第15話 香りと臭い

             香りと臭い


 「おはよう。」

 「ニシさん、おはよう・」

 「おっ。相変わらずマキちゃんは朝が早いな。毎日掃除をしてく

れてありがとう。でも、飽きないの?」

 「はい。これ、私のライフワークの1つですから、やらないと何

かその1日の調子が変なの。」

 「そうか。1日のリズムが狂ってしまうとしんどいものだね。

あれ?今日は、滝くんは学校だったかな。まだ来ていないね。」

 「あ~、そうですね。どうしたんだろう。授業が無い時や、午後

の時は必ずカフェに出ていましたからね。

 あっ。今日は12月24日ですよね。・・・学校は休みに入って

いるんじゃないのかな。」

 「どうしたんだ。昨日はクリスマスイヴイヴのイベントで盛り上

がったけれど、接客はしっかりやっていたような。・・・そうか、

騒ぎすぎて二日酔いか。アハハハ。」

 「滝くんらしくないね。多分、学校も休みになったし、イベント

も楽しく終わったから何かホッとしていたようですね。」


 「おはよう。ニシさん、マキちゃん。」

 「あっ。ユミさん。おはよう。」

 「お~。おはよう、ユミちゃん。」

 「さっき、滝くんに会ったよ。赤~い顔して、今日は、午前中は

休みますって言っていた。あれは完全に二日酔いの顔だね。でも、

滝くんはお酒が強かったよね。イベント中は禁酒だし、その後に飲

んだとしても、あの短時間では酔っぱらうほどは飲めないよ。」

 「ですよね。滝くんは意外と慎重な人だから、無理な飲酒はしな

いと思うけど・・・どうだろうね。」

 「あっ。ショウちゃんはどうしたんだ。あいつも二日酔いか?・

・・ん?そっか。ショウちゃんは酒が苦手でほとんど飲めないんだ

ったな。何であいつも出て来ないんだ。」

 「え~。何かやりましたか?ユミさん。」

 「アハ。マキちゃんは何の担当だった?衣装関係でカフェを出た

り入ったりしていたでしょ。長くカフェには居なかったよね。それ

に、あの装置にはほとんど近付かなかったよね。」

 「え?装置?何の?」

 「あっ。そうか。ユミちゃんわかったよ。今日のあの2人の状態

を聞いていると、原因があの装置だったんだ。」

 「ニシさん、なんなの?その装置って。」

 「それは、“香り”を噴射するための噴霧器のようなものだよ。

今回のクリスマスパーティーは“音”と“香”そして、“灯”の世

界だっただろ。そのために“香り”を飛ばす必要があったから、数

か所にそれを設置したけど、その調整管理担当が滝くんとショウち

ゃんだった。」

 「うん。でも、その“香り”が原因とは思えないのですが。滝く

んだけじゃなくてお客様やオーナーも近くに居たけれど、そんな症

状はなかったように見えましたよ。」

 「ん~、そうか。マキちゃんの言う通りだな。じゃ、何が原因?」

 「うむ~。2人の共通の行動で他のお客様やオーナーが関わらな

い行動にヒントがありそうですね。むむ。あの“香り”と何かが混

ざってその結果、体調に異変が出たというのが私の推理ですね。」

 「おいおい。マキちゃん。なんか、探偵みたいになっているぞ。

なんだったら、探偵服に着替えてきたら。アハハハ。」

 「確かに。マキちゃんはノリがいいね。うふふ。」

 「よし!着替えて来よう。」

 「えっ。着替えるんだ。・・・・・アハ。」


 『あら。マキちゃん、悪乗りしたようね。でも、そんな服を持っ

ていたのですね。本当に何でも持っているのですね。うふふ。』


 「お待たせ~。へへへ。」

 「えっ。本当に探偵風の服を持っていたのか。・・・良く似合う

ね。やっぱり、全体に白なんだ。アハハハ。」

 「うん。そりゃそうでしょ。“白い家と白いカフェ”の探偵なん

だから。へへへ。

ニシさん、ユミさん、あまり心配しないで。あの2人が何か他にも

関わったところがきっと見つかるから。」


 「うむ~。あっ。そう言えば、あの2人は厨房にも出入りしてい

たよな。オーナーはメッタに入らないし、お客様は当然入る訳がな

い。・・・

 でも、パーティー中は“臭い”が気になるし“香”の演出に悪影

響を与えそうだから配膳作業だけで調理はしていなかったよな。

 “臭い”といえばフルーツの盛り合わせやフルーツポンチ、ミッ

クスジュースくらいかな。・・・

 あ~っ。フルーツの中でもグレープフルーツは柑橘系で刺激が強

いし、ある薬には異常な反応をすることがあると聞いたな。もしか

して、いろいろな“香り”と“臭い”が出ていたから、それが混ざ

って何か変な化学反応を起こしたのかな。・・・

 うん、きっとそうだよ。だから、滝くんは少しの酒でも酔いが回

ったんじゃないか。ショウちゃんは元々飲まないのに酒の“臭い”

と装置からの“香り”に厨房内の何かの“臭い”が混ざって、それ

を嗅いでしまったんじゃないかな。」

 「そうそう。そうだよ。ニシさんの言う通りだと思うね。そうだ

と思わない?名探偵マキちゃん。うふ。」

 「うん。そうですね。何がどう反応したのかわからないけれど、

ちょっと怖い気がします。やはり、後で徹底的に調査する必要があ

りそうですね・・・。」

 「あのね、マキちゃん。滝くんとショウちゃんが出て来れば、直

接に聞けばいいんじゃないの?かなり、悪乗りしてきちゃったね。」

 「アハ、ごめんなさい。でも、この家にもその“臭い”が染み付

いていないかしら。ちょっと心配。」


 『はい。大丈夫ですよ。確かに変な“香り”はしましたが、すぐ

に消えました。

 何故なのかわかりませんが、“香り”や“臭い”というのは様々

な物質でできているのでしょうね。今回のような変な化学反応を起

こしてしまうものなのでしょうか。

 でも、“香り”と“臭い”って微妙ですよね。“香り”というと

いやな印象は無いのでるが、“臭い”は何かクサイとか言って、あ

まりいいイメージではないことがあります。どう違うのか、日本語

は難しいです。昨日のクリスマスイベントは、このカフェ初めての

“音”と“香”と“灯”の複合演出で盛り上がっていました。

 私たちも楽しませていただきました。ただ、“音楽”と“灯り”

はいいのですが“香り”に関しては、場所によって変えましたよね。

仲間の中にはいやな思いをしたモノもいました。まだまだ検討の余

地はありそうですね。』


 「でも、まだ部屋には、“臭い”というか“香り”が残っていま

すね。いわゆる、残り香というのでしょうか。」

 「うん、確かに、マキちゃんの言う通りだね。よし。みんなで窓

を開けて空気を入れ換えよう。」

 「は~い。」

 「ね~。毎年だけれど、クリスマスは結構盛り上がるよね。今年

は特にセイさんの演出が良かったね。部屋やそのコーナー毎に“香

り”が違うし、“音楽”に対してもそれぞれ違った“香り”があっ

たね。それに、彩葉ちゃんの歌もいい雰囲気を創っていた。何か神

秘的なものを感じました。

 あっ。それと向こうの和室の演出も良かった。クリスマスだから

和室は関係ないと思っていたけれど、あの“灯”と“音”と“香”

の演出でいい雰囲気になっていたし、何と言ってもあの和室の襖や

壁の山河の絵が“灯り”や“音楽”でまるで生きているようだった

でしょ。それに、“香り”がとっても良かったね。私、あの和室か

ら出られなくなっちゃった・・・。」

 「マキちゃん。出られなくなったじゃなくて、サボっていたでし

ょ。ちょっと覗いて見たら寝ていたね。うふふ。」

 「え~。ユミさん、来ていたんですか。アハ。バレたか。・・・」

 「お~い。もうすぐお昼からのお客さんが来られるから準備よろ

しく。」

 「は~い。ニシさん。滝くんやショウさんも、もう来る頃だしね。


 「こんにちは~。」

 「いらっしゃいませ。おふたりですか?お好きな席へどうぞ。」

 「はい。じゃ、あの席に・・・。」


 ん?やっぱり、あの席だね。何かありそうね・・・。


 「へぇ~。この席って眺めが良いんだね。庭がよく見えてカフェ

全体も眺められるね。ん?アヤどうしたの?」

 「うん。何か臭わない?レイは気付かなかったの?」

 「あ~、この“香り”ね。このカフェに入った時にも違う“香り”

がしたよ。この席はまた違った“香り”がするね。なんだろう。」

 「いらっしゃいませ。メニューはお決まりですか?」

 「はい。海鮮ピラフとホワイトカレー、後で、カフェオーレを2

つ下さい。」

 「はい。海鮮ピラフにホワイトカレーですね。しばらくお待ちく

ださい。」

 「あの~、この“臭い”ってなんですか?さっき、入った時にも

これとは違った“臭い”がしたのですが・・・。」

 「あ~、これ、昨日のクリスマスパーティーの時の“香り”が少

し残っているんです。いわゆる、残り香ですね。気になりますか?

もしよかったら、消臭スプレーをしましょうか?」

 「いえ。大丈夫です。いい“香り”ですね。

この“香り”を感じながら庭を見て、この“音楽”を聴いていると

すごく癒されます。ね、レイ。そう思わない?」

 「だね。アヤは特に“臭い”には敏感だから。でも、とってもい

い“香り”ですね。そのクリスマスパーティーはすごく良かったの

でしょうね。来たかったなぁ~。」

 「レイ。それは無理でしょ。このカフェはさっき見つけたばかり

じゃない。表から見るとカフェという感じじゃないしね。」

 「そうそう。だから今まで見つけられなかったのよ。でもこんな

カフェがあるなんて・・・。いいね。

 それに、私たちはいつも消毒薬や病院の独特の“臭い”の中で働

いているから、この“香り”は気持ちいいね。

 店員さん、この“香り”はいつもするのですか?」

 「いえ。昨日だけです。今は残り香です。でもそんなにいい“香

り”ですか?私は慣れてしまって、よくわかりません。」

 「うん。いい“香り”ですよ。こんな演出をしているカフェって

無いよね。」

 「そそ。アヤの言う通りね。普通だとコーヒーの“香り”が一般

的でしょ。確かに、さっき通った厨房近くはコーヒーの“香り”が

あったけれど、この席では、柑橘系の爽やかな“香り”がする。冬

なのにこの“香り”が何故か心地良いのよ。

 夏の方が合うとは思うけどね。」

 「あ~、店員さん。その服からもいい“香り”がしますね。それ

に、そのファッションは昨日のクリスマスのなごりですか?レッド

とライトグリーンの飾りがすごく綺麗ですね。“香り”が少し甘い

ので優しい感じがします。」

 「そうね。レイ。店員さんの服、すごく可愛いね。楽しくなっち

ゃうね。」

 「ありがとうございます。確かに昨日のなごりですね。まだ、今

日は24日でイヴですから、今日と明日はこのクリスマスバージョ

ンでと思っています。」

 「うんうん。いいですね。私たちの服にもこんなちょっとした飾

りが必要じゃない?あまり大げさにすると問題視されるけれど、さ

りげなくならね。・・・

“臭い”は使えないけれど、これくらいならいいかもよ。」

 「そうだね。心の中で“香り”を感じていただけるかもね。クリ

スマスってね。」


 「お待たせいたしました。海鮮ピラフとホワイトカレーです。後

ほどカフェオーレをお持ちします。ごゆっくりどうぞ。」

 「あっ。ありがとう。綺麗な器ね。色彩がすごく明るくて気持ち

いいですね。」

 「ありがとうございます。うちの店員が長くお邪魔しまして申し

訳ありません。」

 「いいえ。何か、この席の“香り”とピッタリ合っていたようで

良かったですよ。」


 「あっ。滝くん。来ていたのね。もう大丈夫?」

 「うん。大丈夫。マキさんはズーっとあの席に居るから、俺が来

たのがわからなかったんだ。ほら、ニシさんがイライラした目をし

ているよ。アハハハ。」

 「アハ。ごめん。私もあの席に残っている“香り”が好きなのよ

ね。“香り”って後で少しだけ香るのが一番印象に残ると思わない

?滝くんからも変な“臭い”がするけどね。」

 「え~、まだ臭いますか?昨日のパーティーの後で何か変だった

んですよね。酔っぱらっているような感じでした。

 でも、嫌な気分じゃなかったね。むしろ気持ちがよかったという

か、心地良かった。朝はボーっとしていましたが・・・。へへへ。」


 『おふたりさん。“香り”と“臭い”で盛り上がっているようだ

けれど、このお客様ってどうやら近くの病院の看護師さんですね。

確かに病院内はいい“香り”がするとは言えませんね。そんなとこ

ろで長く働いていると、いい“香り”が恋しくなるでしょうね。

 “香り”と“臭い”って言い方が違うけれど、同じようなもので

すよね。“香り”の方がちょっといい印象がありますが。まっ、ど

ちらにしても人間さんには大きな影響を与えるらしいですね。』


 「ね~、レイ。また、このカフェに来ようね。私、すごく好きに

なっちゃった。」

 「私も~。他の人にも紹介してみんなで来ようよ。ここって、貸

し切りもできると書いてあったね。こんな演出をするカフェだから

パーティーなんかお願いしたら楽しいかもね。期待できるよ、きっ

とね。」


 「カフェオーレ、お待たせいたしました。どうぞごゆっくり。」

 「あっ。今度のお正月に向けて年末年始もちょっとした演出をし

ますから、是非、お越しください。」

 「えっ。そうなんですか?年末年始、お正月もやっているのね。

絶対に来ます。みんな誘って来ます。へへへ。」


 『アハ。マキちゃん。宣伝しちゃったね。今度の年末年始とお正

月もちょっとした演出をするようだけれど、また、沢山のお客様が

来られるようですね。私にとってはうれしいことですが、みんな、

あまり無理しないようにね。うふふ。』


 「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」

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