第8話 プルル・ジョゴスとの闘い




「掃除、終わったよ」

「どれどれ……」


 掃除が終わり、カウンターの席に座って読書をしていたお婆さんに報告を入れる。すると、お婆さんは立ち上がって部屋の隅々まで確認していく。指で窓枠を擦り、息を吹きかけたり、天井や本棚の上も同じようにして確認していく。それが終れば本の確認をしていく。


「うん、確かに綺麗になっておるさね。本の順番はどうしたんだい?」

「手前が初心者用っぽいのにして、後ろは上級者っぽいものにしたよ」

「ぽいってねえ……」

「だって、読んだら駄目なんでしょ?」

「まあ、そりゃあね。中には使い捨ての魔導書がるからねえ。しかし、アンタはいいお嫁さんになるよ」

「いや、ボクがなるのは婿だからね⁉」

「何処からどう見ても違うんだけどねえ……」


 いや、確かに炊事洗濯、掃除はできるし、服を作ったりもできるけれど、それはお婆ちゃんに弟子入りしている時に教えられただけで……ボクはあくまでも男な訳だから婿で間違ってないはずっ!


「そっ、それよりも報酬を頂戴よ! ドロップ自動収集のスキル!」


 そう、ボクが欲しったのはドロップ自動収集のスキルだ。これさえ有ればボクの体質(?)であるモンスターの引き寄せを使って纏めて倒す問題点が無くなってくれる。勝手にドロップがウエストバックに入ってくれるんだから。


「何言ってるんだい。既に渡してるじゃないか」

「え?」

「その服についてるんだよ。ドロップ自動収集のスキルが」

「なんですとっ⁉」


 ボクは思わず床に手を着く。だって、それってつまり……この服を脱ぐと意味が無い訳で……終れば直ぐに脱ぐはずだったんだけど……それすら無理になった。ここはもう諦めてしまうか。


「あ、それは装備したら一週間は脱げないからね」

「呪いの装備!?」

「その分、効果は高いさね」

「それは……見てなかったや」


 改めて服のステータスを確認する。


 床闇のワンピース

 防御力200

 スキル:ドロップ自動収集、身体能力増加Ⅰ(50%)、闇属性魔法Lv.2、自動回復向上Lv.1、闘争心増加Lv.1、自動修復Lv.3、暗視

 状態:良好、呪い

 備考:鮮血の魔女メアリーが若い頃に着ていたワンピース。膨大な魔力と夥しい返り血を浴びて黒く染まっている。

 一度着ると一週間は脱げない呪いが掛けられている。また、解呪や聖水などで期間外に無理矢理脱ぐと全ステータスが80%減少する。


「強い。強いけどさっ!」

「かっかっか。使えばいいさね。前の格好もそんなに変わらんさね」

「いや、服は男物を買おうとしてたんだけど、お金がなくてね?」


 生活用品を揃える為にもお金が必要で、資金稼ぎをしなくてはいけない。その為には戦闘をしないといけないわけで、そうなると装備が必要で……後回しにしてただけだ。


「それにしばらく着て戦っていると装備に装着されているスキルを習得できるさね」

「へぇ……それは良い情報だよ」


 こうなったら仕方ない。できる限り習得を急ごう。


「それとコートとかで隠すと効果がなくなるからね」

「わ、わかったよ」

「じゃあ、次のお願いを聞いてもらうさね」

「まだあるの⁉」

「もちろんだよ。次はプルル・ジョゴスから出るプルルゼリーを10個持って来るさね」

「10個ね」


 何に使うかわからないから売っちゃったんだよね。値段は1個2000Gくらいしたし。レアアイテムなだけあって、出すのに結構な数を倒さないといけない。


「大量に狩らないと駄目なんだよね。報酬は?」

「そうさね……報酬はお楽しみという事にしておこうかね」

「前報酬としてエンチャントが欲しいなあ~なんて……」

「あんた、魔法攻撃持ってるから問題ないさね」

「いや、ボクは格闘系だからね」

「物理で殴り殺せばいいさね。その方が面白いさね」

「いや、ダメージが通らないから」

「障壁でもない限り、1点は確実に入るさね」

「何発殴れと!?」

「10万さね。それともできないのかね? アタシはアンタくらいの時に杖でやってやったよ。いやーあれは面白かったさね~」


【キャラクターサブクエスト・魔女メアリー②:アイテム収集。プルル・ジョゴスよりプルルゼリーを10個入手して納品せよ。達成報酬:不明。依頼を引き受けますか? “Yes”“No”】

【キャラクターサブクエスト・魔女メアリー③:プルル・ジョゴスを物理攻撃のみで10万回攻撃して討伐せよ。達成報酬:不明。依頼を引き受けますか? “Yes”“No”】


 10万回も殴れって事だよね。無茶苦茶だ!


「ヒューリンのアタシができて、竜族の、それもお姫様のアンタができないとは……はっ、とんで笑いものだね!」

「ぐっ⁉」

「そんなんじゃ金竜の名が泣くさね」

「わかったよ! やってやるから報酬を用意して待ってろぉぉぉっ!」


 “Yes”を二つ共選択して本屋から走って出て行く。


「頑張るさね~……」





 ※※※




 東門から出て草原を奥の方まで全力で突っ切る。身体能力増加のお蔭で全体的に強化されているから、直に奥の方まで走り抜けられた。振り返ると、こちらに向かって来る赤い月に照らされた凶暴そうな大量のモンスター達。


「すぅぅぅぅ……ドラゴンブレスッ!」


 口から特大の光線を吐き出して纏めて消滅させる。そのつもりだったのだけれど、ドラゴンブレスに飲み込まれたモンスター達はその大半が残った状態でこちらに突っ込んできた。

 夜だからか、強くなってるみたいだ。なら、もう一発撃つだけだ。


「うぇっ……どらごんぶれすぅ~」


 不味いマジックポーションを飲み干して放つ。不味さのせいと、気持ちのせいか威力は減ったけれど今度はきっちりと倒せた。すると大量に現れるドロップ品はボクに向かって一斉に向かって来る。


「っ⁉」


 ちょっとした恐怖だ。でも、ちゃんとウエストバックに収まってくれた。これは非常に楽だ。そんな風に思っていると巨大なモンスターが現れた。昼間と違って大きさが1.5倍くらいもある。


「あははははは、やってやんよーっ‼」


 両手で頬っぺたをバチンッと叩いてから気合を入れてプルル・ジョゴスに挑む。プルル・ジョゴスは無数の触手を出してボクを攻撃して来る。しかし、身体能力が上がったお蔭もあってその攻撃がはっきりと見える。だから、拳を合わせて殴りつけて弾き返す。

 一発だけじゃなく、どんどん数を増して襲い掛かってくる鞭のような触手を目と直感に従って身体を横にしたり、前に転がったりして避ける。

 首を傾げればすぐ横を触手が通過して地面へと突き刺さる。別の触手が上から迫ってくる。同時に背後からもきている。左に避けるしかないけれど、横にある触手を掴んで、それを軸にして上に逃げるように回転して避ける。更に上から襲い掛かる触手は蹴り飛ばして防ぐ。けれども、空中で触手に打たれて吹き飛ばされた。

 空中で回りながら体勢を整えて地面に手を付きながら速度を殺して再度突撃する。視界の片隅に写るヒットポイントゲージは一割削れている。けれども急速に回復していっているので放置する。竜族の回復速度は相当やばいみたいだけれども、流石に一分くらいはかかりそうだ。

 攻撃の方は触手がボクに集中して集まる間に人形操作でぬいぐるみを操って噛みつかせておく。これで継続ダメージが入ってくれればいい。


「しっ、かっ、しっ! ジリ貧だね!」


 触手が離れ、無数の瞳から光線が放たれる。それを後ろに身体を傾けて両腕を回しながら棒映画みたいな回避を行う。避けたら、そのまま回転して地面に足がついた瞬間に相手に向かって突撃して飛び蹴りを瞳の一つに拳を叩き込む。するとダメージが少し、ほんの7点だけ入って瞳の一つが潰れた。

 こういうのもなんだか楽しくなってくる。でも、このままじゃ不味い。もっと速く、効率良く動かないといけない。そう考えていても方法を思いつかない。ただひたすらに避けて、避けられない攻撃は受けてちょっとずつでもダメージを叩き込む。これを繰り返すしかない。



 ※※※



 三時間が経過した。既に10万回の攻撃を終えてクエストは達成になっているのだけど、相手が倒れない。このままじゃ不味いかも知れないけれど長い時間、戦闘を続けていると相手の攻撃パターンが段々と読めてくる。

 直感もあるので的確に相手の攻撃を捌いていけるようになってくる。でも、決定打に欠けている。いや、そもそも魔法を封じている時点で当たり前なんだけどね。後、邪魔な奴等も寄ってくるし。こっちがボス戦だなんて、フィールドだから関係ないしね。


「だぁぁっ、鬱陶しい!」


 噛みついてきたウルフを掴んでプルル・ジョゴスへと投げつける。プルル・ジョゴスはそれを弾き飛ばす。そして、直に触手の雨が飛んでくる。それを弾いて弾いて弾きまくる。

 集中して弾かないと直ぐに被弾する。だから、逃げて回復して再度突撃を繰り返しているわけだけど……力を一点に集中できたら大ダメージを与えられそうだ。って、できそうなのが有った。

 竜脈操作で足に力を溜めて突撃する。すると、今までよりも明らかに速度が増している。

 襲い掛かる触手を竜麟に竜脈の力を集めて強化して突撃。そのままぶつかると触手が弾かれた。なので今度は拳に集めて速度を乗せて殴りつける。


「ヤァァァァァッ‼」


 竜脈の力を纏った金色の光の粒子が集まる拳はプルル・ジョゴスの身体を破壊し、窪ませた。

 このまま一気に決める!

 ラッシュをかけて削っていく。しかし、相手もただではやられてくれない。触手で反撃してくるので動き回りながら攻撃すると同時に攻撃のタイミングに竜麟を強化して高密度の金色の光で防ぎ、また攻撃に切り替える。

 心臓がドクドクと速く鳴り響く中、みるみるうちに削れていき、最後の一撃を入れる時、同時にボクも攻撃を受けてHPがつきかける。


「今だ!」


 拳に纏わせた力を相手の内部で爆発させる。すると相手のヒットポイントゲージが削り切られ、ボクのヒットポイントゲージは真っ赤になった状態で8点を残して止まった。


「ふぅ」


 プルル・ジョゴスは光の粒子となって虚空に消えるように消えていく。その幻想的な様子を草原に倒れながら見詰める。


【赤き月のプルル・ジョゴスの単独討伐を達成致しました。プルル及びプルル・ジョゴスが一定数倒されたため、プルルキラーの称号が付与されました。

 物理耐性を持つモンスターに対して規定数以上の物理攻撃のみで討伐されたため、物理破壊者の称号を習得しました。

 レベル差が30以上離れているボスを単独で討伐した為、上位存在討滅者の称号を習得しました】


 リザルト


 ドロップ

 プルルゼリー(プルル・ジョゴス)

 プルル・ジョゴスの触手*3

 プルル・ジョゴスの魔石

 初回討伐報酬

 物理軽減のスキルスクロール

 初回単独討伐報酬

 スキルブック


 入手した称号

 プルルキラー:プルル系統に対してダメージ50%増加。ダメージ軽減50%。ドロップ率10%上昇。VIT+500

 物理破壊者:STR+200、ATK+500。相手の物理耐性、物理障壁を無効化し、相手の物理防御力を50%削減する。

 上位存在討滅者:レベル差が10離れるごとにステータスが1.5倍される。



 うん。ある意味で使えるけれどなにこの称号! 物理破壊者って酷いよ! 物理法則を壊したとでもいいたいのかな!

 プルルキラーはどうでもいいや。使えるしこれはあり。上位討滅者は普通に使えるね。ボクにとって格上しかいないだろうし。っと、物理軽減のスキルスクロールは使っておこう。どんどん硬くならないとね。物理軽減はLv.1で5%の物理ダメージを軽減してくれる。


 習得していると空が明るくなってきた。森の向こうの方から太陽が上がりだし、草原を黄金の絨毯へと変えていく。綺麗な光景だけれど、疲れたし今日はログアウトして寝よう。気付いたらもう夜明けだしね。





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