第五話 しーな、コンビニについて勉強する


 12/4 全員へ

 「ペコ缶」またまた発見の件

 缶コーヒー(ルーツライフボディ)2缶が後の棚から発見されました。

 買い取り者がいなければ、全員に4缶分づつ(116×4=460円)が罰金として課されます




 オーナーが相変わらずの暴走を続ける中、しーなはコンビニの仕組みについて、今更だけど勉強を始めた。



 オーナーとフランチャイズ(コンビニの看板を貸している、チェーン本部側ね)との関係とか。

 お店の収入のどれくらいがフランチャイズ側に渡って、どれくらいが利益として残るのか。

 細かい割合はフランチャイズによって違うけれど、はっきり判ったのは、フランチャイズ側に渡した残りのお金で、必要経費や人件費をまかなった、更にその残りが、オーナー達の利益になるっていうこと。

 ロスの増減はそのまま、オーナーたちのお財布に影響してくる。

「罰金」として集めたお金も、雑収入などで計上されていないのであれば、全部オーナー達の懐に入っているみたいだった。

 ほんと、今までお店のことに無関心すぎたな、と思う。


 確かにね。

 生活のこともそうだろうけど、お店の開店資金の返済とか、まだまだ残ってるんだろうと思うんだ。

 できる限り自分たちの利益を上げたいという気持ちは、判らないではないよ。

 でも、人を使う立場なんだもの。感情論ではない、きちんと理屈の通ったやり方でいかなきゃ、ダメだよ。

 同じことを何回も言っても聞かないから罰金、という前に、相手の理解力に見合った教えかたをしていないのかも知れないって、頭を切り換えることはできないのかなぁ。

 

 しーなだって、今までいろんな人に会ってきた。

 10のうち1を言えば全体が判ってしまう人もいたし、逆に10を10全部話したつもりでも、話が半分も通じていない人もいた。

 これが単なる個人レベルの知り合いなら、途中で「もういいや」って説明をやめちゃったとしても、仕方がないかもしれない。

 でも、そのひとを従業員として雇うことを決めたのは、オーナー達自身なんだよ。

 人によって理解力には差があるんだから、「この人を使う」って自分で決めた相手なんだもの、そのひとのレベルにあわせた諭し方も、ある程度考える必要があるんじゃないのかな。

 あきらめるのはそれからの話じゃない?


 それを、ぽんとノートに書いて、「ノート読んでね」で満足しちゃってる。

 全員が本当に全員が読んだのか、理解したのか、納得したのかなんて、お構いなし。

 実際ほかのみんなを見ていると、ノートに書かれた内容が、特に罰金に関しての説明があまりにも判りにくすぎて、理解する努力すらしていない人が何人かいたんだ。

 しーなだって、話がおかしいと気がついてやっと、書かれている内容の意味を考え始めたくらいなんだもの。

 まだ高校生のなつみちゃんなんて、「なに書いてるかわかんない」って、苦笑いしてた。




 オーナーに、へこみ缶を買い取ってくれって言われ始めたときから、やっぱりお店の収支状態はあまりよくないんだろうな、とは思ってた。

「廃棄が年間1,000万だって」

 なんて、冗談交じりで奥さんが言ってたこともあったしね。

 でもその一方で、特定の人の時給だけはあからさまに上げていくんだ。


「あいさつがいい」

「(たった二週間だけ)担当商品の売り上げが県内トップ」


 なんて、些細な口実を見つけては時給を引き上げていく。

 見ているこっちとしては、そんなに経営が厳しいのだとは思えないよ。


「時給っていうのは、ロスとかもある程度考慮した上で設定されているはずだよ」

「駐車場も広くなって、売り上げも伸びてるんでしょう? それでも利益が上がらないのは、やっぱりオーナーに経営のセンスがないんだよ」


 多賀部さんの指摘が、オーナー達の考えの甘さを的確に示していたのが、事態を分析すればするほどよく判った。

 しーなはレジの本点検もやっていたから、以前に比べて一日の売り上げがだいぶ伸びてきていたのは知ってた。

 もちろんそれが即、利益の増加につながるわけではないことは判ってるよ。

 お客さんの数が増えたことで、それまで全時間二人勤務の体制だったのが、今では深夜帯以外は三人体制でやっているから、人件費だって当然増えている。

 でも、日中のすべての時間帯に平均してお客さんや品物が入ってくるわけじゃない。お客さんも切れて、納品まで時間がある、というときに三人は多すぎる。そういう時間って、まめに店の様子を見ていればある程度予測はできる。

 でも、そういうのも考えてシフトを練り直すわけでもない。


 ロスが多くて困っているというのに、具体的にどう対策をすればロスが減らせるのかを考えたり、マニュアルを作るわけでもない。

 連絡ノートには「不注意だ」って文句ばかりを書き、ねちねちミスを指摘するだけなんだ。

 それでも同じようなミスがなくならないんだから、いい加減自分のしていることがなにも役だっていないのだと気がつかなきゃいけないのに、

「だったら罰金を増やせ、罰則を増やせ」

 なんだもの。



 オーナーたちはやり方を変えない。考えを改めない。

 なのに、周りだけが都合良く変わるわけ、ないよね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る