第29話 『白い家と黒い家』そのⅦ

         『白い家と黒い家』そのⅦ


 おかしい・・・何かが近付いて来るような気がする。とてつもな

い大きな何かが来る。あの影たちがいない。本当に、影も形も無い

とはこのことか・・・アハ。

 こんな時に俺は何を言っているんだ。これじゃ、山川と同じ思考

じゃないか・・・。


 『そうか。人間は実際に見たモノを信じるんだよな。・・・貧し

いね。

 おそらく、あの彫刻は、少し後になって何者かが彫ったのであろ

う。噂話を信じてね。“白龍”があそこに私を入れて閉じ込めよう

と考えていたようだが、人間の噂話を信じるからそういう思考にな

るんだよ。“白龍は”いろいろと信じ過ぎる。あんなに強い力を持

っておきながら、全く使おうとはしない。藤倉さん。姉をよろしく

頼むよ。アハハハ。』


 「・・・何で?

 じゃ、そのモノは、本来はその北東に居るのですか?」


 『そう、北東に位置し、東を守護しているよ。“白龍”は西を

“白虎”と共にね。もうおわかりだね。』


 「そうか。あの四神の1つである“青龍”ですね。でも、何故、

“青龍”があなたの力を弱らせる必要があるのですか?“青龍”は

物事の発達を促進する神であって、争いは好まないはずですが・・

・おかしい。」


 『ん・・・この場所はどこだ?・・・この日本と言う国土のほぼ

中心になるんだよ。わかるね。』


 「あぁ、そうか。“青龍”は東を守護している。西は“白虎”と

“白龍”が守護している。そしてその間に当たるのがここか・・・

あなたは、守護するものにとっては邪魔ということですね。」


 『いや。単純に邪魔ならば、俺は北を“玄武”と共に守護するよ。

同じ黒だからね。だが、俺は、東を選んだ。』


 「何故?・・・」


 『ん?単純に、日本国土の南北は、海だ。何もない海だよ。何も

ないのは退屈でいやだね。アハハハ。』


 「アハ。そんな理由で・・・でも、何か変だな。」


 「黒川くん。もう1人、いや、もう1つの“霊”がすぐにやって

来るよ。」

 「はい。先ほどから感じています。・・・

 藤倉さん。もう1つの“霊”って・・・」

 「ああ、もう1つだよ。・・・来たようだね。黒川くんの後ろに

・・・」

 「ん?山川。お前何をしに来た?下で待っていろと言っただろ。

おい!山川・・・」

 「黒川くん。それは優司じゃないよ。」

 「えっ・・・じゃ・・・」

 「あなたは“青龍”ですね。何故、優司に憑依したのですか?そ

んなことをしなくても本来の姿で行動できたでしょ。何か理由があ

りそうですね。」


 『そうだな。だが、その子は素直で扱いやすい。それに、あの石

を動かしてしまったからな。その罰とでも言っておこうか。お前た

ち人間は手を出すな。向こうへ行ってろ。

“黒龍”久しぶりだな。まだ、ここに居たのか。お前は、姉さん、

“白龍”のところへ帰れ。ここより東は俺の支配にある。立ち去ら

なければ、暗黒界に閉じ込めてやろうか。同じ方角に2つの神はい

らない。』

 『藤倉さん。向こうに行った方が良い。危険だよ。この“青龍”

は激しい性格だから、あなた方もケガでは済まない。本来はそんな

神ではないのだが、よほど俺が邪魔なのだろうね。』


 その時、閃光が走り、“黒龍”の頭上を襲った。すると、一瞬で

はあるが、“黒龍”が消えかかったように見えた。すぐに元に戻っ

たが“黒龍”はかなり弱っているように感じる。力を感じない。

 藤倉さんの話だと、“黒龍”は悪では無く、人間界の平和のため

に様々なコトをやっただけで、むしろ、良い“霊”のようだ。だが、

この“青龍”も東を守護する大切な“神”であり、これも悪では無

い。どうすればいいのか、どう見ていればいいのか・・・


 「ん?どうしたんだ、黒川くん。」

 「藤倉さん。どちらの“神”も悪じゃありませんよね。ただ、同

じ東を守護しようとしてぶつかってしまっただけですよね。どうす

れば・・・」

 「そうだね。ライバル同士と言うことだと思うな。天敵とも言え

るよな。あの世界も人間界も同じでそんな関係があるんだろうね。」

 「あのね、藤倉さん。そんなことに感心していないで何とかして

下さいよ。山川がどうかなりそうです。」

 「大丈夫だよ。ほら、“白龍”さんが戻って来たよ。・・・どう

もおかしい。この2つの“神”は本当に互いを敵視しているのかな

?・・・」

 「えっ。どういう意味ですか?」


 『2人ともやめなさい!こんな所で争ったら、人間界に歪が出る

でしょ。その責任がとれるの?』

 『邪魔するな、“白龍”。人間どもは我々を蔑ろにし、最近では

ほとんどの人間が我々のことを忘れてしまっている。そんなヤツた

ちを気にする必要などない。だろう“黒龍”』

 『そうだな。俺もそんな人間ども・・・特に同じ人間に害をする

身勝手な人間が許せなかった。そんな、悪を懲らしめたまでだ。特

に、戦国の世や世界大戦の時代は最悪だったな。』

 『そうだろう。“白龍”お前もそれを嘆いていたではないか。今

更、人間界を気にする必要は無い。』

 『わかったわ。じゃ、好きにしなさい。だけど、私は、この2人

とあなたが憑依している子を助けるからね。この人たちと共にこの

家を再生して、新しい空間を創ることを約束したからね。それに、

ここに居る様々な“霊”たち、みんな一緒に連れて行ってもいいと

言われたのよ。

 だから、私は全力で守ります。東も西もない。』

 『勝手にしろ!“黒龍”勝負だ!』


“青龍”はそう叫んで“黒龍”を覆うように大きくなった。そして、

さっきの閃光どころか、大きな雷のような音や耐えられない異臭を

出し激しく気を出して争っているように見える。家全体が揺れてい

る。あっ、山川の身体が倒れた。おぉ、竜が身体から抜け出たよう

だ。大きい。そして、青緑の鱗が光って見える。美しい。いや、恐

ろしい。えっ。“黒龍”の黒い布が消えて真っ黒な竜が現れた。す

ごいなぁ~。これも光っているように見える。やっぱり、美しく感

じてします。こんなに恐ろしい光景なのに・・・何か・・・


 『やめなさい!お前たち。“青龍”“黒龍”それに、“白龍”も

何故止めない!』


 えっ、誰?あ~ぁ、何かが3つ居る。何なんだこれは・・・


 『あっ。“朱雀”“白虎”それに、“玄武”まで・・・何故だ。

どうしてここに来た!邪魔するな!決着をつける。』

 『もういいでしょ、“青龍”。みんな心配をして来たのよ。“黒

龍”も意地を張らずに、私の所へ来なさい。“白虎”は承諾してく

れているのよ。』


 「そうですよ。もういいのではないですか?我々はこの家を大切

にしますし、庭やモノたち、そして、あの“霊”たちも大切にしま

す。“黒龍”さんにも言いましたが、私は今度、再生の家を創ろう

としています。それは、ヒトの再生でもあるのです。この家の一部

を移築して、その家を中心に様々なモノとコトでみんなを大切にす

る心を伝えたいと思います。」


 『あ~ぁ。やめた!もういいよ、“青龍”好きにしたら・・・』

 『おい!やめるのか?もう少しで面白くなるのに・・・まっ、こ

れくらいが調度いいか。この人間たちの意志も十分に理解できたか

らな。本当にこの家や庭そして、モノたちを大切にしてくれるだろ

う。なっ、“黒龍”』

 『そうだな。特に藤倉さんは頼りになりそうだ。本当に人間にし

ておくのがもったいないな。』

 『え~っ、何?あなたたち何か仕組んだわね。人間の心を確かめ

ろためにワザと争ったのね。』

 『アハ。姉さん、悪いね。この家がいつまで経っても放置された

ままで、あの“霊”たちも可哀そうだしね。特にあのペットたちが

ね・・・だからと言って、中途半端な人間には任せられない。そこ

で、“青龍”と相談をしてこういうことになりました。エヘへ。』

 『エヘへじゃないでしょ。他の神も呼んで来ちゃったじゃない。

・・・もっとも、別のようもあったけれどね。』

 『まあまあ、“白龍”いいじゃないか。大事にならなくて。人間

たち、この家やモノたちそして、“霊”たちを頼むよ。じゃ、我々

は帰るとしようか。』

 『ちょっと待って。1つ聞きたいことがあるの。・・・あなたた

ち神は“黒龍”の所業の本当の理由を知っていたのでしょう?知っ

ていて偽りを言ったのね。どうなの?』

 『ああ、その通りだよ。“黒龍”が我々の承諾なく、人間を裁い

たからね。それは、掟として許されないことだろ?“白龍”もこい

つには手を焼いていたではないか。正しい、罰じゃなかったかな。』

 『ふざけないで!それによって“黒龍”がどんな思いだったか。

私までだまして・・・あなたたちを許さないから・・・』

 『姉さん。もう良いじゃないか。たった3000年のことだ。こ

の神たちも悪気があってやったことでは無いだろう。・・・それに、

姉さんが起こると、今の我々の比じゃないし、それこそ、人間界も

暗黒界も我々の世も全て、崩壊してしまうよ。怖い。』

 『あっ。そうだよ。“白龍”。我々がやり過ぎたよ。申し訳ない。

“黒龍”にも申し訳ない。それ以上、怒りを出さないでくれ。お前

は、怒ると本当に怖いからな。おい、“青龍”も詫びてくれ。』

 『ん?何で?俺は“黒龍”が親友だし、良い天敵だからな。そん

な企てなんか知らされていなかったぞ。お前ら3人がやったことだ

ろうが。“白龍”俺は関係ないからね。』

 『コラ!“青龍”卑怯者が・・・』

 『もういい!わかったから。怒りません。・・・あ~、恥ずかし

い。人間の所業をとやかく言えるの?あなたたちは・・・藤倉さん。

大変お見苦しいところお見せいたしました。』


 「アハ。神の世界も人間と同じようなところもあるのですね。で

も、その神も過ちを犯したのではないようですよ。神の世界での掟

に従ったのでしょう。“黒龍”さんにも非があったようですしね。

面白いですね。」


 『藤倉さん。あなたは何者?』

 『だな。“黒龍”の言う通り。藤倉さんは何者なんだ?』

 『おいおい。神である我々が人間に感心してどうする。でも、確

かに・・・』


 「アハハハ。私は、1人の人間です。そして、いちデザイナーで

すよ。でも、お誉め言葉としてありがたく思います。」

 『もういいか・・・』

 『じゃ、我々はこのへんで引き上げることとするよ。“青龍”も

帰るぞ。』

 『ありがとう、みんな。』

 『俺も帰るよ。“黒龍”はどうするんだ?姉さんについて行くの

か?』

 『いや。俺はちょっと旅に出るよ。どの世に行くかはわからんが

ね。本当に、お前から東の守護を取れるように修行する。』

 『それは、一生かけても無理だな。・・・ん?一生か・・・俺た

ちに一生はあるのか?アハハハ。バカ。』


 と言って、四神は帰って行った。そして、“黒龍”もどこかへ行

ってしまった。

 えっ。帰るって、どこへ・・・


 「終わったね。これは責任重大だな、黒川くん。たとえ、“黒龍”

と“青龍”が仕組んだこととは言え、この家たちを大切にしないと

ね・・・」

 「ですね。あっ、山川が気が付いたようですよ。」

 「ん?何?どうかした?何でおれがここにいるの・・・ワァ~す

ごい!モノたちがいっぱい居るよ。おじさん。もう日暮れだから明

日、絶対に見に来るよね?連れて来て下さいね。」

 「アハ。何も覚えていないな、こいつは。藤倉さん。救いようが

ないですね。さっきの四神にお願いして鍛えてもらいましょうか。

アハハハ。」

 「ん?」

 「もういい。瀬山先生を見つけて、一緒に旅館へ行こう。西脇さ

んが予約してくれているようだ。ゆっくり温泉にでも入ろうか。」

 「は~い。」


 『良かったですね、藤倉さん。そして、今後は宜しくお願いしま

す。あんなバカな弟たちは放っておきましょう。“霊”たちも期待

していますよ。うふ。』


 翌日、俺と藤倉さん、瀬山先生、西脇さんに由美さんとのんきな

山川の6人が再度、調査のためにあの家に入った。当然、昨日のこ

とは俺と藤倉さんとの秘密であり、今後も協力して、再生の家を進

化させることになる。

 東山さんが向かった、公民館の床板材に関しては非常に良い保存

状態だったようで、そのまま解体し指定の倉庫に搬入することにな

った。ただ、その時に、庭用の材も近くにあるということで、その

まま東山さんは現場に向かったようだ。何やら変わった大小の石と

のことだが・・・いやな予感がする。


 「西脇さん。いい旅館をありがとう。あの旅館の床は全く段差が

なかったよね。バリアフリーということか・・・今度の再生の家に

も導入しようか。旅館はいろいろなお客様が来られるから気配りが

大変だね。やっぱり、気分良く過ごしてほしいな。西脇さん、宜し

く。・・・あっ、それから、夕べ話した、由美ちゃんとその子につ

いては、秘密だからね。絶対に由美ちゃんには話さないように。少

し様子を見たいから、生まれる子が9歳になる頃までは内緒にして

おいてね。」

 「はい。わかりました。バリアフリーはいいですね。やりましょ

う。由美ちゃんのことは、了解しました。その年になったら藤倉さ

んから何か話されますか?」

 「そうだね。その時の状況でね。」


 「黒川くん。昨日は何があったの?」

 「えっ。何って・・・由美さんを襲った影の件ですか?」

 「違うわよ。チラッとニシさんから聞いたけれど、すごい危ない

ことがあったのよね?ちょっとでいいから話してよ。すごく興味が

あるの。うふ。」

 「じゃ、西脇さんから聞いてください。俺の口からは詳しくは言

えません。多分、藤倉さんから西脇さんはしっかり聞かれていると

思いますが・・・」

 「そうなの。じゃ、後でニシさんに聞こうっと。・・・で、屋根

裏部屋には沢山の物たちがいたんでしょ?どれくらい?」

 「アハ。メチャクチャありますよ。あそこだけで、由美さんだっ

たら今日1日必要ですね。」

 「そうなんだ。それでニシさんはお弁当を作っていたんだね。す

ごく美味しそうだったよ。あの人、良い味覚しているから藤倉さん

が誘ったんだけど、今度出来るカフェが楽しみ。エヘへへ。

 あっ、でも。沢山の焼き塩や水そして、線香も用意していたわね。

藤倉さんから頼まれたって言っていたけれど、何で?」

 「そうですか。由美さんは、食べるのが好きなんですね。アハ。

その塩や水、線香は、あの家を一度清めるためのものですよ。きの

うは本当にいろいろありましたから・・・」

 「ふ~ん。俺、料理は苦手だけど食べるのは得意。アハハハ。」

 「・・・・・」


 この由美さんは、どこか山川に似ているような気がする。西脇さ

んや東山さんも似た者同士という感じだね。そして、俺も藤倉さん

とは良い協力関係でありたいね。でも、あの人は不思議な人だ。し

っかり理解できる日は来るのだろうか。


 「黒川くん。何をブツブツ言っているんだ?この家も含めてよう

やくほとんどの材が収集できたよ。これで第一段階の施設は完成さ

せることができそうだ。今後は、少しずつ、慎重に材を探そうと思

う。大学を卒業しても協力してくれるね。」

 「はい。勿論です。似た能力がありますからそれぞれに全国を捜

し歩いたら良いものが見つかりますよ。」

 「だね。一緒に行動するよりも、別々の方が効率は良いな。・・

・そうだ。黒川くんから見て、いい人材が居たら是非紹介してくれ

ないか?それとなくね・・・アハ。」

 「はい。了解です。」

 「じゃ、この家と庭を徹底的に再調査するとしようか。瀬山先生、

西脇さん、由美ちゃん宜しくお願いしますね。そして、優司。お前

の感性は私と同じものを持っているはずだから、しっかり頼むぞ。」

 「は~い。」


 『いよいよ、再生の家が創られるのね。私たちも楽しみにしてい

ます。そして、影ながら、じゃなかった“霊”ながらお手伝いいた

します。・・・

 あっ。再生の家じゃなかったわね。“白い家”と“白いカフェ”

だったわね。うふふ。』

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『白い家』と「白いカフェ」 @fuji104

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