第28話 『白い家と黒い家』そのⅥ

        『白い家と黒い家』そのⅥ


 「ん~。ここが屋根裏部屋かぁ~。思った通り広いな。それに、

いろいろなモノがあるぞ。黒川くん。優司を連れてきた方がよかっ

たかな?」

 「アハ。そうですね。あいつ喜ぶでしょうね。でも、何かがあり

そうですから、巻き込んだら大変ですよ。」

 「だね。これが終わったら、明日に改めて連れてくるか・・・」


何事も無く、この屋根裏部屋の調査が終わるとは思えない。きっと、

あの“黒龍”が現れるに違いない。俺と藤倉さんでは到底太刀打ち

ができないだろうね。“白龍”さんは居るのかな?屋根裏だからか

なり暗いと思っていたが小さな出窓が多いから、ブラインドさえ開

ければ結構明るいね。でも、何故こんなに多くの窓があるのだろう

か?ちょっとした出窓になっていて外からはわからなかったが良い

空間だね。

しかし、広いし、モノが沢山あるなぁ~。これは夕方までに全ての

チェックや撮影は無理だね。


 「藤倉さん。これだけのモノは、夕方までに撮影やリストアップ

は無理ですね。明日また来るから、今はやれるところまでしましょ

うよ。日暮れまでは1時間ほどしかありませんよ。」

 「だね。思っていたより多いね。棚もあるから書籍も多そうだね。

とにかく、右側から順に奥へ行こうか。黒川くん、しっかり注意し

ながら撮影を頼むよ。ん?どうやらあの奥に現れたようだ。我々を

見ているようだが、無視して調査を進めよう。意識をすれば必ず何

かを仕掛けてくるはずだからね。無視が1番だよ。」

 「はい。了解です。じゃ、この棚の物から撮りますね。藤倉さん

は名をリスト帳に記入をお願いします。番号を打っておけば後でチ

ェックできるでしょうから。」

 「そうだね。あ~ぁ、この棚には昔から今までの重箱が置かれて

いるね。全て白い布と紙で包んであるから保存状態は良いね。他の

物も丁寧に包装されているな。これをあの影たちがやったとは思え

ないな。他に手伝う人間がきっと居るのだろう。それもこんなに美

しく包んでいるとなると女性だね。」

 「えっ、女性ですか?・・・確かに白い布や和紙といっても、少

し模様が入っていますね。それに、棚に置かれている物や床に置か

れている物も全て、規則正しく均等に隙間を開けて並べられていま

すよ。かなり、神経質な人でしょうか。奥まで美しく並んでいます

よ。」

 「そうだね。」


確かに、美しく並べられている。どうも、1つ1つをしっかり見せ

ているかのようだ。そういえば、1階から3階までの物を見てきた

が、全て撮影しやすく、チェックしやすいように並べられていたよ

うな気がする。いったい誰が・・・あの影たちではないだろうし、

“白龍”さんでもなさそうだ。まさか“黒龍”がこんなことをする

とは思えないしなぁ~。藤倉さんは、女性だと言っていたが、どこ

の女性?

 ん?どうやら調査はここまでかな。黒い布が近付いてきた。


 「黒川くん。気付いたよね。あいつが近付いてきたようだ。でも、

何か変だよね。近付いてくるのは覚悟していたけれど、遅い!動き

が遅すぎる。何故?何か身体が重そうに見える。この程度の距離な

ら何か仕掛けてもいいと思うのだけどね。静か過ぎる・・・」

 「あぁ、そうですね。大きさも普通の人間サイズですよ。威嚇し

ながら来るのなら大きくなるでしょうが・・・確かに変ですね。身

体の調子が悪いのかも・・・アハ。」

 「あのね。“霊”に身体がどうとかは無いでしょ。でも、何かあ

るな。十分に注意しよう。」

 「はい。」


 『そうですね。何かおかしいですね。“黒龍”に何かあったので

はないでしょうか。あんな姿は今まで見たことがありません。』


 「あっ、“白龍”さん。おられたのですか。突然、横に現れない

で下さいよ。」


 『あら、ごめんなさい。ちょっと用を済ましてきました。』


 「えっ。何かあったのですか?」


 『ちょっと・・・後でわかりますよ。うふ。』


 「おかしい。もっと、激しい行動を予測していたのだが・・・い

ったい、どうしたのだろう。ちょっと、こちらから近付いてみよう。

 「えぇ、藤倉さん。それは危険ですよ。こちらを油断させている

のかもわかりませんよ。あいつが近くまで来るのを待ちましょうよ。

さっき言われたように無視しておきましょう。」

 「ああ、そうだが・・・どうも弱っているような気がするね。ほ

ら、動きが止まってしまったようだよ。」

 「ですね。何か余計、不気味に感じますよ・・・。」


 『ん~。どうしたのかしら。“黒龍”の性格だと、一気に来るは

ずですが・・・ワザとやっているようには見えませんね。』


 あ~ぁ。藤倉さんが“黒龍”の目の前にまで近付いちゃったよ。

大丈夫かなぁ。ん?何か話をしているようだ。


 「あなたは何故、ここに居るのですか?何故、この世に居るので

すか?その必要性はあるのですか?・・・“黒龍”さん。」


 『・・・・・』


 「私の声は聞こえていますよね。あなたの身体の心配はしていま

せん。“霊”である以上、そんなことはあり得ないでしょ。それに、

今までのあなたの所業を見ると、人間として許すわけにはまいりま

せん。何故、このようなことをやっているのですか?」


 『あなたに何がわかる・・・真実を知りもしないくせに・・・』


 「えっ。真実?・・・どうやら、この屋根部屋にはあなたの力を

抑えるモノがあるようですね。いい機会なので、その真実をお話下

さい。人間の代表としてお聞きいたします。どうですか、お話をし

ていただけませんか?そこまで身体が弱っていれば、動くころすら

難しいでしょ。どうですか?」


 『あぁ、その通りだ。あるモノに力を封印されているようだな。

真実はあの“白龍”も知っているはずだ。あいつに聞いてみろ。

 あなたは、俺と対面してもまったく動じないようだから言ってお

く。この場所から離れたら俺に近付くな。関わるな。これは忠告で

は無い。警告だ。俺は、ここではあなたに手を出すことは無い。好

きなだけ物の調査をすればいい。』


 「そうですか・・・あなたの口から、その真実をお聞きしたかっ

た。どうやら、そこから動けないようですね。私は、あなたから恨

みや呪い、怨念のようなものを感じません。元からそんなものはな

かったのでは・・・」


 『するどいね。あなたは人間か?それとも・・・まっ、いい。真

実を少しだけ話そう。詳しいことは、あの“白龍”から聞いてくれ。

 3つだけ話そう。

 1つは、“白龍”が言っていたが、俺が黒河に憑依して村人を殺

傷したと言っていたが、真実は違う。・・・村人は100人程居た

が、それを抹殺しようとしていたのは、黒河一族だ。俺は、それを

止めようとした。俺がむやみに暴れていた頃、その村は唯一居心地

が良かったからな。・・・だが、数人を除いて殺されてしまった。

そこで俺は、黒河一族の1人に憑依し、他の黒河たちを抹殺しただ

けだ。どうかな?どちらが真実かは“白龍”に聞け。  

 2つ目は、俺がワガママばかりを通そうとしていた頃、姉である

“白龍”に闇の世界、暗黒の世界に閉じ込められたが、それによっ

て黒になったのでは無い。他の神たちが俺を黒にしてしまったんだ。

まるで、悪の象徴のようにな。暗黒界での2000年は苦しいもの

でも無いし、退屈でもなかった。じっくり考える時間があった。

 3つ目は、暗黒界から出された時から、人間界を荒らし、殺め続

けて来たように“白龍”は言っているが、その人間全ては大きな罪

を犯した者ばかりで、罰を受けても仕方がない者たちだ。他の神に

無断で行ったのは事実だが、そのままにしておくわけにはいかない

からな。姉の“白龍”は留守がちであったため、他の神から聞いた

ことを信じたのだろう。俺を激しく攻めたよ。で、仕方なくあの石

を通して別の世界である、暗黒界に行っただけだ。別にあの石程度

で俺を封印できるものではない。

 藤倉と言ったな。あなたはどちらを信じる?』


 「そうですか。だが、あなたが言っていることが真実だという証

は無いからね。ただ、あなたの心は濁っていないように感じます。

もう一度、“白龍”さんと話してみましょう。この家の調査は邪魔

をしないでほしい。」


 『いいだろう。・・・』


 ん?藤倉さんが、こちらに帰って来られた。何事もなかったよう

だが、物静かな雰囲気が漂っている。どうしたのだろう?


 「お待たせ、黒川くん。調査を続けようか。あいつは邪魔はしな

いと言っているから大丈夫だ。」

 「はい。わかりました。何があったのですか?さっきまで藤倉さ

んは険しい顔をされていましたが、今は静かなお顔ですね。」

 「あは。そうかな。じゃ、ここから撮影を再開してくれるかな。

私はちょっと“白龍”さんと話があるから・・・」

 「はい。」


 『なんでしょう?』


 「あなたが先ほど言っていた、“黒龍”の所業は、直接に見られ

たことですか?それとも、誰かからお聴きになられたことでしょう

か?」


 『えっ。あ~ぁ。そういえば、全て、他も神や人間たちから聞い

たことですね。』


 「そうですか・・・もう1ついいですか?あの“黒龍”が本当に

あなたに対して敵意を持っていると思われますか?そんなことがあ

りましたか?」


 『そうですね・・・私に何かをしたと言うわけではありませんね。

他の神や人間、動物たちに対してはいろいろやっていましたが・・

・藤倉さん。いったい何が言いたいのですか?』


 「ん~。先ほど、“黒龍”と話しました。この部屋では、何かに

力を抑えられて動きが鈍くなっているようです。それが何なのかわ

かりませんが・・・

 で、その話には、真実があると私は思います。

 それは、村人を殺傷したというのは誤解で、村人同士が争ったこ

とで多くの人が殺されたのであって、それを見て、止めようとした

ことにより、その首謀者の黒河一族を1人残して皆殺したそうです。

その一族がそもそも悪であり、村を滅ぼしたようですね。他にもあ

りますが、私が感じるところだと、彼には、恨みや呪い、怨念のよ

うなものはありません。どちらかというと、慈悲のような心が強い

ようですね。」


 『えっ、そうなんですか?と言うことは私の誤解だったのでしょ

うか。じゃ、あの由美さんを襲わせたのは・・・あっ。ひょっとし

てあの影たちの仕業なのね。

 私、ちょっと神たちやモノたちに確かめます。あのモノたちは嘘

がつけないはずですから。嘘を言えば別の世界に追放されてしまい

ます。そういう掟です。藤倉さん。少しお待ち下さい。すぐに戻り

ます。』


 「はい、わかりました。じゃ、私はもう少し“黒龍”と話をして

みましょう。何かが見えて来そうですね。」

 「藤倉さん。どういうことですか?そのクロカワって誰ですか?

俺に何か関係あるのでしょうか?」

 「あっ。聴こえてしまったようだね。後で詳しくは言うが、君の

祖先で黒川じゃなく、黒河という一族が1000年程前に居たんだ

が、その村の人々が殺戮されたんだ。

それを“黒龍”の仕業だと伝えられていたが、そうではなく、“黒

龍”はその村人たちを助けようとしたらしいね。それで、その殺戮

を実行した黒河一族の1人を除いて皆殺しにしたんだ。村人の大半

を殺したのは、黒河一族だったようだね。

 それを神たちは誤解をしたのか、そういうことにしたのかはわか

らないが、“黒龍”の責任であり、その協力者である、唯一の生き

残りの黒河に罰を与えたようだ。その罰というのが、今、君が持っ

ている能力だよ。」

 「え~っ。じゃ、俺は、その生き残りの1人の末裔ですか・・・

もう何代も前の話ですよね。何で今もその罰なのか、呪いなのかを

受けなければ・・・

 でも、大きな罪を犯したのですよね。・・・俺には、償いようが

ありません。」

 「うん、そうだね。だから今、君はここに居るんじゃないのかな。

それが真実であれば、これからの君の生き方が変わるだろうね。」

 「はい。まだ理解することはできませんが、しっかり受け止めま

す。

 じゃ、あの“黒龍”は悪では無いのでしょうか?“白龍”さんが

言われていたことは真実では無いということですか?」

 「まだわからないが、今、“白龍”さんが確かめに行っているよ。

あの“白龍”さんも困惑しているようだね。」


 そう言って、藤倉さんは、もう一度あの“黒龍”の所へ行ってし

まった。俺は、あまりの話にショックで何も手につかず、近くにあ

った椅子に座ったまましばらく呆然としていた。


 「もう1つお聞きしたいのですがよろしいですか?」


 『ん?何?・・・“白龍”はどこへ行った?』


 「先ほど、“黒龍”さんが言われたことを伝えたところ、非常に

驚いていましたよ。それで、他の神たちに確かめに行っています。」


 『そうか。姉はやさしい神で、信じやすいからな。でも、姉を

“白龍”を怒らせたら大変だぜ。他の神では止められないぜ。何し

ろ天帝に仕えているからね。すごい力を持っているよ。ちなみに、

飛ぶ速さはどの竜より早いぜ。追われると絶対に逃げられないな。

俺も捕まったからね。』


 「えっ、天帝?それは、最高位の神ですよね。・・・」


 『藤倉さん。良く知っているね。人間界では様々な神がいるよう

だが、この天帝というのが頂点とも言われているよ。少し、怖くな

ってきたな。あの姉が怒ると何が起こるか・・・』


 「そうですか。でも、あの“白龍”さんは、分別はあるようです

から、感情に左右されないでしょう。神ですからね。

 で、もう1つの質問ですが・・・私の友人で由美という者がおり

ます。今日、お昼にここへ来たのですが、その直後に黒い影に襲わ

れ、危うくおなかの子を失うところでした。それをある少女が助け

てくれたのですが、あれは、あなたが影たちに命令したのですか?」


 『あぁ、それか。その通り、俺が影たちに命令したよ。だが、お

なかの子を襲えとは言っていない。少し、脅かしてやれと言ったま

でだ。』


 「そうですか・・・何のために脅かす必要があったのですか?ど

うもおかしいですね。」


『ほ~。あなたは鋭いね。人間にしておくのがもったいないな。・

・・そうだよ。あのおなかの子が持って生まれる能力を奪おうとし

たんだ。その能力は、近い将来災いを起こすことになるからね。こ

れは“白龍”も気付いているはずだが、姉はやさしすぎる。それで

俺が消してしまうことにした。残念だが、あの少女が来るとは・・

・』


 「やはり・・・じゃ、一緒に来た女性は誰?」


 『ん?女性か。あれは、この家の家政婦だ。ただ、この世の者で

はないがね。時間を支配する力と身体の成長を支配する力を持って

いるよ。本当の年齢はあいつには無い。』


 「なるほど・・・それでおおよそのことは理解できました。ただ、

その少女は近い未来に何をするのでしょう。あなたならお分かりに

なりますよね。それに、あの女性は頻繁にこの家に出入りしている

ようですね。何のために?」


 『藤倉さんは、何故、そんなことに興味があるんだ?あなたに何

か関係があるのか?物好きな人間だ。』


 「あは。直接の関係はありませんね。今はね。・・・だが、この

家の全てを購入しようとする私です。この家や庭そして、モノたち

を大切にしたいのです。少しでも関わりがあるとすれば気になりま

す。特に、あの少女は近い未来で何か関係がありそうですから。」


 『そうか。あなたは未来がわかるのかな。それとも感性が高いの

かな。疑問の答えになるかどうかわからんが・・・その少女は近い

未来にあなたに深く関わるだろう。その母があの由美という人間だ

からね。だが、その少女が成長すると・・・そう、10歳になろう

とするころに・・・いや、やめておこう。我々は人間界にあまり関

わらないことになっている。が、あなたには、どうやら“白龍”が

関わるようだから、様々なコトを知ることになるだろう。まっ、未

来をたのしんでくれ。』


 「・・・そこまで言っておきながら・・・いいでしょ。未来はわ

からない方が面白いですからね。・・・あなたを今の状態にしてい

るモノは何ですか?おわかりなのでしょ。」


 『ああ。もうすぐ現れるよ。あの北東にある石の持ち主で俺の力

を抑えることができるモノがね。悪では無いが、善でもない。この

エリアを守護しているモノだよ。あの石を動かしてしまったからな。

・・・』


 「えっ。あの石碑はあなたを封印するために置かれたのではない

のですか?“黒龍”と刻まれていますよ。」


 ん?何か、藤倉さんの顔色が変わったような気がするが・・・何

が起ころうとしているのか・・・


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