僕の願いをかなえて

楠秋生

プロローグ

 空にはぽっかりお月さまが浮かんでいる。まんまるな月の中で兎が餅をついているのがよく見える。

 僕は一人で夜の森を歩いていた。

 都市伝説になっている、幽月邸を探して。

 

 その話を聞いたのは、小学校最後の夏休み。学校のキャンプに行った時だった。消灯時間はとっくに過ぎているのに、こっそり集まって雑談をしていたんだ。女子は恋バナ、男子は怪談を。そんな怪談話の中に紛れ込んだ都市伝説。それはこんな話だった。


 僕が住む町の北のはずれには、人があまり寄りつかない暗い森がある。その森の奥深くにひっそりと建つ幽月邸。満月の夜になるとその邸中の部屋の灯りがついて、どの部屋からかピアノの音が聞こえてくるという。切なく哀しい音色のそのピアノは、邸のあるじが弾いているらしい。その主のお眼鏡にかなえば願いをかなえてもらえるという。


 お眼鏡にかなうっていうのがどういうことなのかイマイチよくわからないんだけど、つまり気に入られたらいいってことなのかな。


 僕にはどうしてもかなえてもらいたい願いがあった。


 だからどんなことをしても、その主のお眼鏡にかなわなければならなかったんだ。

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