第11話 触手と思い

目が覚めた。

身体を起こして遮光カーテンの隙間に目をやる。

朝だ。

そして、昨晩のゆーまの口の感覚を思い出してしまい、枕に顔をうずめてじたばた。

やってしまったぁ。

どんな顔をしてゆーまと話せばいいのかわからない。

いつもよりゆっくりと顔を洗っても、朝食に手間をかけてもだめだった。

意を決してゆーまのいる水槽に近づいて、

「ご飯だ」

というとゆーまは丸まっていた体を伸ばして、こちらに顔を向けて、すぐにそむけた。

嫌われてもしょうがない。

突然、唇を奪ってしまったのだ。

「……ゆーま」

名を呼ぶと、ゆっくりとこちらに体を向けてくれた。

謝ろうと、口を動かした時だ。

ゆーまは水槽から勢いよく飛び出して、肩の上に飛び乗った。

私はどうすればいいのかわからず、動きを止めた。

ぴと、と右の頬に触手が触れる。

反射的に右をむくと、今度は唇に柔らかいものが触れた。

ゆーまの口だ。

すぐに彼は離れて肩の上でくねくね。

私はその場で固まって、しかし、目は白黒させていた。

これは、つまり、よかった、ということなのか。

いや、いいキスだと思ったが、そうではなくてだな。

「ゆーま……?」

名前を呼ぶとゆーまは小首をかしげた。

さすがにこの姿勢で彼を見るのは厳しいので、右肩に左手をよせて、手のひらに乗ってもらう。

顔に近づけると再び、ゆーまはキスをした。

今度は唇ではなく、頬に。

それで、難しく考えすぎていたのだと直感した。

息を吸いながら体の力を抜いた。

「ご飯にしよう」

くいくいと身体を縦に動かす彼の頭を撫でた。

テーブルについて、自分の分のトーストを食べつつ、ちぎったパンをゆーまに渡す。

触手で受け止めると、口の中に放り投げてから、もきゅもきゅと咀嚼している。

「ゆーま、ソーセージだ」

一口大にカットしたそれをひょい、と投げると身体を伸ばして、ぱく。

「いい感覚だな」

ゆーまはえへん、と胸を張った。

それにしたって、彼が来てから心のうねりが激しい。

些細なことで嬉しくなったり楽しくなったり、逆に不安になったり。

これを恋と言わずして何を恋というのか。

そんなことを考えつつ、フォークでソーセージをつつく。

見事に外れた。

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