第27話 『白い家と黒い家』そのⅤ

     『白い家と黒い家』そのⅤ


 「ほ~、ここが書斎ですか。」

 いや~、広いですね。書斎じゃなく、どこかの特別社長室という

感じですね・・・そんな部屋はドラマでしか見たことがありません

が。どれくらいの広さですか?優司、しっかり写真を撮っておけよ。

どこに何が置かれているのかがわかるようにな。」

 「は~い。黒川、そのリスト帳毎に撮るから順番に言ってくれ。」

 「了解。じゃ、まずこの大きな事務テーブル周りから・・・」

 「それは、重役用デスクだな。」

 「すごく重厚感がありますね。何かどこかの大統領が使っている

ものと同じじゃないかな?上に古そうな地球儀があります。」

 「黒川くん、鋭いな。そのデスクはアメリカ、ホワイトハウスの

大統領用のものとほぼ同じ仕様になっているよ。日本の家具職人が

時間をかけて造ったんだね。あれよりも良いものかもな。それに、

その地球儀もかなり古い物のようだね。日本の形を見てもわかるが、

素材がいいね。」

 「先生も、興味あるんですね。いつ頃の地球儀でしょうね。真鍮

や銅が使用されていますし、これは、チーク材ですか?目が細かく

て何かしっとりしていますね。色も少し黒くなっていますが、やや

赤紫っぽいですよ。」

 「あぁ、それ紫檀だよ、黒川。東南アジアでは多く見かけるよ。

最近は高価で仏具以外ではあまり使われていないけれど、昔は文机

や肘置きなどに使用されていて、紫檀、黒檀、鉄刀木といって三大

銘木と言われていたよ。売買は大きさじゃなくて重さらしいね。水

に沈むくらい重いよ。」

 「アハ。山川、流石だね。インテリア材には詳しいなぁ~。じゃ、

この硯は?」

 「ん~。よくわからないけど、端渓硯じゃないかな。中国製だよ。

ほら、この竜の彫り物の目を見て。これ“眼”と言って斑点の一種

なんだ。これを利用して竜の目に見立てているんだよ。」

 「ほ~。じゃ、由美ちゃんなら詳しくわかるだろうな。後で伝え

ておこう。」

 「え~。おじさん。俺じゃ信用できないって訳?」

 「アハハハ。その通り。」

 「・・・でも、先生。この部屋は俺にとっては宝箱を開けたよう

です。1つ1つが良質のインテリア用品ですよ。それも先生が言わ

れた通り、数百年から今の時代までの様々なモノがあります。しか

も全て綺麗に手入れされています。よほどこのモノたちを大切にし

ていたのでしょうね。

 あっ、そのソファセットはル・コルビジェですよ。しかも、オリ

ジナルに近いですね。いい革も使っているし、大きな傷もありませ

んね。この屏風も本金張で結構厚みがある金箔を使っています。い

つの時代も物だろう。」

 「アハハハ。山川くんはここに居ると1日中、いや、4、5日は

飽きずに観ていそうだね。まっ、今日は写真を撮ってリストの作成

を優先してくれるかな。藤倉さんが明日も来ると言っておられるか

ら同行すればいいじゃないか。」

 「はい。」

 「あは。さっきまでの山川はどこかへ行ったな。元気が出て来た

な。・・・」


 だが、そうは言っても、あの黒い、いや、“黒龍”がいつ現れる

か不安だ。どうもどこかから見られているような気がしてならない。


 「さぁ~、次の主寝室へ行きましょうか。この隣ですよ。ここの

扉から行けそうです。」

 「あっ、先生。私はもう少しここを観ておきます。そのウォーキ

ングクロゼットが気になりますから。」

 「じゃ、俺も残ります。」

 「いや、優司は先生と一緒に行きなさい。もう写真は撮ったんだ

ろ。」

 「はい。・・・黒川行こうぜ。」


 ん?藤倉さん。何かあったのかな?俺も山川に付いていくように

言われている気がする。確かにあいつは危ないからな。


 「どうかしましたか?“白龍”さん。」


 『はい。先ほど言っていました黒川さんの件ですが・・・

 やっぱり、“黒龍”と少なからず繋がっていましたね。今から1

000年程前になりますが、黒川さんの先祖と言いますか、31代

さかのぼると黒河甚という人物がいます。字が少し違っていますが

間違いなく繋がっています。その黒河と言う者が“黒龍”が封印さ

れる前の最後に憑依した人間だったようです。』


 「ほ~。そうなんですか。その時代に何かあったのですね。」


 『そうです。その場所がこの近くの岐阜あたりだったようですが、

正確にはわかりません。その村はそれによって滅ぼされたのですが、

1人残らず殺傷されたようですね。生き残った村人も居たようです

が・・・それは、黒河自信じゃなく、“黒龍”が憑依してやったこ

とですから、その者には罪はないとは思うのですが。

 その時、私はいなかったのですが、他の“神”たちが、黒河が協

力したものとして、罰を与えました。その時より31代のちの子孫

まで呪いをかけたそうです。』


 「えっ。呪いですか・・・ただ事ではありませんね。どんな呪い

ですか?」


 『それが今、彼が持っている能力です。見てはならない、感じて

はならないものを見て感じてしまうという力です。人としての生活

に障害となるようにと・・・それにもう1つ大きな能力といいます

か、災いとなる力をあたえたそうです。それは、“黒龍”でさえ持

つことができない力です。私もそれに対抗する自信はありません。

多分、彼も何かのきっかけでその能力に目覚めたのでしょうね。ま

だ、その2つ目の力には気付いていないようです。“黒龍”がその

黒河を思い出さなければいいのですが。』


 「そうですか。あの黒川がね・・・でも、その“黒龍”による残

虐な行為には何か理由があったのでしょう。・・・それに、“黒龍”

は、元は“白龍”だったのですよね。まだ、“善”の心が残ってい

ることを祈りましょう。そして、黒川くんにも正しい心が強いこと

を願うだけですね。

 あっ。その呪いなのか、戒めなのかは31代で、解けるのですね。

ということは、今、彼は31代目と言うことになりますね。いつの

年かわかりませんがこの時代がその時じゃないですか?で、その

“黒龍”は今どこに居るのですか?」


 『あっ。そうですね。今から1000年、31代前ですから、彼

はこの時代に呪いから解放されることになりますね。でも、それが

いつなのか私にもわかりません。

“黒龍”は、庭の井戸の中に居ます。すごい力で防御していますの

で、私も近付けません。いったい何を考えているのやら・・・どう

しようもないバカですよ。』


 「まあまあ。実の弟じゃないですか。

 じゃ私はみんなに合流しますが、時々声をかけてください。黒川

以外には聴こえませんから安心です。ただ、黒川が気になってきま

したね。」


 『わかりました。私も注意深く見ていますから、何かあったらお

呼びください。』


 「あっ、藤倉さん。いかがでしたか?」

 「ええ、大変広いですね。そういえば、そこに神棚がありました

ね。何の神なのでしょうか?竜の小さな白い像が置かれていました

よ。・・・黒川くん、君はちょっと手を合わせておいた方が寄せそ

うだよ。」

 「えっ。はい。わかりました。」


 神棚か。何を祭っているのだろう。藤倉さんが言われるのなら、

ちょっとお参りしておこう。でも、何で俺だけ?


 「おじさん。ここも全て撮り終わったよ。向こうの子供部屋も撮

影したけど、ベッドとデスクくらいしかなかったよ。後は、大きな

バスルームと多目的な空間が1つあるね。」

 「そっか。じゃ、バスルームへ行こうか。瀬山先生、ちょっと平

面図を見せていただけますか?」

 「あっ、はい。どうぞ。」

 「ん?この多目的ルームのような部屋の隣に、さほど広くない部

屋が1つありますね。ここは何でしょうか?そこも行って観ましょ

う。」

 「あぁ、そうですね・・・そこはちょっと・・・」

 「えっ、また何かあるのですか?先生、全部言って下さい。」

 「うん、そうだな。黒川くん。いずれわかることだから言いまし

ょう。

 実は、あの部屋は10畳程のさほど広くないのですが、扉を開け

るのは、やめた方が良いと思います。今の家主からも注意されたの

ですが・・・中は大きな窓と掃き出し窓あって、東側に広いバルコ

ニーがあります。その部屋は、元はサンルームのような使い方をし

ていたようですが、何代か前の持ち主が、そこをペット用の部屋に

されたらしいのです。

 ある日、そこに、犬を2匹、猫を3匹そして、ウサギを3匹閉じ

込めたまま旅行に出かけたのですが、家政婦に伝えておいたらしい

のですが、その家政婦が突然倒れたため、そのペットたちのことを

誰にも知らせなかったようで・・・」

 「それで、そのペットたちは全て飢え死にしたということですね

?」

 「はい。それだけならまだいいのですが、窓が大きく、元はサン

ルームでしたので、太陽光がよく入って暖かいし、外からよく見え

るのです。それでペットたちは腐敗し始めて悪臭は漂うし、外から

カラスが群れを作ってたかっていたようです。

 そう、その壁や窓だけじゃなく、家の半分ほどを覆うようにね・

・・真っ黒だったようです。想像しても不気味でしょ。それ以来、

この家をしばらくは“黒い家”と言われ、周辺の家からは気味悪が

られて、結局、何代も持ち主が変わったそうです。

 で、その部屋を開けるとペットたちが一斉に飛び出してくるらし

いのです。勿論、生きたペットじゃありませんよ。だから、そこを

観るのはちょっと・・・やめませんか?藤倉さん。」

 「いや観ましょう。そんな部屋があったら、この後、この家を解

体して移築するにも支障が出ますから。全て観ましょう。」

 「わかりました。じゃ、案内します。」


 へぇ~、“黒い家”か。かなりカラスが多かったんだろうな。あ

の“黒龍”も黒だし、なんか、黒に縁があるなぁ。・・・あっ、俺

も黒だったな。エヘへへ。俺は良い黒でありたいね。でも、また引

き付けられるね。興味が沸いて来た。

 そういえば、この家の外壁や内壁は“白”だね。見える柱は日焼

けのこともあるけれど、黒に近い茶色だ。あの庭の玉砂利も真っ白

だし、塀や門も“白”だな。極端に真っ白というわけじゃないけど

“白”のイメージが強いね。


 「藤倉さん。今の先生の話で“黒”が出て来ますよね。でも家全

体を観ると“白”のイメージが強いように思うのですが・・・」

 「ああ、そうだね。さっきの“白龍”の影響かな?アハ。

 じゃ、“黒”は“黒龍”の影響になるね。“白い家と黒い家”と

いうところかな。黒川くんの言う通り、この家の屋根も含めて、

“白”系だね。インテリアも白い布で覆われているから余計に“白”

が目に入るね。・・・

 そうだ。今度の再生の家は“白い家”にしよう。ちょっと安易だ

ったかな?」

 「いや、いいですね。あの“白龍”さんも協力して頂けるんです

よね?それなら、“白”がいいですよ。それに“白”は、何かの始

まりのようでもあり、どんな色にもなるでしょ。藤倉さんが言われ

ているように、いろんなヒトやモノそして、コトをサポートし再生

させるのなら、その“白”がいいんじゃないですか?」

 「黒川くん、上手いこと言うね。よし!そうするか!アハハハ。」

 「えっ、何?白がどうかした?」

 「山川は、“白”には縁がないようだな・・・いや、お前の心は

真っ白だね。何でも吸収しそうだし、染まりそうだからな。アハハ

ハ。」

 「なんじゃそれ?」


 「ここですよ。入ってみますか?藤倉さん。」


 先生が示したドアは、さっきの話じゃないけれど真っ白で綺麗だ。

この向こうにペットたちの“霊”がいるのか・・・そう言われると

少し怖いな。でも、そんな気配は全然しないけどね。俺が開けてみ

よう。


 「じゃ、先生。俺が開けてみますよ。鍵をお借りできますか?」

 「あぁ。よろしく。」

 「えっ。鍵は掛かっていませんよ。先生、誰か開けましたか?」

 「ん?そう・・・おかしいね。この部屋だけは鍵を掛けておきま

すって持ち主から聞いていたけどね。」

 「まっ、いいじゃないですか。開けますね。」


 と言って、ドアを引こうとした時、何やら内側から強い力で突っ

張られているような感覚がする。どういうこと?ペットの“霊”が

開けさせないのか?それとも、あの“黒龍”か。


 「藤倉さん。何か、内側から突っ張られているような感じで、す

ごくドアが重いのですが・・・」

 「よし。私も手伝うよ。」


 2人でドアを引くと少しずつ開いてきた。

 ん?向こうに何かが居るな。沢山の目がある。やけに大きな目だ

なぁ~。あっ、開いた!

 「ふ~。開きましたね。」

 「ん?・・・」


 藤倉さんが部屋を覗き込んだ時、その大きな目もそうだが、大小

の沢山の影たちが出てきた。あは。結構賑やかだね。それに、人懐

っこいなぁ~。全く、怖くも恐ろしくも無い。むしろ、可愛い気が

するね。山川や先生はわからないようだけどね。先生が言っていた

ような呪いとか怨念のようなものは全然感じないし、ペットの“霊”

たちは我々を待っていたかのように感じる。寂しかったんだろう。

人が恋しかったんだろうね。

 あっ。その様子を見ている藤倉さんが涙を流されている・・・。


 「うんうん。お前たち、寂しかったんだろうね。もういいからど

こへでも行きなさい。でも、大きな目だね・・・。アハ。」

 「何?おじさん。何かが見えるんだね。」

 「そうなんですか?私には、気配は感じるのですが、それが、何

なのかわかりません。」

 「はい。ペットたちが沢山いますよ。先生が言われていた8匹ど

ころか、数十匹も居ますね。おそらく、8匹の“霊”に誘われて集

まったのでしょう。みんな可愛いですよ。人懐っこい子ばかりです。

苦しかっただろうけど、人間を恨んではいないようですね。ただ、

みんな、寂しかったのでしょう。」

 「そうですね。藤倉さんの言う通りですね。人間の身勝手で閉じ

込められて・・・苦しかったでしょう。寂しかったでしょう。うん

うん。」


 なんか、みんな泣いちゃった。でも、死んじゃったにしては、元

気だね。こいつら・・・アハ。

 藤倉さんは、こいつらも再生の家に入れてもいいと思っているよ

うだな。何かすごく面白い空間になりそうだ。楽しみ・・・いや、

怖いかもね。どんな家になるんだろうか。心配でもあるね。

 さっき、藤倉さんが言われていた、8匹が他の“霊”を呼んだの

も確かだろうけれど、あの、影たちがそういう動物の“霊”を集め

たのかもしれないね。あの“霊”もやさしいんだね。


 「じゃ、最後の部屋に行きましょう。」

 「あぁ、屋根裏部屋ですね。そこに何があるのかはリストにあり

ませんから、不安と期待でいっぱいです。」

 「先生。この上でしょ。かなり広いようですね。すごい宝物があ

ったりして・・・」

 「うん、そうだね。優司は気楽でいいな。黒川くんのように少し

は緊張感を持ちなさい。それじゃ、社会に出たら何もできなくなる

ぞ。」

 「は~い。黒川。緊張しているのか?」

 「ああ、まあな。緊張と言うより怖い。恐ろしい予感がする。藤

倉さん。屋根裏には、きっとあいつが居ますよ。」

 「うん、そうだね。・・・」

 「ん?あいつって?誰のこと?教えろよ、黒川。」

 「山川。お前、それを知ったら、ここから、一目散に逃げるだろ。

間違いなく。」

 「え~っ。じゃ、今逃げるよ。じゃ、またね。外で待っているよ。

よろしく。」

 「コラ!優司。逃げるな!」

 「・・・・・」

 「あの~、私も逃げたい気分です。」

 「あれ、先生まで・・・でも、先生は外に行かれた方が良いかも

わかりませんね。どうだ?黒川くん。」

 「あっ、そうですね。その方がいいかも・・・でも、おひとりで

は、またあんなことになったら・・・」

 「ん?あんなこと?」

 「いえ、なんでもありません。・・・じゃ、優司。先生と一緒に

外で待っていろ・・・いや、ここで待っていろ。」

 「えっ、ここで?」

 「そう、ここの方が良さそうだ。周りのペットたちや影たちが守

ってくれそうだしな。アハハハ。」

 「?」

 「じゃ、黒川くん、我々3人で行こうか。カメラは持ったよね。

それと、あの“縄”もね。」

 「はい。」

 「ん?3人でとは・・・おじさんと黒川だから、2人でしょ。も

う1人は誰だよ?」

 「もういいからここで待ってろ!」


 そして、藤倉さんと俺、それに、“白龍”さんの3人は、上の屋

根裏部屋へ向かった。これから、とんでもない戦いが始まるとは・

・・。

 ん?3人?ではなかった。2人と1霊だね。

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