第五十六話 集いし者たち

 幸隆ゆきたか佐太夫さだゆう勘助かんすけ武田晴信たけだはるのぶから呼び出され躑躅ヶ崎館つつじがさきやかたに入っていった。そして、晴信の部屋に入ると赤備衆あかぞなえしゅうの三番隊隊長・原虎胤はらとらたねの姿があった。

 虎胤はアグラをかきながら、幸隆と佐太夫の顔を見て「貴様らも呼ばれたんですね。」と少し嫌そうな顔をした。

 佐太夫はお子様丸出しの元気な声で「オッス、それはこっちのセリフだぞ。暴言紳士。」と言い放つ。

 虎胤はイライラの最大級を顔に示し「……相変わらず。変なアダ名つけないでください。バカがうつります。」と佐太夫をイカツいマナザシでニラミつけた。

 佐太夫はウキウキした様子で「人のことをバカと言うな。俺は虎胤の意味わかんないところ好きなのに!!」と指を鼻にツッコミ、なにかを虎胤に飛ばした。

 虎胤は顔を真っ赤にして「ちょっと、今、なに飛ばしたんですか!?」と屈辱と照れが合わさったような大声をあげて立ち上がった。そして、佐太夫をにらんだ。

 佐太夫はニッコニコで「愛のこもった、ハナクソだ。」と堂々と言った。

 虎胤はトマト程に顔を真っ赤にさせ「やること、なすこそバカじゃないですか。保護者の幸隆は、ちゃんとこのバカをシツケてください。」と幸隆に頼んだ。

 これに対して幸隆は「ボケ、こいつの、この性格が治る訳ねぇだろ。」と平然と答えた。

 そんななか、勘助が足音を察知し「晴信様がもうすぐ来ますぞぃ。」と皆に知らせた。

 フスマがガラッと開き武田晴信が顔を覗かせると幸隆は「やっときたかよ。晴信さ、さささささ、ささ」と晴信様を頑張って言おうとするのであった。

 晴信は思わず「……メンドウだ、晴信でいい。」と言う。

 すると、勘助が勢いよく「そんじゃ、晴信!!要件はなんぞぃ!!」と大声をあげた。

 晴信は破壊的に恐ろしい顔をして「……勘助、次、晴信言ったらネジリ殺すぞ。」と勘助を威嚇する。

 次の瞬間、勘助の恐怖で極限にまで引きつった笑顔で「はい。わかったぞぃ。晴信様」と土下座した。

 晴信は土下座する勘助を無視して「短刀直入に言うと諏訪にある板垣の領土が小笠原長時に狙われている。」と要件を言うのであった。

 佐太夫は小動物のように頭をかしげて「小笠原長時って誰?」と皆に尋ねた。

 勘助はヤレヤレという表情をすると「無知な、佐太夫のために、アッシが教えるぞぃ。小笠原長時は信濃の守護大名の家系で、代々信濃を支配してた一族の現当主だぞぃ。まぁ、今は没落してしまって、信濃の全域を治めるどころか、村上に遅れをとる有り様だぞぃ。」と説明をした。

 晴信は、話を切りかえるように目線を幸隆にむけて「ところで、幸隆よ、貴様の軍旗を作りたいのだが?どのような旗がいい??」と尋ねる

 幸隆は自身が考えもよらない提案に「俺の旗?」とぼうぜんとした。

 晴信は続けて「今回の戦から、貴様に部隊を正式に預けることにしたからな。」と言った。


 「……」


 晴信は幸隆に近寄った上で右手で彼の肩をたたき「考えておいてくれ。あと板垣の領土の諏訪姫すわひめにあったらヨロシクな」とブサイクに笑った。

 幸隆は頭を傾けると「諏訪姫?誰だ、そりゃ??」と晴信に尋ねる。

 晴信はニッコリとけしてかわいくない笑顔をすると「俺の女だ。」と言った。

 幸隆は口をゆがませて「その顔で女いたのかよ」とクスクスと笑った。

 

 「……ぬかせ。絶対に手だすなよ」

 

 「あたりめぇだろ」


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