WAVE:07 毎日を騒がしく遊び生きるオレ達の対戦ゲーム
<私の負けだね、残念>
ヘッドセット越しの声は言葉とは裏腹にどこか満足げだった。
スタァ・ソード・スライダーの直撃で、
この対戦はオレの勝利で幕を下ろした。引き分けだった戦績はオレの勝ち越しになる。
これで、三つの目標のうち二つを達成した。
「宙埜さん、お疲れ様……」
<本当に楽しかったよ。ありがとう。
「うん」
宙埜さん――いや、シアン。オレこそ有難う。最高のライバルと最高の対戦が出来て、本当に楽しかったよ。
それで、オレとの対戦中、少しでも悲しいことを考えずにいられたなら、これほど嬉しいことはない。
オレは、もう行くよ。
まだ、やらなくちゃいけないことがあるから。
三つの目標の最後の一つ。
それは、このバトルロイヤル大会で最後まで生き残ること。
戦いは終盤。残っている
そして、その敵機もここまで戦い抜いた連中だ。一筋縄ではいかない相手ばかりだろう。気を引き締めないと。
オレはスタァ・ソード・スライダーで月面の基地跡を突っ切っていく。
スラスターの残量はもう半分を切った。急がないと。
月面基地跡の先、ステージ名である【オペレーション・ワイズマンタワー】の由来になった、巨大な黒い物体。
月面から伸びる塔のようなそれは、一枚の大きな
オラクル・ギア公式の設定によると、これは侵略者の移動用ゲートで「こちら」の宇宙とは別の宇宙に繋がっているらしい。
その宇宙は「こちら」の宇宙よりも遥かに科学が発達しているらしく、この塔だかモノリスだかよく分からない移動用ゲートを制圧し、別の宇宙へと渡り、そこから様々な超科学の成果を持ち帰ることで、人類の文明は次の段階に至る、とされている。
人類に無限の叡智を授ける賢者の塔、故に
そして――、
それを背に立ち塞がる青い超大型ギアの姿。
無数の四角を組み合わせたような無骨なシルエット。だけど、シンプルだからこそ強烈な威圧感を放つ。
これが、今回のバトロ大会用にフロニキが用意した新型ギアか。
この
青い超大型ギアの周囲には、フロニキに挑んで撃墜された敵機の残骸が大量に浮かんでいる。まさに、死屍累々。
サブモニターで確認した限り、ヒナや
バトロに生き残ることが目的なら、ワザワザここまで来る必要はない。時間切れを狙って、どこかに隠れていればいいだけだ。それも一つのプレイスタイルで攻略法だ。誰も非難することは出来ない。
だけどさ。
オレはそんな勝ち方はゴメンだ。
折角、フロニキがあんなデカブツまで用意してくれたんだ。ここは挑むしかねーだろ。
このバトロ大会をとことん楽しむってのはそうゆうことだ!
<よう、
ヒナからの通信が入る。ラスボスを前にしてもいつもの調子だ。まったく、頼もしいと言うべきなのか、緊張感がないと言うべきなのか。
「お前の方は
<はぁ、何言ってんだよ。そんなもんいらねーよ。ヒナ君はまだまだ余裕ですよ?>
<ヒナ、強がりはやめときなよ? 僕と乾さんが助けにこなきゃ、落とされてたとこでしょ>
ヘッドセットから、ヒナに普段通りツッコミを入れる透吾の声が聞こえた。
<こら、透吾! 余計なこと言うなって!>
<ちょっと、一応ラスボスの前よ。もう少しシャンとしなさい>
乾も相変わらずのノリだ。
気が付けば、毎度お馴染みのメンツが勢揃いじゃないか。
そのことが、不思議とオレを安心させた。
「そういや、溝呂木プロはどうしたんだ?」
<途中で相手するのが面倒になったから適当に巻いたわよ。別のポイントで敵機に囲まれてたけど、アレぐらいで落とされるとも思えないし、もうじきこっちに来るんじゃないかしら>
あの人、お祭り騒ぎが好きそうだしな。絶対にこっち来るな。
<
「おかげさまでな」
<ひょっとして、怒ってる?>
「お前はオレに怒られるようなことをした自覚があるのか?」
<そうねー、特にないわね>
まったく悪びれる様子もなく乾が言い放つ。こいつ、本当にいい性格してるよな……。
「……今は忙しいから何も聞かないでおいてやる」
<あら、そうなの?>
ここまでしゃあしゃあとした態度を貫かれると、いっそ清々しさすら感じるぜ。
お前のそうゆう所が、きっと宙埜さんの救いになっていたんだな。
<やぁ、来たね、イブキ君。待っていたよ>
「いやー、お待たせしたみたいでスミマセン。オレもフロニキが落とされていないか心配で気が気じゃありませんでしたよ」
<そんな心配は必要ないよ。何しろ俺には期待の若手の実力を確認する義務があるからね。それを果たすまで落とされるつもりはないよ>
「オレ達と戦うのは義務なんですか? それはあまり楽しそうな理由じゃありませんね」
<そんなことはないよ。他人に課せられたものじゃない、俺がやるべきだと感じたことだ。楽しくないわけがない>
「なるほど、そうゆう考え方もありますね」
<ゲームとの向き合い方は人それぞれだよ。そこに正解も間違いもない。イブキ君はイブキ君のやり方でゲームと向き合えばいい>
「分かりました。そうさせて貰います」
<さて、残り時間も少ない。皆、まとめてかかってくるといい。今回の超バトロ大会のためにオレが作ったこのハート・ブルーでお相手するよ。ちなみに、このギアは、神余さんの協力でボス仕様になっている。そのつもりで楽しんでくれ>
フロニキの言葉と同時。眼前の青い超大型ギア――ハート・ブルーが機体各所の装甲を展開して、内蔵された無数のミサイルを一斉に発射する。
某伝説巨人ばりの全方位ミサイル攻撃だ。
ボス仕様だからっていきなり好き放題してくるな。
オレはスタァ・ソード・スライダーで、糸を引きながら飛んでくるミサイル群をかいくぐり、ハート・ブルー目掛けて突撃。そのまま、変形したアーマード・ジャケットを右肩のパーツに激突させる。
ハート・ブルーはボス仕様だけあって、通常サイズのギア数十機分の大きさだ。サイズと比例して耐久値もバカ高い。並のギアなら今の一撃で深手を負わすことが出来たけど、ハート・ブルーにとっては損傷軽微。こっちはアーマード・ジャケットの失い損だ。
でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
オレはプロフェシー
これだけデカいんだ、懐(?)に潜り込まれたら弱いだろ!
<伊吹、危ないよー>
透吾からの通信とほぼ同時に、ウィッカーマンのメガ・ソリッド・バスターが、ハート・ブルーの装甲から展開した近接迎撃用の
「うお、油断した。サンキュー、透吾」
<大丈夫ー、おごって貰う午後
結局それかよ!
<伊吹、そろそろ混ぜろよ!>
狼型の四足獣形態に変形した
「おいおい、こいつはオレの獲物だぜ?」
<何だよ、ケチ臭いこと言ってないで、一緒に盛り上がってこうぜ。ここは、ワクワクと胸のトキメキをシェアしてくとこだろ?>
<ふう、男同士でナニを盛り上げるのか是非聞かせて欲しいわね>
おーい、その下ネタは女子高生が口にするにはギリギリだと思うぞー?
<何言ってるんだよ、乾。フロニキとの対戦を盛り上げるに決まってるだろ。この状況で他に何があるんだよ?>
案の定、ヒナは乾がナニを言っているのか理解出来ていない。カマトトかよ。もう少しオトナの知識増やしてけ。
いや、別に一生理解出来なくてもいいか。理解出来たところで得することは何もないし。
<いいねぇ、ヒナタ君。皆でどんどん盛り上げて貰おうか!>
ハート・ブルーの左右の肩パーツ。その端が展開して近接迎撃用のものよりも、大型の隠し腕が現れる。
突然のことなので反応が遅れた。大型隠し腕はプロフェシーNとM・Mを拿捕すると、そのままワイズマン・タワー目掛けて豪快に放り投げる。
「ゲェェェッ、こいつはキツイ!」
<いってー、やってくれましたね、フロニキ!>
<二人ともゴメン。フォロー間に合わなかったー>
気にするな、透吾。反応出来なかったオレ達が悪い。
ワイズマン・タワーに叩き付けられたプロフェシーNとM・Mに、隠し腕内蔵のフォトン・ランチャーで追撃。
二機の耐久値が一気にゼロ近くまで減る。うぉー、こいつは本気でヤベェ!
<まだまだ、やられるつもりはないッスよ、フロニキ! アイドルは逆境でこそより強く輝くんです!>
いや、お前アイドル違うだろ。少し落ち着け。
<勝利って夢は見るものじゃない、叶えるものなんスよ、フロニキ! おれは輝きたい衝動に素直なワカモノなんですっ!!>
ヒナがまるで女児向けアイドルアニメの主題歌のような台詞を口走る。いや、女児向けアイドルアニメよく知らんけど。
それと同時に、ダウンから立ち直ったM・Mがハート・ブルーへ加速。四足獣の機動力を最大限に発揮しながら、ミサイルとフォトン・ランチャーの嵐を回避。加速からの大跳躍で、再度、ハート・ブルーに取り付く。
そのまま、ハート・ブルーの各パーツを駆け回り、背中の姿勢制御用ウィングに展開したフォトン・セイバーで斬撃を繰り出す。更に、背部にマウントしたフォトン・ライフルによる射撃と、爪と牙を使った追撃も忘れない。
<あははは、面白い攻撃だねヒナタ君!!>
フロニキは機体各所の隠し腕でM・Mを捕まえようとする。
M・Mはまるで自由な風のようにそれをすり抜けていく。
<
ジャンプで空中高く舞い上がった乾のエル・ゾンビが、
<その巨体でエル・ゾンビの攻撃を見切れるかしら!?>
ハート・ブルーの左肩パーツをダブルロックオンしたエル・ゾンビが、槍による連続突きを繰り出す。オレもハーヴェスターⅡの
そこに、透吾のウィッカーマンがメガ・ソリッド・バスターでダメ押しをする。
さすがに今のは堪えたのか、轟音を響かせながらハート・ブルーの右肩パーツが崩れ落ちていく。
この隙を逃さない!
オレはデュアルスティックを操り、プロフェシーNをハート・ブルーの左肩パーツまで空中ダッシュで移動させる。
<伊吹ー、もう少し頑張らないと僕達が
透吾がオレを焚き付けるようなことを言ってくる。
<心配すんな。これからだよ、これから!>
<イブキ君、トウゴ君。俺は簡単にやられるつもりはないよ?>
ハート・ブルーの両脚部の装甲が展開。そこから、大量のミサイルがウィッカーマン目掛けて殺到する。
ウィッカーマは火力と装甲重視のギアだ。プロフェシーやM・Mと違って機動性は二の次になっている。そんなわけだから、この数のミサイルをかわすのはちょっと厳しい。
<うわー、これはかわしきれないかなー>
ハート・ブルーからミサイルの洗礼を受けたウィッカーマンが、残りの耐久値を根こそぎ奪われ爆発、四散。重装甲がウリのウィッカーマンでも、あの量はさすがに耐え切れない。ステージ終盤で耐久値が相当減ってたのもよくなかった。
<うーん、やられちゃったよー。皆、後はよろしくー>
<よしっ、このヒナ君様に任せとけ! 敵はとっちゃる!>
ハート・ブルーの各パーツを好き勝手に走り回っていたM・Mが、大きくジャンプをする。
上昇頂点で機体を捻らせドリルのように高速回転を開始。血の色にもよく似た紅色のエフェクトをまとい、ハート・ブルーの頭部に向かって急降下。
<いくぞぉぉっっ! 必殺、ブラッド・サーキュレイター!! 全てを血の色に染め上げる、狼の猛攻に耐えられるもの耐えてみろっっ!!!>
ハート・ブルーの頭部に突き刺さったM・Mは回転を続け、そのまま青い巨大ギアに連続してダメージを与えていく。
うわー、これは痛そうだ。
<
ジャンプからのブーストダッシュでハート・ブルーに接近したエル・ゾンビが、回転式突撃槍によるラッシュを仕掛ける。
おっと、こっちも観戦モードになってる場合じゃないな。
オレは左右のアームトリガーを同時に連続でクリック。
「ハーヴェスターⅡ、オートリミッター・カット。全エネルギーを刃に乗せて、斬って斬って、斬りまくるっっ!!!」
ハーヴェスターⅡの全エネルギを使って左肩パーツに連続斬りを食らわせる。
アーマード・ジャケットを失ったので、ガンポッドもドレッド・スパイカー
「死ぬぜー。オレとプロフェシーを見たヤツは皆死ぬぜー」
<あはははっ、言うなれば『死神と呼ばれたギア』だね。懐かしいネタだ。いいねぇ、オラクル・ギアの対戦はこうでなくちゃっ!!>
オレの言葉にフロニキが心の底から楽しそうな声で言う。
それは、オレだって――いや、今この場で戦っているライナー全員が同じ気持ちだと思いますよ!
<デストクション・アーム、
フロニキの声と同時に、ハート・ブルーの背部装甲が開く。そこから伸びるのは、肩部のものよりも更に巨大な一対のマニュピレーターだ。
それが、ハート・ブルーの頭部で回転し続けるM・Mを無造作に掴み上げた。
<うわっ、何だよそのクソタレでっけぇ隠し腕は!?>
ハート・ブルーは掴み上げたM・Mをそのまま力任せに握り潰す。
殆ど耐久値の残っていなかったM・Mに耐えられる攻撃ではなかった。
ハート・ブルーの背中から伸びた巨大な掌の中で、M・Mが爆ぜる。
<やられたっ! 伊吹、乾、あとは頼むぞー>
「ヒナ、お疲れちゃんだ! 頼まれなくてもバッチリキッカリやってやらぁ!!」
<そうゆうこと。まずはわたしから行かせて貰うわっ!>
地表でターボゲージと武器ゲージの回復を待っていた乾は、エル・ゾンビをハート・ブルーに向かってジャンプさせる。
<銀騎士の刻む螺旋の印、貴方には見切れるかしら!?>
回転式突撃槍を前方に構えたエル・ゾンビが最大出力でハート・ブルーへ加速する。
<受けなさい! テンペスト・サイン!!>
エル・ゾンビの回転式突撃槍による渾身の一撃が巨大隠し腕にヒット。この一撃を始動技に、そのままハート・ブルーを
左肩パーツと背部の隠し腕が小刻みに震えると、閃光を放ちながら大爆発。
いい感じだ、乾! こっちもやってやるぜ!!
オレはプロフェシーNをハート・ブルーの頭部に移動させ、武器ゲージの溜まったハーヴェスターⅡで攻撃。
プロフェシーNを排除すべく胴体部から展開した隠し腕を鎌斬裂波の連射で破壊。ハーヴェスターⅡのエネルギーが切れたので、武器をフォトン・セイバーに切り替えて頭部にダメージを与えていく。威力はだいぶ落ちるけど、エネルギーが溜まるまでこれで我慢だ。
プロフェシーNとエル・ゾンビだけじゃない。他の生き残りギア達もハート・ブルーに攻撃を仕掛けていく。
オレ達の攻撃が、徐々にだけど、確実にハート・ブルーの耐久値を減らしていく。
<まだだっ!>
フロニキの声に応じて、ハート・ブルーの胸部装甲が展開する。
そこには、フロニキの本来の
キャップが
その一発が、大技後の隙をさらしていたエル・ゾンビに直撃する。
<くっ、まだよ!>
ダウンから回復したエル・ゾンビがハート・ブルーに向かって跳躍。空中ダッシュで接近して攻撃を仕掛けようとするが、フォトン・ランチャーとミサイル、キャップ本体のフォトン・ライフルによる波状攻撃で近づくことが出来ない。
両肩両腕と背部の巨大アームを破壊したとはいえ、まだまだ攻撃は激しい。
<もう、弾幕シューじゃないんだから! フォトン・ランチャーは
「おまけにボス仕様だけあって、弾が殆ど無制限で飛んでくるからな。笑うしかねーな」
<まさに、『死ぬがいい』ってヤツね>
ハート・ブルーがフォトン・ランチャーとミサイルで弾幕シューの発狂弾幕じみた攻撃を繰り返すのには意味がある。
エル・ゾンビの
対光学属性のカスタムでフォトン・ランチャーのダメージを軽減されても、続け様に実弾属性のミサイルを撃つことで、相手のカスタムを実質無効化して攻撃を通すことが出来る。ちなみに、相手が対実弾属性のカスタムをしていても同じ理屈で、この弾幕戦法が有効なのは説明不用だろう。
ついでに、対光学属性・実弾属性のカスタムしていた場合でも、ボス仕様の反則じみた弾数で強引に耐久値を持っていくことが出来ると言うオマケ付き。
何と言うか、最高に大人気ない戦法だ。
「でも、こうゆうのもラスボス感あっていいだろ!」
<まぁ、一理あるわね>
オレは左右のアームトリガーをリズミカルに連続クリック。フォトン・セイバーのフルコンを完走させ、ハート・ブルーの頭部を破壊。ヒナが耐久値を削ってくれたおかげで、思ったよりも早く潰すことが出来た。
これで、ハート・ブルーの残りパーツは胴体部と両足だけ。
オレと乾に続くかたちで、残存ギア達がハート・ブルーを取り囲み一斉射撃。青い巨大ギアの耐久値をガリガリと削っていく。
<フォトン・ライフル、バレル・オープン!>
フロニキの声に合わせて、キャップのフォトン・ライフルの銃身が伸び、中央で分割。続けて、キャップの胸部装甲が展開。ジェネレーターが露出する。そのまま、変形したフォトン・ライフルを露出したジェネレーターの接続部にコネクト。
<ライフルのジェネレーター接続を確認。フォトン・ライフル・バスター・モード、マキシマム・レベル……シュートッ!!>
ジェネレーターと直結したフォトン・ライフルが激烈な光を放つ。ハート・ブルーが、スラスターを噴かしてその巨体を横に振る。ジェネレーターと繋がったライフルの蒼い光の奔流が周囲の敵機を一気に薙ぎ払っていく。
オレと乾はギリかわせたけど、今の一撃でかなりのギアが撃墜された。
「正直、ゾクゾクするな、この緊張感」
<そうね、こうでなくちゃ嘘だわ>
<キミ達、逆境に強いね。プロ向きだよ。アタシのチームに来るかい?>
この状況でスカウトかよ。てか、やっぱりきたか溝呂木プロ。
「誘って貰えるのは光栄だけど、オレはプロゲーマーになる予定は今のとこないですよ?」
<そうね、わたしも遠慮しておきます。趣味を仕事にする気はないので>
<プロの前でその発言とはいい度胸だ。ますます気に入ったね!>
この人、何か面倒臭そうなのであまり気に入られたくないかなー。ヒナには悪いけど。
<来たか、溝呂木>
<アッキー、アンタはまた随分とごっついギアを持ち出してきたね!>
<バトロ大会の盛り上げ役には最適だろ? デカくて硬いのがラスボスさ。それで、お前はどうするんだ? こっちでラスボスの
<それも面白いそうだけど、今はその馬鹿デカいギアに一発ぶちかます方が気分かにゃー>
<そうか。だったらいいさ。全員まとめてお相手するよ!>
溝呂木プロの操る紅のギア・インフェルノが、ハート・ブルーの弾幕を巧みに回避しながら接近していく。ジャンプからのブーストダッシュで一気に間合いを詰める。
<
インフェルノの両肩のアーマーが切り離され、主力装備と思しき大型ハンマーにドッキング。持ち手を引き伸ばし、大型ハンマーをさらに巨大なものに変形させた。
<ギカンテイック・ハンマー、イグニッション!!>
溝呂木プロの掛け声と同時に、巨大化したハンマーがインフェルノの機体カラーと同じ深紅に燃え上がる。
そして、ヘッドセットから響くロックオンアラート……っておい!?
<あ、ゴメン。この攻撃、マルチロックオン対応だったわ。巻き込まれたくなかっから、しっかりかわすんだよー>
おいおいおいおい、マヂかよ!?
<バァァァァァァンッッッ・アウトォォォォォォォッッッッ!!!! 死ぬやぁぁぁっ、アッキィィィッッッ!!>
溝呂木プロの咆哮とともに、インフェルノのキガンティック・ハンマーが勢いよく降り下ろされる。
この人、本当に無茶苦茶かつフリーダムだなっ!
オレは慌てて、デュアルスティックを素早く後ろに倒す。バックステップでロックオンを切り、そのままブーストダッシュで後退。インフェルノのハンマーがハート・ブルーにヒットすると同時に撒き散らされた紅い光弾から、辛うじて逃れる。
ヤベェヤベェ、間一髪だった。今のプロフェシーNの耐久値であんな攻撃に巻き込まれたら、一瞬で消し炭になるっての。
<やらかしてくるわね、あのプロは。エル・ゾンビとわたしはここまでみたい。後はあんた一人で頑張りなさい>
インフェルノの攻撃からエル・ゾンビは逃げ切れなかったみたいだ。
今の一撃で残りの耐久値を全て持っていかれたか……。
「乾、お疲れ。言われなくてもそのつもりだから安心しろ」
<そうね、
乾の言葉と同時にメインモニターの中でエル・ゾンビが爆発する。
インフェルノの無差別広範囲攻撃で残存ギアはほぼ壊滅。
ステージに最期まで残ったのは、オレと溝呂木プロ、そしてフロニキのギアだけ。
フロニキのハート・ブルーがその巨体を激しく震わせる。そして、青い閃光を周囲に撒き散らしながら、轟音とともに大爆発。
インフェルの大技で、一気に残りパーツの耐久値を奪われたか。
だけど、フロニキとの決着はまだ付いていない。
ド派手な爆発エフェクトを切り裂いて現れたのは、ハート・ブルーに格納されていたフロニキの愛機キャプテン・スーパーマーケット。
まだ、こいつが残っている!
<さーて、アタシはイチ抜けた。あとは二人でやり合えばいいんじゃね?>
<へぇ、いいのかい?>
溝呂木プロの唐突な提案に、フロニキが意外そうな声で言う。
<アンタとの決着は別の
「お気遣い痛み入ります。でも、オレは負ける気はありませんよ?」
<本当、口の減らないキッズだね。誰かさんの若い頃を思い出すよ>
<ん、それは誰のことかな? 俺にはさっぱり分からんぞ>
<言ってなよ、アッキー>
『【
ゲーム終了間近を告げるアナウンスがヘッドセットから流れる。
さて、名残惜しいけど楽しい祭りの時間はあと少しみたいだ。
<溝呂木もああ言ってることだし、ここはサシで決着を付けよう、イブキ君!>
「そうさせて貰いましょう、フロニキ!」
キャプテン・スーパーマーケットの背部メイン・スラスターと腰部のサブ・スラスターが、蒼い閃光を爆発的に解き放つ。その激しい光に推されながら、キャップはプロフェシーNに向かって大加速。
フロニキの愛機キャプテン・スーパーマーケットは白・青・赤のトリコロールカラーとヒーローメカ然としたスタイリッシュなデザインがイカしたギアだ。フロニキはこのギアと一緒にオラクル・ギアの世界大会で準優勝した。そんな、世界的ライナーとギアのコンビにサシで挑めるチャンスなんてそうあるものじゃない。
オレはデュアルスティックを力一杯前方に倒しながら、ブーストトリガーを強く押し込む。
プロフェシーNの背中のスラスターが、機体のメインカラーと同じ鮮やかなオレンジ色の光を解放。ゲージが最大まで溜まったハーヴェスターⅡを構え、キャップ目掛けて吶喊する。
<イブキ君、これで終わりだっ!!>
キャップがライフルの銃口から伸びるフォトン・セイバーを構え、更に加速。その姿を一筋の蒼い流星へと変える。
<まだ終わる気はありませんっ!! プロフェシー……小瀬川伊吹、勝利を斬り拓くっ!!!>
オレはデュアルスティックとブーストトリガーを限界まで強く押し込み、プロフェシーを極限まで加速させた。
<もっとだ、プロフェシー!! オレと一緒に誰よりも、何よりも、強く、強く輝こうっ!!!>
どこまで明るく強い光を放つオレンジ色の流星と、全てを切り裂くほど研ぎ澄まされた蒼い流星が虚構の宇宙でぶつかり合った。
そして……。
※
『【
バトロ大会の終了を告げるアナウンスが聴こえる。オレは愛用のヘッドセットを外して深呼吸を一つ。
眼前のメインモニターに映し出されているのは、フロニキのキャップに撃墜されたプロフェシーNが電脳の宇宙で爆発するグラフィックス。
「お疲れ様。そして、有難うプロフェシー……」
オレはそう呟くとライナーピットから降り、仮想の戦場から現実のゲーセンに帰還した。
※
ライナーピットから降りたオレを出迎えたのは、バトロ大会参加者による万雷の拍手だった。
おいおい、何だよこれは。
「イブキ君、お疲れ様。ナイス・ファイトだったよ」
フロニキがそう言いながらオレの頭にぽんと手を置くと、そのまま犬でも撫でるようにかき回し始めた。
「このバトロ大会を開催して良かった。イブキ君のような強い子達と戦うことが出来たから」
フロニキがこれ以上はないぐらい満足げな笑顔で言う。
あれ。何か、照明が眩しいな。涙が滲んできたぞ……。
「伊吹ー!」
ぐ、ぐえ。苦しー。
ギャラリーから飛び出してきたヒナの野郎が、勢いよく抱き付いてくる。
お前、オレよりガタイいいだろ。支えられねーっての!
「うう、おれ、無茶苦茶感動したよー」
何でヒナが泣くんだよ。泣きそうなのはオレの方だったのに。
まぁ、おかげで恥ずかしい所を見せずに済んだけど。
乾と溝呂木プロがスマホをこっちに向けてシャッターを切りまくってるけど、とりあえず全力でスルーだ。
そんなこんなのうちに、フロニキの超バトロ大会は終了した。
動画配信の再生数はかなり伸びたみたいだし、何よりも、参加したライナー達の満足気な表情が、このイベントの成功を雄弁に物語っていた。
神Pはバトロ大会が終わると「いいものを見せて貰った」とだけ残して、アルバトロスの開発室に戻った。何だかんだで、多忙な人なんだろう。
「お疲れ様。小瀬川君」
「うん。宙埜さんもお疲れ様。……その格好は変装?」
オレに声をかけてきた宙埜さんは、体のラインが分かりづらいゆったりとした秋物コートに、ジーンズという格好だった。かぶっていた帽子を脱ぐと、結んだ髪の毛が肩にかかる。
「この参加人数なら、この格好で誤魔化せると思って」
「木を隠すなら森、ゲーマーを隠すならゲーム大会だね。見事に誤魔化されたよ」
さっきからずっとオレに抱き付いて離れないヒナを無理やり振りほどいて、透吾の方にパスしながら言う。
どうして宙埜さんがアクト・オブ・ゲーミングに居るのかヒナが訊きたそうにしてるけど、空気を読んでくれたのか、透吾と一緒に休憩スペースに向かっていった。
「風狼田さんとの勝負、熱くて良かった。星みたいにキラキラしてたよ」
宙埜さんにそう思って貰えたなら何よりだ。
乾が望んだとおりに――いや、本当はそれすら関係なく、オレは自分らしく自分の為に、ただオラクル・ギアを、このバトロ大会を楽しんだ。
それで、オレの頑張りとか熱さとか、そう言ったものが宙埜さんに届いて、少しでも楽しい気持ちになってくれたのなら、一瞬でも悲しいことを忘れることが出来たのなら、オレは嬉しい。
オラクル・ギアの新作が稼働するまでに達成するべきものとして掲げた三つの目標。
新型プロフェシーの開発とライバルであるシアンに勝ち越す。この二つは達成した。
でも、最後の一つ、バトロ大会で最後まで生き残るって目標は、フロニキとの一騎討ちに負けた地点で未達成。
と言うわけで。
結局、宙埜さんへの告白はお預けだ。
でも、後悔はない。オレは、精一杯、このゲームを楽しんだ。そしてそれが宙埜さんに伝わった。今はそれでいい。
さっきまで、オレとヒナをスマホのカメラ越しに邪な視線で見ていた乾は、こっそりこの場から脱け出そうとしていた中学生ぐらいの女の子二人の首根っこを掴んで、何やら説教を始めている。あの二人がカスタムサスペリアとドリームキャッチャーのライナーか。てか、バトロ開始前の溝呂木プロ突発サイン会で騒いでいた子と、それを嗜めていた子じゃないか。
「えーと、あの二人は……」
「
「オレもその意見に賛成」
「バトロ大会のエントリーで二人の名前を見かけたときに、あまり騒ぎ過ぎないように注意しておけば良かったんだけど、私も少し余裕がなくて……」
心の底から申し訳なさそうに宙埜さんが言う。
「オレは気にしてないから大丈夫だよ」
「……小瀬川君はやっぱり優しいね」
「こ、これぐらいっ、普通だからっ!」
うう、宙埜さんにそんな風に言われたどう反応すればいいか分からない。また、声が上擦ってるし。
反応に困ったオレは何となくフロアに視線を泳がせる。
休憩スペースの方では、乾が後輩二人に大絶賛スーパー説教タイム中だ。透吾がそれを面白そうに眺めている。
美佳ねぇはスタッフに指示を出しながらバトロ大会の片付け。それをフロニキと宗像さんが手伝う。溝呂木プロは二人をおちょくって遊んでいるみたいだ。その後ろを彼女の大ファンであるヒナがまるで飼い犬のように付いて回る。
バトロ大会の熱に浮かされたような狂騒が収まり、日常が戻ってくる。
平凡だけど、愛すべき騒々しい日々。そこにはいつもオラクル・ギアがある。
それは、毎日を騒がしく遊び生きるオレ達の対戦ゲームだ。
「……そう言えば、宙埜さんはスポーツ観戦が好きなんだよね。どんな種目が好きなの?」
オレは無言に耐え切れず、当たり障りのない話題をふってみた。
「スポーツ? F1は結構好きだけど、それぐらいだよ? ああ、でもゲームの対戦動画は大好き。暇さえあれば観てるかも……」
うーん、これはどうゆうことだ? 宙埜さんの趣味がスポーツ観戦てのは乾からの情報だ。ひょっとして、オレに本気を出させるための作り話だったのか……と考えた所で、ある可能性に思い至った。
スポーツはスポーツでもeスポーツ。
宙埜さんが好きなのは
乾にまんまと一杯食わされたってことか。
まぁ、いいさ。
理由なんて関係ない。オレは大好きなゲームを満足するまで遊び倒すだけだ。
さてと。
三つの目標を全て達成出来なかったオレに宙埜さんへ告白する資格は今のところない。それでも、一つだけ伝えたい言葉があった。
オレはなけなしの勇気を奮い立たせて、大好きな女の子にして最高のライバルである彼女に言った。
「宙埜さん……じゃなかった、シアン。オレはプロフェシーのギアライナー、小瀬川伊吹と言います。もし宜しければ、オレの
「はい、喜んで。こちらこそ、宜しくお願いします」
何事もまずは
これ、キホンだろ?
【GAME OVER & Thank you for reading this to the end.】
ライナーズアゲイン 砂山鉄史 @sygntu
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