第21話 去らばもろとも

「いや~実際、土壇場でいい考えだったな」

三郎がご満悦である。

「いやまったく…三郎殿、大逆転ですな」

忠信ただのぶが持ち上げる。

「でも…行き場が無くなっちゃったわね~」

嗣信つぐのぶがカモメを眺めながら呟く。

「まぁ…もとより身の置き場なぞ無かったから…どうでもいいがね…俺は、山賊から海賊へ鞍替えしたと思えばよ」

三郎がキセルを咥えながら、ニヤッと笑う。

視線の先には、子供と遊ぶベン・ケーの姿。

「ジュニア…スキ…」


「すまぬな…湛増たんぞう殿」

義経が湛増たんぞうに頭を下げる。

「よいよい…気になされるな、義経殿…好きでやってるのじゃ」

「そうよ~湛増たんぞうちゃんは変わり者が好きなのよ~」

静が茶々をいれる。


「しかし…本当に良いのか?」

「良いのです…この坂東の国に、私の身の置き場はありません…」

「だからって…まぁ、こんなお人だから…俺も付き合ってんだな」


見渡す限りの水平線…ここは海上。

揺られる船のうえ。


「見えたぜ…義経殿」

「あれが蝦夷えぞか…」

義経の視線の先には蝦夷えぞの大地。


蝦夷えぞで暮らすのかい…厳しい土地だぜ…」

湛増たんぞうが義経に問う。

「いや…大陸に渡るつもりです」

「大陸…」

「はい…ベン・ケーの故郷へも行ってみたい」

「ベン・ケーのね~どこの産まれやら…」


「Boyミテ!ジュニア、BigなFishツッタヨ」

義経の子を肩車して走ってくる黒い大男。


魚を振り回して、手を滑らせる。

魚が義経の顔にビターンと当たる。


笑いが溢れる船のうえ。

HAHAHAHAHAHAHA

「Sorry Boy」

(これでいい…笑いながら生きていければ、この空の下で…それにしても、なまぐせぇ~)



その後…

頼朝は奥州へ出兵、奥州17万騎を破り征夷大将軍となる。

奥州は4代で滅ぶこととなる。

頼朝の死後、2人の息子は北条家に殺され、源家の血は絶える。

讒言ざんげんを繰り返した、梶原も失脚後、謀反を起こし敗死。

梶原家も滅亡する。


夏草や つわものどもが 夢のあと…。

平泉で芭蕉が読むのは5百年の後の世である。


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残念絵巻 義経編 桜雪 @sakurayuki

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