った拳を振り上げてくる鬼に対して、今度はアースシールドを通過する腕の下から生やして軌道を変える。そのまま飛び上がって、腕に乗って頭部へと移動する。
「っ!?」
鬼の大きな角を掴んで、ぶら下がって角の付け根に近距離からドラゴンブレスを放ってやる。すると角が圧し折れて鬼は消滅していった。ボクの手には角だけが残った。
「さて、次は何を見せてくれるのかな?」
「あっ、ありえねえっ、こんな事はありえねえっ!」
「残念、現実だよ」
男の頭を蹴り飛ばして始末する。でも、その時に視線がスカートの中に行ったのを見逃さなかったボクは徹底的に叩きのめした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます