真夏の夜の的な

 まだ尺が余ってるので、私が体験した不思議なお話を。

    

    

    

 基本的に私は、死後の世界とか、霊魂とかは信じていません。

 生き物は、死ねば無に帰ります。

     

 でも、目に見えない存在はあると思ってます。

 あんまりはっきり定義はできないけど、言ってしまえば「住んでいる次元が違う」存在があって、

 その中には、良いものもいれば、悪いものもいて、

 悪いものは日々人をまどわせたり貶めようとしたりしてると画策していると考えます。

 そうしたものたちが、死んだ人を装って、生きている人を惑わせることはあると思います。


 そうした私自身の見解も踏まえて、以下をお読み下さい。

     

    

 小学校の頃の話です。

 私には、五歳と一〇離れた妹がいます。

 下の妹は両親と寝ていて、私と真ん中の妹は、二段ベッドを使っていました。


 妹が、私の寝返りを打つ音がうるさいというので、私は下で寝ていました。



 夏だったと思います。部屋という部屋の襖は開いていました。

 きっかけも順序も良く覚えていないのですが、当時はよく金縛りに遭う子でした。

(今は全然です)

 金縛りって、あうときがわかるものです。

 寝ようとすると、耳鳴りのような、不思議な感覚があって、あ、くるな、と思うと、だいたいうとうとした頃に金縛りに遭います。

 最初も、そんな感じだったと思うのですが、大変だったのは、それが1週間ほども続いたことでした。


 金縛りって、すごい疲れるんです。

 振り切って寝ようとしても、あうときは一晩2回3回はあるので、だいたい寝不足です(金縛りのメカニズムは諸説あるようですが、いまだにこれといったものは目にしてないです)。

 そのうち、金縛りだけでは済まなくなってきました。


 当時、部屋の灯りは、紐を引っ張ってスイッチをオンオフにするタイプで、寝ながらでも消しやすいように、延長用の紐をつけて、そこに5円玉をくくりつけてあったんですが、

 風もなく、誰も触ってないのに、紐にぶら下がった5円玉が、ずっと揺れている。

 誰かがぶつかったのだとしても、いずれは揺れがおさまって止まるはずなのに、ずっと変わらずに揺れている。

 しかも真夜中です。誰も通ってないんです。

 声も出せずに、明け方までそれを見ていた記憶があります。


 金縛りにあって目を開けたら、知らない男の人の顔が目の前にあったり、

 ある夜は、何回も何回も金縛りにあうので、うろ覚えのお経を唱えてみたところ、

 更に圧迫感が強くなってひどい目に遭いました。

 なんで下で姉がこんな目に遭ってるのに、上にいる妹はまったく平気なのか謎です。

 ほかにもいろいろあった気がしますが、時間が経ちすぎていて思い出せません。



 一番ひどかった夜のことです。

 あまりにも金縛りがひどいところに、ベッドの右横の襖の近くに、父が立っていることに気がつきました。

 助けを求めようと腕を伸ばすと、父も手をつかんでくれました。

つかんでもらってから、その「父」が半分透けている事に気がつきました。


 そもそも、ベッドの頭の方には柵があって、私がまっすぐ手を伸ばすことすらできないのです。

 気がついたとたん、「父」の姿は消え、代わりに強い力で見えない誰かが私の両肩をつかんで大きく揺さぶりました。


 不思議なのは、毎晩のようにひどい目に遭っていたのに、誰にもそのことを話そうという気にならなかったことですね。



 一週間ほどひどい状態が続いて、精神的にというよりは肉体的に参っていた頃、

 ラジオだったかTVだったかで、ちょうど心霊現象の特集をしているのを見ました。

 その中で、「合わせ鏡は霊の通り道を作る」という話になり、はっとしました。


私たちが寝室に使っていた和室は、隣に居間があり、夏の間はふすまを開け放っていました。

 その居間のテレビの上に、ちょっと大きめの鏡がかかっていたのですが、ちょうどその反対側にあたる和室の柱に、温度計についた小さな鏡がかかっていたのです。


 温度計の鏡の方をひっくりかえすようにしたら、その一連の現象はぴたりとおさまりました。

 鏡はずっと以前からその状態だったはずなので、なぜその時いきなり一連の現象が続くようになったのかは判りませんが、

 鏡のことはきっと、何者かにとって都合のいい状況を構成する一つの要因になり得たのでしょう。



 この話には後日談があります。


 成人してからですが、稲川淳二の出ている番組で、視聴者の心霊的体験談を紹介しているコーナーがあって、なにげなくこの話を書いて送ったところ、採用されたらしく、

 残念ながら私はそのときの放送を見ていないのですが(なので、稲川氏的な解説がどうついたのかも判らない)、後日その番組から、稲川氏の怪談のCDが送られてきました。お守りがついてるCDなんて初めて見ました。

 そのCDは、知り合いに貸したところそのまま帰ってこないまま、今は交流が途絶えてしまいましたが。




 話のネタになるような大きなものはこの程度ですが、通りすがりの単発な不可思議現象は、昔は良くありました。

 高校の頃なんかは、部活の部員の3/4がいわゆる「霊能者」「霊媒体質者」でいろいろ騒ぎがあったのに、周り曰く「ちかさんは大丈夫な人」なのだそうで。

 自分自身には、大きな事はなにもなかったです。周りにネタはいっぱいありましたが。



 最近はもう、まったくそういうことはないです。

 一番最近に、ちょっと怖い目にあったのは、前の回でお話ししたバイク事故で入院したときですね。

 最初の手術で、腰椎麻酔をかけられ、下半身が動かない状態でうとうとしていたんですが、

 いきなり入り口からおじいさん(自分は起き上がれないから見えないはずなのに、おじいさんだと言うことはわかった)が入ってきて、私の足を持って左右に揺り動かし始めたんですね。

 二カ所も骨折してるので、そんなことされたら外科的にたまったものではないはずなのですが。

 声が出ないので、とにかく頭の中で「やめろ~!」と思ってたら、いつの間にかおさまって、おじいさんもいなくなってましたけど。

 事故直後で精神的に不安定だったのと、麻酔の影響のせいもあったのかな。

 それが、今のところ最後。



 大人になって、自分自身が確固としたので、よく判らない存在に影響されにくくなった、ということなんでしょうかね。




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