第五十四話 帰ってきた源五郎

 今日の昼間、板垣いたがきの人質になっていた幸隆ゆきたかの子供、赤子の源五郎げんごろう真田さなだ屋敷に戻ってくる。真田幸隆とキョウ、佐太夫さだゆうが玄関の前で待っていると、山本勘助やまもとかんすけが源五郎を抱きかかえながら、彼らの前に現れた。

 勘助はブサイクな顔をクチャクチャにして笑うと「源五郎を届けに来たぞぃ。」と幸隆に源五郎を渡そうとした。

 幸隆は、赤子を受け取ると「ブサイクからイケメンに交代でちゅね。ベロベロバー!!」といってイタイ父親全開で我が子をあやした。


 うえーーーーーん


源五郎は涙の大洪水をだすと。勘助はこれを見よがしに「アッシの顔を見ても泣かなかったのに、赤子は心のけがれを敏感に察するというぞぃ。きっと幸隆殿の心は汚れきってるぞぃ。腐っているぞぃ。」と幸隆を右人差し指をさして大爆笑した。

 幸隆の妻、キョウも「……本当ね。くくくく、はっははは」と幸隆も出会って以来、初めて見るだろう大爆笑を披露した。

 そこへ佐太夫が源五郎の顔をのぞいたのだった。源五郎は今までにないハツラツとした太陽のような笑顔になり、佐太夫は思わず嬉しさがこみ上げてきて「笑ってくれた!!源五郎。あざす。」とお礼を言うのであった。

 今度は、幸隆が源五郎に顔を見せにいった。瞬間に


うえええええええええーーーーーん


暴風雨がきたかと思う程の大号泣するのであった。

 幸隆はやけになって、源五郎をジロジロと凝視した。しかし、これを見かねたキョウは幸隆のケツを蹴飛ばし一言「……源五郎抱きたかったら、心の汚れ浄化してくださいね。……バッチぃ。」と言うのであった。

 幸隆は「俺は汚れてねぇ!!」と寂しそうな顔をして叫んだ。

 キョウは恐ろしい化け猫のような顔をしたあと「……失せろ、汚物が。」とトドメの一言をおみまいした。

 幸隆は、静かに自分の寝床へむかった。こうして、源五郎は再び太陽のような笑顔をとりもどしたのだった。

 

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