第13話 敵は誰ぞ…

「一ノ谷が燃えている…」

知盛とももりに届いた報は、一ノ谷落つ、大将 宗盛むねもり帝と敗走の知らせと合わせてであった。


「義経ー!」

知盛とももり狼狽ろうばいを隠せぬ叫びをあげた。

平家が崩れ出す…。

半泣きのまま、馬上で太刀を高々と掲げ、義経が半ギレ気味に突っ込んでくる。

(死ぬかと思った!死ぬかと思った!死ぬかと思ったー!)

もう怖いモノ無し!


源義経みなもとのよしつね、いざ尋常に勝負!」

平教経たいらののりつねが土煙の中から姿を現す。

その顔、まさに鬼……完全に盛り返され敗走している平家の軍の中で唯一勝気を失わない男、KYである。

そのまなこは義経ただ一人を見据え真っ直ぐに突っ込んでくる。

「おおおぉぉお!」

どちらの叫びか解らない程の距離、馬の首が重ねる刹那!

義経の太刀と教経のりつねの太刀が交差する。

「ぐっ…」

完全に力負けした義経が馬上で身体をよじる。

体勢を崩した義経が馬を反転させる前に、教経のりつねの二撃目が義経を襲う。

「Boy!」

ベン・ケーが辛うじて、薙刀の切っ先で教経のりつねの太刀を受け流す。

「邪魔するな下郎!」

ベン・ケーと教経のりつねが睨み合う。

教経のりつね退くぞ!この戦、負けじゃ…」

知盛とももり教経のりつねを追ってきたのだ。

知盛とももり殿!」

退け!我らは海の平家ぞ!この海に船あるうちは平家は沈まぬ!ここは退け!」

知盛とももりさとされ、唇を噛みながら馬を走らせる教経のりつね

「すまぬ…教経のりつね

小声で知盛とももり教経のりつねに詫びる。

「なんの…」

厳しい顔で義経を見据える知盛とももり

「義経!その顔忘れん!次は船戦ふないくさじゃ!我らを海へ追いやったこと後悔するがいい!」

そう言い残し、戦場いくさばを後にした。


「勝ったのか…」

誰よりもその勝利を信じられないといった顔の義経であった。


――吉報が鎌倉の頼朝よりともに届く。

「一ノ谷を落としたか……」

「はっ!義経殿の強襲が決め手でありました」

「……またも義経……」

「まこと鬼神のような働きぶりで……云々」

「よい!下れ!」


急に不機嫌になった頼朝よりとも、その胸中は複雑であった。

京攻きょうぜめに続き、一ノ谷を落とすとは……。

此度こたびこう、大きすぎる…。

そう、頼朝よりともが最も恐れていることは、平家でも朝廷でも奥州でもない。

源氏の棟梁とうりょうたる自分に取って代わることが出来るもの。

義仲よしなかであり、義経である。

(義経のこう…断じて認めるわけにはいかぬ)


頼朝よりともは、そのほとんどの将を鎌倉に凱旋させたが、最大の功労者である義経は鎌倉に戻ることを許さなかった。

京守護の任を与え、京に残したのである。

また、朝廷には源家に連なる 範頼のりより義信よしのぶ広綱ひろつなの3名を功労者とし、国司こくしにと要望を提出したのである。


「なぜに、我が殿の名がござらぬのか!」

憤慨ふんがいする忠信ただのぶ

「そうよね~、義信よしのぶ広綱ひろつな?って誰なのよ?」

嗣信つぐのぶの不服は、褒章でもなければ、ましてや義経のことではない、畠山重忠はたけやましげただが鎌倉に帰ったことである。

「ちょっとあからさまだよな」

三郎も気に入らぬといった様子。

ベン・ケーは、庭で猫と戯れている、本来、戦場いくさばでなければこういう男なのだ。

HAHAHAHAHAHA!

「キャット、~」


(ひょっとして…兄上に、めっちゃ嫌われてるん?)

さすがに気づく義経であった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る