第10話 触手と感情

のぼせたのはわかっていたから、冷蔵庫にあったスポーツドリンクを直飲みして、そのままベッドに倒れ込んだ。

水分をとったら、あとは体が冷めるのを待てばいい。

そんなことを考えていたのまでは覚えている。

そこで記憶がとぎれているのは、眠ってしまった、いや、気を失っていたからだろう。

目を覚ますとまず、天井が見えた。

そして、額には何かが乗っている感覚。

濡れタオルを乗せた覚えはない。

そっと、触れると額の上の何かはぴくっと動いて、

「それは、笑顔なのか?」

ゆーまが口をにっと開いているのが見えた。

目がないはずなのに私の顔をのぞき込んでくるのは面白い。

頭のあたりを撫でてやると気持ちよさそうに頭を押しつけてくる。

ゆーまの体温が普段より高いのは、私のことを冷やそうとしていたからか。

両手でそっとゆーまを抱えて体を起こす。

「ありがとう。もう、大丈夫だ」

手のひらの上でゆーまはやや小刻みに体をくねらせた。

ゆっくり立ち上がって、水槽の側まで歩いていく。

小さな体でも頑張っているのだな、と黒い背を見て思う。

水槽の前につくとゆーまは飛び込もうと体を水面に向けた。

体をつつくと、小首を傾げるように振り返った。

その仕草がいとおしくて、私は彼の口に自分の口を、唇を重ねていた。

ゆーまはその姿勢を数秒たっぷり維持してから、あわただしく水面に飛び込んだ。

水槽をのぞき込んで、

「おやすみなさい」

と言うとゆーまはいつになく素早い動きで体を縦に振った。

そして、砂の上にべたーっと平らになった。

その様子を見て私も自分の顔が赤くなっていることに気づいた。

これは、たぶん、のぼせた後遺症だ、と小声で言い聞かせて、浴室に向かう。

たっぷりかいてしまった汗を流したかった。

冷たいシャワーがとても心地よい。

しかし、熱は、体の奥にある熱は消えない。

私は、どうなってしまったというのか。

浴室から出てタオルで体をよく拭くと、奥にある熱がさらにわかる。

「はぁ」

鏡の前で息を吐き出してから吸う。

これでは、これではまるで、

「恋する乙女ではないか……」

せりふに対して鏡に映る自分はまんざらでもなさそうだった。

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