第五十三話 板垣の葬式

板垣いたがきがくたばったぜ!!」


「やりーー!!」


「うたげだ!!」


 板垣の葬式はドンチャン騒ぎであった。葬式というより宴会に近かった。弔辞担当の幸隆は、板垣の遺影の横に立つと嘘泣きをして「今まで、ありがとう。精々地獄落ちてくれ、ボケ野郎。」と言って飛び跳ねていた。いつも仏頂面の武田晴信も、それを間近で見ながらクスッと笑っていた。


「邪魔するよ!!」


 突如、葬式会場のフスマが開くと赤備衆あかぞなえしゅうの大将、飯富虎昌おぶとらまさが怒りに震えた様子で入ってきた。 虎昌は眉間にシワを寄せながら「甘利あまりが死んだんだってな。なのにお前らときたらお祭り騒ぎかよ!!」と言い放ったのをきっかけに、会場が一気に重たい雰囲気に包まれた。

 その押し潰されそうな雰囲気の中「……そう、奴は死んだ。」と虎昌に晴信は短いながら重い言葉を返した。

 虎昌は猛虎も泣いて逃げるほどの獰猛な目で「誰に殺された?」と晴信に尋ねる。

 晴信は目をつぶって「矢沢頼綱やざわよりつなという武者だ」とサラリと返答した。

 虎昌はギシギシと歯ぎしりをしたあと「その下等な武者は、俺様が殺す。必ずな。そんで、あの世で甘利に土下座させてやるよ。」と言い、遠い目をして、どこかをニラみつけた。


 パチパチ 


 板垣の遺影前に立っていた幸隆は突如拍手をしたあと、虎昌をニコリと見て「ガチで御立派な大将ってかんじだか。だかよ、矢沢頼綱、俺のボケな弟をボコして、土下座さすのは俺がやりてぇことだ。」と言った。

 虎昌は目を恐怖の怪物のように血バラしながら首を少し傾けると「さっきから、お前は俺様に、何が言いたいんだよ?」と幸隆に質問した。

 すると、幸隆は真夏のクソガキのような笑顔をしたあと「どっちが先に奴を殺せるか競争しようぜ。虎昌。」と飯富虎昌に、まさに宣戦布告するのであった。

 虎昌は一瞬、考え込むと「イイね。受けて立ってやるよ。」と言って、闘志を目にたぎらせながら、ニコリと笑うのであった。

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