第11話 3度目の正直?

「うん?…………はっ!」

木曾義仲きそよしなかが目を覚ますと、眼前に巴御前ともえごぜんの美しい顔が涙を溜めて覗き込んでいる。

ともえ……義経は!」

「伝言がございます」

「伝言…義経からか?」

「はい、木曾きそにお逃げください…とのことです」

「なっ…バカにしおって!」

「殿!」

義仲よしなかも解っていた。討ち取ろうと思えば、たやすく討ち取れたはず、それをせずに見逃したのだ。

「礼を言わねばならんな…義経いとこに…」

ともえ木曾きそが懐かしくなったな…似合わぬことはやめて、木曾きそへ帰ろう」

「はい…殿」


旭将軍あさひしょうぐん、今、夕日に消える…。

吸い込まれるように、寄り添い馬を走らせる2つの影が夕日に呑まれていく。


「良かったんですか?殿」

「良い…最大の功は、後白河院ごしらかわいんの救出であろうと思う」

「まぁ、殿らしいですがね」

三郎が肩をすくめる。


寿永じゅえい三年 1184年1月20日

鞍馬山を出て10年、ふたたび京へ入る義経であった。


義仲よしなか敗死』の報は5日後、鎌倉の頼朝頼朝へ届く。

ふみたしなめたのは梶原景時かじわらかげとき、一人で戦ったような報告であった。

景時かげときは義経の功には一切ふれなかった。


京での義経の評判は上々で、軍規も乱さず、義仲よしなかの兵のような狼藉ろうぜきなども一切なく京の人々に受け入れられていた。


「で、義経は何か褒美をねだっておらぬのか?」

「はい、特になにもいらぬと、しばし静かに休みたいそうで」

「なんとも欲の無い男よの」

後白河院法皇ごしらかわいんほうおうは義経への褒美に悩んでいた。

官位はいらぬ、金もいらぬ、…女かの、女子おなごを向かわせるか!

白拍子しらびょうしを向けようかの」

「そうですな…」


――

「院より京一番の白拍子しらびょうしを差し向けるゆえ、堪能あれ」

忠信ただのぶが院からの手紙を読み上げた。

白拍子しらびょうしのぉ~」

「殿!良かったな」

三郎が義経の肩を肘でつつく。

「やめい!白拍子しらびょうしか…なんか嫌な思い出が…というか嫌な思い出しかない……」

「嫌な思い出って?」

嗣信つぐのぶが義経に尋ねる。

「不思議と、付いていくと、縛られるているのじゃ…摩訶不思議よの」

HAHAHAHAHAHA!


酒の席も、ほどほどの時刻となると、

お面を付けた、白拍子が数名入ってきた。

「女はちょっとね~」

嗣信つぐのぶだけが今一つ不服そうであるが、概ね良好である。

「義経ちゃん♪」

なにやら聞き覚えがある様な…寒気が走るような…。

「ばぁ~!」

お面を取ると

「静ちゃん!」

「久しぶりねェ~♪、立派になっちゃって」

と股間を擦るあたり、さすが京一番である。

「いやぁ~、ベン・ケーに比べれば、まだまだ…言ってる場合か!」

「怒らないの♪とぎっちゃう?」

「騙されぬぞ!もう騙されぬ…」

「なに?疑うの?ぱふぱふしたくないの?ぱふぱふ」


……♪……

「どうだった義経ちゃん♪」

「うん……静ちゃん大好き」


翌朝、

「軍議である!」

大手の大将、範頼のりより、義経の陰で歯ぎしりしていた男である。

「平家討伐に出陣する!」

(いきなり~、疲れてるのに~)

皆、あからさまに嫌な顔である。

この男、手柄が欲しくてしょうがないとみえる。

まぁ大手の大将でありながら、手柄を全部、搦手からめての義経に持っていかれたのだ、立つ瀬がない、かくなるうえは、平家追討しか残されていないのである。

京でも居づらい毎日であったし…。

「そのとおりでござる、義経殿のように、一時の勝利におごり遊び呆ける毎日ではみなもとの名が泣きまする」

景時かげときとは、こういう男である。


この頃、平家は福原まで進み、西は一ノ谷に城を構え、東は生田の森まで陣を構えていた。

知将 平知盛たいらのとももり京はあえて捨てたと言い放つあたり只者ではない。

そして、平教経たいらののりつね、勇将として名を馳せる平家の丈夫ますらおが義経を迎え撃つ。


軍議の結果、梶原景時かじわらかげとき土肥実平とひさねひらが交代となった。

範頼のりよりのほうが、扱いやすいと判断した景時かげときが強引に交代を迫ったのだ。


義経に与えられた兵は五百、搦手からめてである。

これに実平さねひらの兵二千が加わる。

難攻不落の一ノ谷を落とす…これが義経に与えられた命であった。


「静ちゃん、余はまたいくさに駆り出されちゃったよ(泣)」

「義経ちゃん、かわいそう、もう奥州に帰っちゃう?奥州でとぎっちゃう?」

「うん……でも奥州に帰るとか言えない雰囲気が(泣)」

「京もいくさばかりだから、静、奥州に帰るね、待ってるわ♪」

「うん、余も奥州に帰るよ、もうちょっとしたら」


源氏 京を発つ。

この報を受けた知盛とももり

「義経が消えた?」

「はっ、大手に義経はおらぬとの報告です」

「消えた…と見せて…義経はココよ!教経のりつね、夢の口にて義経を討つ!」

「応!」

薄く微笑む平家の知将・勇将であった。

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