第五十話 戦いの前日
ある日の昼下がり、
幸隆は板垣を形だけでも喜ばせるために「そんな訳ありません!!」とキッパリ断言いて、ヨイショするのであった。
板垣は嬉しいことがあったネズミのようにニヤリと笑い「ヒョヒョ、だよね。アチキの軍は最強なのだから、当然か。そういえば、ソチ村上に惨敗したらしいの?」と幸隆に嫌味のように尋ねた。
「……そうです。」
板垣はギザギザのヒゲを三回も、念入りに触ったあと「ソチのような立ち位置の者が村上に挑むから、そうなるのだ。早く、精進して、アチキのところまで来るのだ。」と手招きするように手をクイクイとさせた。
「……はい」
このあと幸隆は震えながら自分の屋敷に帰っていったことは言うまでもない。
とこころかわって、ここは信濃
村上の
その場にいた幸隆の弟の頼綱が、大嫌いな兄の顔を思い浮かべると義清が答える前に「アンタ、ナメてんのか?弱いに決まってる!!」と
鹿右衛門は嫌そうにタメ息を吐くと「君には聞いてないよ。頼綱。」とタンタン言うのであった。
頼綱は、鹿右衛門の態度に怒り狂った猛獣のように「うるさい。あの武士の恥がいるんだ、弱すぎてクソに決まってるだろ。」と騒ぎ立てた。
鹿右衛門は、そんな頼綱をニコニコと冷静に見ながら「武士の恥って君の兄さんだっけ?」と尋ねるのであった。
頼綱は血走った目で「あんなの兄貴じゃない!!」と鹿右衛門をスゴイ目力でニラミつける。
「そう怒り狂うな頼綱。弱く見えるぞ。」
突然に義清がぼそりと、そう言うと「スミマセン、義清様。」と頼綱はシュンとして、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ただ次の武田との戦い、お前には期待してるぞ。」
義清の、その発言が嬉しかったのか頼綱な目に力を充満させて「わかりました。敵将の首を必ずあげてみせます。武士の恥と武田のクソに目にものみせてやります。」と勢いよく握り拳を天井にかざした。
そのあとで鹿右衛門はヘラヘラ笑い「へー。童貞のくせに頼もしいね。」と床を叩いた。
頼綱は視線を銃口を向けるように鹿右衛門を見て「だから、俺は童貞じゃない。」と言って、イカクのためにギシギシと歯を鳴らした。
「本当は?」
「童貞だ。……て、な訳ないだろ。」
「へー、そう。」
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