第3話 幼馴染み♂を売る その6

 ルミナと二人で溜まり場に戻ると、他のみんなはもう全員、集まっていた。

 俺たちが腰を下ろすと、マスターさんが立ち上がる。


『これで全員、揃ったな。改めて、お疲れさまだった』


 深々とお辞儀をしたマスターさんに、思い思いに座っていた面々から『こちらこそ』『お疲れさまでした』などと声が上がる。想像以上に早く終わったことで、みんな、互いを労う余裕を残しているようだった。


『それで、マスター』


 一人が吹き出しポップを浮き上がらせる。


『なんだね?』

『誰があいつのSSを撮ったの? っていうか見たい! どっかに上げてよ』

『ああ、それなのだが……』


 マスターさんは間を取ろうとするように発言する。その発言がポップしているうちに次の発言を打ち込んでおこうというつもりだったのだろうが、二の句を継いだのはルミナだった。


『それ、わたし。わたしが撮ったの』

『おーそうなんだ』

『でも、今日はPCが不安定で、ブラウザを起ち上げるとゲームが落ちちゃうかもだから、明日まで上げるようにしとくよ』

『そっか。早く見たかったけど、なら仕方ないね』

『うん、ごめんね』

『いいよ。明日までの楽しみにしとくー』

『うん』


 ルミナが笑顔で頷く仕草をしたところで、それまで黙っていたマスターがすぐさま発言した。


『では、画像の確認や通報などは明日以降ということにして、今夜は解散としよう。みんな、本当にお疲れさまだった』


 俺も慌ててチャットを打ち込む。


『みなさん、協力してくれて本当にありがとうございました』


 クラッシュを立ち上がらせ、深々とお辞儀する仕草を取らせた。


『いえいえ』

『困ったときはお互い様だし』


 そんな温かい言葉が返ってきて、不覚にもパソコンの前で目頭をつんと熱くさせてしまった。

 こうして和やかな雰囲気の中、お疲れさま会は終わった。みんな、そのままログアウトしたり、狩りに出かけていったり――と、ロビーからぽつぽつ消えていく。

 俺も今夜はもうログアウトしようかと思い、そのことをルミナに伝えようとチャットを打ち込んでいた。

 そのとき、ルミナのほうから個人チャットが飛んできた。


『明日の夜は時間を空けておいて』

『分かった』


 俺はすでに打ち込んでいた文章を消してから、とりあえずそう返答した。それから続けて、個人チャットを返す。


『明日の夜、何かあるのか?』


 返事は、思ったよりも長い間を置いてから返ってきた。


『ちょっと考えをまとめたいから、明日話す』


 その端的な返事には、いまはこれ以上聞かないでほしい、という意図がありありと表れていた。だから俺には、


『……分かった』


 と、わざわざ文章に“……”をつけて返すくらいのことしかできなかった。

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