第16話 自然と人工

            自然と人工


 いよいよ、年末年始だね。この『白い家』と「白いカフェ」での

初めての年越しとなりそうだけど、また、何かやるのかな?ここの

メンバーはオーナーを含めてイベント好きとうのか、お祭り好きだ

ね。楽しい・・・。


 「おい!滝くん。何、ボーっとしいるのよ。ニシさんが何か話が

あるって。厨房の方へ行こう。」

 「うん。マキさん。」


 あっ。みんな集まっている。アレ?常連さんも一緒だ。あ~、あ

の漫才コンビさんも、ニューハーフさんたちも・・・他にも沢山来

られているなぁ。俺が知っている人はそんなに多くないね。まだ、

ここに来て1年にもならないし、学校との両立だからカフェに毎日

出ているわけじゃないからね。


 「ん?滝くん。何か言った?」

 「いえ。何も。へへへ。」


 「え~、みなさん。この年末のお忙しいところお集まりいただき

ましてありがとうございます。今年ももうあとわずかとなりましが、

恒例の餅つきとわんこそば大会を30日と31日の2日間行います。

ここで人数をおよそ知っておきたいと思いますので、それぞれの人

やグループの人数を教えてください。うちの従業員がお聞きいたし

ますので宜しくお願いします。

 また、お集まりいただいた皆様には有志の方々と思い、その準備

にも少し参加いただければと思います。」

 「あの~。その餅つきって、僕らも餅をつけるんですか?」

 「はい。餅ということで、モチロンです。アハ。そちらの漫才コ

ンビのアール・ヌーボーさんには是非参加してほしいものです。石

臼と木臼の両方をご用意していますので、どちらでも結構ですから

お願いします。

 あっ、でも、今は漫才の仕事がお忙しいでしょ?」

 「いえ、大丈夫です。ここの“白い家と白いカフェ”には大変お

世話になりましたから手伝わせてください。1日中というはちょっ

と無理ですが、お礼をしたいのです。ええですよね。」

 「ありがとうございます。ついでに漫才も一緒にしていただける

とうれしいのですが・・・アハ。冗談ですよ。アハハハ。」

 「いいですよ。やらせていただきます。餅つき漫才って面白いか

も。へへへ。モチロン新しいネタでね。」

 「ダジャレをダジャレで返しましたね。アハハ。よろしくお願い

します。」

 「ワァ~、いいじゃん、それって・・・。」

 「ニューハーフさんたちもやりますか?力はありそうだしね。

へへへ。」

 「まっ。失礼な。ニシちゃん、私たちは非力です。基本的にはね。

へへへ。でも、普通の女性より力はあるかも。一応女性のつもりだ

けれど人工ですもんね。天然、自然モノとはちょい違うけれどね・

・・。」

 「あっ。その人口モノとか自然モノの件ですが、今年も100%

自然の素材を使っています。もち米もそば粉も一級品を使っちゃい

ます。

 それに、お餅の色は、白と赤に加えてヨモギの緑色と紅茶の茶色、

それにサフランの黄色のお餅もあります。みなさん、楽しみにして

くださいね。それから、そばも抹茶そばとそば粉100%のものも

ご用意いたします。お餅に着けるソースやそば用のスープもいろい

ろとご用意しますから。へへへ。」

 「ワァ~、楽しそう。美味しそう。そんなカラフルなお餅なんて

初めて・・・。」

 「それから、一言、言わせてね。器ですが、これも自然の素材の

ものを用意しております。一般的な陶器の他に、木や石、それに和

紙の物もありますからご自由にお使いください。」


 流石。ユミさんだね。しっかり器も探して来たんだ。


 『あらま。今年は種類が多そうね。それに全てが自然素材を使う

らしいけれど、大丈夫なの?結構高額になってしまうんじゃないの

かしら。

 まっ、人工モノと言ってもほとんどは自然の素材を加工したモノ

だし、そんなに差は無いと思いますが。実際、私たちも自然の素材

である、石、木、土などを使って人間が加工したものばかりだから、

自然でもあり、人工でもあるという感じじゃないかしら。庭にある

木たちも人間が植えたものだしね。自然を生かした人工モノという

のがいいような気がします。

 “自然環境を大切に”・・・。うふふ。』


 そして、数日後。・・・


 「よ~し。今日、明日の2日間の餅つきとわんこそば大会が始ま

るぞ。みんなよろしくな。」

 「は~い。ニシさん。お任せください。私もしっかり服に力を入

れて来ましたから・・・。掃除が終わったらみんなこれに着替えて

ね。へへへ。」

 「あ~、いい、それ。でも、カラフルね。アハハ。」

 「あっ。ユミさん。おはよう。これ、ちょっと派手ですか?」

 

 何?そのファッション。マキさん、やりすぎのような気がする。

でも、俺は大好きだね。白のつなぎ服に赤、青、黄、そして緑の4

色のタスキ掛けと同じ色のハチマキ、手袋はなんだ・・・。動きや

すそうだけれど、何でつなぎ服なんだろう。

 あ~、ショウさんはライトグリーン?抹茶っぽいけどね。それに、

アキちゃんはピンクのつなぎ服だし、ニシさんは黄色かぁ。

俺とユミさん以外はみんないろんな色のつなぎ服を着るんだ。

 うっ。ちょっと嫌な予感。


「ユミさんと滝くん。それにミーちゃんもこれに着替えてね。」

 「え~。俺も着るんですか?それも、何で俺だけ赤、青、緑の3

色なんですか?黄色が入ってないようですが・・・。」

 「滝くんは、顔が地味だから、せめて服装は派手じゃないとおめ

でたくないからね。

 それに、赤、青、緑は光の三原色で建築やインテリアにも深く関

係があるでしょ。それに、自然界からの光でもあるしね。うふ。」


 フン。悪かったね。地味な顔で・・・。でも、その3色は確かに

自然の光の基本色だけれど、アキさん、良く知っていたね。アハ。


 「私はこれなの?木目調の柄だよ。何か変わっているね。でもい

い感じ。しっくり来ている・・・かな?・・・」

 「うんうん。ユミさんは顔が派手だからね。服は地味なイメージ

が良いかなと思って木目調にしました。へへへ。」


 確かに。ユミさんの顔は派手だね。ハーフっぽいというか、宝塚

歌劇の男優って感じがするね。アハハハ。

 

 「ワァ~イ。私は水玉模様のオレンジ色だ~。うれしい。」

 「フン。美羽は黒の水玉の方がお似合いじゃないの。」

 「母!何ということを言うの。可愛い娘なんだから、この色がい

いの。」


 確かに。可愛くまとまっているね。ミーちゃんの性格とは真逆の

ような気がするね。


 「あっ。みんなの服は全て自然界からいただいたものばかりだよ。

自然の材料で染めたんだよ。白いつなぎ服を買って来て、1つ1つ

手染めなんだから・・・。」

 「へぇ~そうなんだ。確かに落ち着いた色調だね。やさしい色だ

ね。」

 「でしょう。滝くん。わかってもらえたかな。今年は全て自然の

素材だと言っていたから、服装も自然素材を生かしたものにしてお

きたかったの。

 例えば、アキちゃんのピンクは、本当は桜色なのよ。ピンクにし

ては色が薄いでしょ。自然の桜の染料を使ったの。それと、オレン

ジ色や他の色も同じで自然の素材から染めたのよ。

 あっ、オーナーは赤です。朝日の赤であり、夕日の赤でもあるの。

いつも元気でいてほしいのです。いつも・・・。」


 『うんうん。いいですね。みなさん、よくお似合いですね。今、

オーナーは居ませんが喜ぶと思いますよ。私たちもほとんどが自然

ですから、しっくりします。

 今の世の中は人工モノだらけで温かみが、優しさが少し薄いよう

に思えます。人工モノが悪いということではないのですが、もっと

自然の素材も大切にしてほしいと思います。そうすれば、人の心も

少し自然体に近づくような気がします。特に私は自然界の中で“生”

をいただいたようなものですから、余計にそう感じます。まっ、自

然ではありませんが、自然と共に生きています。

 そう。私の名は“白龍”と言います。正式には“白龍神”と言っ

て、世の中の西方を守っています。が、大げさな“神”ではなく、

親しみやすい“霊”だと本人は思っています。うふふ。

 また、私はこの“白い家”に参加している全てのモノたちを守っ

ています。もちろん、あなたたち従業員さんも、お客様もお守りし

ています。私がここに居ることができるのはオーナーである藤倉さ

んのおかげなのです。』


 「よし!もち米を蒸すぞ。滝くん、手伝ったくれ。」

 「は~い。」

 「ほかの皆さんは、大掃除と飾り付けを頼むね。力がいるようだ

ったら叫んでね。アハハハ。」


 「おはようございます。」

 「あっ。ニューハーフさんたち。おはようございます。どうした

のですか?ちょっと早過ぎますが・・・。」

 「うん。アキちゃん。ごめんね。忙しそうだね。私たち、今年は

すごくお世話になったからお手伝いしようかと思ってね。

私たちのお店はお正月休みに入ったから大丈夫。掃除でも、イベン

トの準備でもやるわよ。もちろん、力仕事もね。うふふ。

 手伝わせてください。」

 「そうなんですか。でも・・・」

 「いいよ。手伝ってくれ。」

 「あっ。ニシちゃん。ありがとう。じゃ、みんなで手伝うわね。」

 

 おぉ。人手が増えて早く進みそうだね。ん?何人来られているん

だろう。・・・

 え~、10人も・・・。しかも、みんな化粧をしてないから男っ

ぽい・・・ちょっと怖いかも。でも、しぐさは女だね。アハハハ。

これも人工モノということかな。あっ、失礼。ごめんなさい。良い

人達ばかりだね。


 「そこのニューハーフの5人さん。庭の掃除を手伝ってください

ます?」


 さっそく、マキさんが指示をしている。外はマキさんが担当のよ

うなものだからね。


 「この手袋をして、1つ1つゴミを手で取って下さい。丁寧にお

願いしますね。」

 「は~い。でも、何故、1つ1つ手で取るの?ほうきで掃けばい

いじゃないの?」

 「ん?この1年、この庭にもお世話になったから、その庭と触れ

合うようにして、お礼を言いながら綺麗にしてあげるのよ。みなさ

んの肌のお手入れのように、丁寧に心を込めてね。

 今年1年しっかりとお世話になったのだから、少しは感謝しない

とね。そして、また来年もよろしくってね。うふ。」

 「は~い。わかりました。すごくいいね。毎日は難しいけれど、

年に1度や2度はこんなふうにやってみたいね。私たちのお店にも

しっかりと感謝をしないとね。」

 「うんうん。そうね。また、この“白い家”に教えられちゃった。


 「ニシさん。このもち米はどうやって蒸すんですか?ここの厨房

じゃ狭いでしょ」

 「うん。狭い!だから裏庭でやるんだよ。滝くん、これを裏庭に

設置してくれるかな。」


 あっ。蒸し器だね。3台あるのか。えっと3台で3段だから一度

に9種のもち米が蒸せるのかな?それに、火は全て牧でやるのか。


 「ニシさん、全て牧でもち米を炊くのですね。時間がかかってし

まうでしょう。」

 「いや。それは違うよ。牧の方が火力が出るし、調整も上手くや

れるから早く炊けるんだよ。それに、自然素材での料理だから美味

しいよ。

じゃ、まず初めの3色を行くね。よろしく。」


 あ~、そっか。9種と思っていたけれど、3段が1つということ

で一色のもち米を蒸すんだ。確かに、3段のところに違う色を入れ

て色が混ざったら大変だからね。


 「おぉ。今年はいろんな色と香りのお餅が食べられそうだね。」

 「あっ。オーナー。おはようございます。」

 「うん。おはよう。」

 「あっ。オーナー。そろそろ、そば打ちの方をよろしくお願いし

ます。もう用意はできていますから。」

 「あいよ。ニシさん。じゃ、頑張ってやるか・・・。」


 へぇ~、そばはオーナーが打つんだ。メチャクチャ上手そうだね。

なんか、手慣れている気がするね。


 「ほ~、ニシさん。今年のそばは普通のそばと抹茶そばの2種類

があるんだね。俺、抹茶が大好き。アハハハ。」

 「オーナー。好きな方だけに力を出さないでね。平等にね。アハ。

「は~い。」


 えっ。使う水も違うのか・・・。


 「ん?滝くん。どうした?あぁ~、この水か。この水はね、ユミ

ちゃんが実家の近くの湧水をもらって来たそうだ。軟水でやさしく

て美味しいよ。飲んでみるか?」

 「いいですか?」

 

 あっ。すごく美味しい。やさしい。ちょっと甘味があるような気

がする。


 「美味しいだろ?でもね、自然のままだと美味しいけれど、その

ままだとちょっと使い辛いんだよ。少しだけろ過してやるともっと

スッキリしたものになって、そばの味や香りを邪魔しないんだよ。

こっちの水を飲んでみて。」

 「あっ。軽いですね。それに、さっきの甘味も消えています。」

 「だろ。この水だと、そばの風味を損なわないからね。」

 「そうか。自然のままがいいと思っていたけれど、少し人の手を

加えるともっと良くなるということなのかな。」

 「それもあるけれど、手を加えたら全てが良くなるということじ

ゃないね。逆に自然を壊してしまうことにもなるからね。」

 「じゃ、使う目的にあった加工をすれば、使いやすくなればいい

ですよね。人間の勝手ではなく。」

 「そうだよ。それが昔の人が自然と共に生きてきた“知恵”なん

だね。完全に人工のものだとこうは行かないけれど、自然のものを

生かしつつ、その力を借りて少しだけ手を加えると、よりいいもの

が生まれる。滝くんが学んでいる建築なども正にその世界だと思う

な。」

 「はい。俺もそう思います。勉強します。」

 「うんうん。」


 「お~い。みんな。そろそろ掃除も準備も終わりそうだな。じゃ、

マキちゃんが用意をしてくれたつなぎ服に着替えて集合だ。」

 「は~い。」


 『いよいよ、餅つきと年越しわんこそば大会が始まりですね。み

なさんが集まり始めました。私たち“霊”はとっくに集まっていま

すよ。うふふ。

 そう。綺麗に掃除をしていただいたから、みんな喜んでいます。

あっ。ちなみに、マキちゃんが何故つなぎ服を選んだかというと、

餅つきって結構な動きをしますよね。その時に全身が一体となるよ

うに繋がった服にしたってことです。それに、中に沢山着込んでも

わかりにくく、見た目にはあまり変わらないから・・・うふ。』


 『みなさん、どうぞ、良いお年を・・・。』

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