第四十九話 煽って、煽って!!

 その日の深夜のことだった。十兵衛は自分の家に知り合いを集めた。しかも、彼らはそれぞれ、一体の村々の有力者で八名ほどだ。

 十兵衛たちは、囲炉裏の周囲をかこい座った。一人の村の有力者が「おい、十兵衛。隣の奴は誰だ?」と幸隆の存在に気づくのであった。

 幸隆は、ドヤ顔を決めたあと立ち上がり「俺の名前は真田幸隆。板垣信方の家来だ。」と言って、また座るのであった。

 村々の有力者たちは「え!?」と言って、そのあとで、まるで時が止まったかのように無言になった。

 幸隆はクスッと笑ったあと「嘘だ、ボケ!!」と大声を張り上げた。

 幸隆が周囲をイラつかせたあと、長髪の有力者は「なんだ、コイツ。嘘ついてんじゃねぇ!!」ノドチンコが壊れるのではと思うほどの大声をあげた。

 それから、幸隆はニコッと笑ったあと「本当は武田晴信の家来だ。」と言うのであった。

 老婆の有力者が「……それがどうしたの?」と幸隆のニヤケヅラを粉砕するように鋭い声で言った。

 その反応に幸隆は実に想定内という顔をして「知ってるんだぜ。テメェらは、アイツの親父に恩があんだろ。」とドヤリ、ドヤリと言った。

 そこでまさかの発言が返ってくることになる。ドヤる幸隆に長髪の有力者が「恩は受けてねぇ。」と堂々とキッパリと発言したのだった。

 幸隆は動揺しハ!?と表情を浮かべると「ボケ。テメェら聞いた話じゃ武田信虎のこと慕ってんじゃねぇのかよ?」と村々の有力者に尋ねた。

 有力者の老婆は、不意になにかを思いだしたかのうようにクスリと笑い「恩は、ねぇさ。アイツといった鹿狩り、アイツと食った飯は格別に美味かった。国主が普通、俺たち、農民を普通に扱うのか?そんな信虎を私は好きだった。」と最後には満面の笑みとなっていた。

 幸隆は、恐る恐る「……板垣は好きか?」と老婆に尋ねた。

 老婆は満面の笑みから露骨に顔色を悪くさせ「嫌いだね、顔も性格も、ヒゲもカッコ悪い、生理的に無理だ。板垣は年貢の取り立てを厳しくしたり、弓矢の試し撃ちに村人をつかったこともあった。それを全部、信虎のせいにしたんだ。実際に、若い衆は信虎のことを暴君だったと皆思ってる。」と拳を強く握るのであった。

 すると、どいうことか幸隆は「いいねぇ。」と言って偉そうな顔をした。

 老婆は顔を火炎のように真っ赤にすると「あ。なんだ、アンタおちょくってんのかい!!」と、周囲が驚くほどの速さで、立ち上がり、短刀を幸隆に投げつける。

 幸隆は、即座に堂々とそれを避けて「今から、俺はテメェらに褒美をやる。」と自信満々のイキリ顔で言うのであった。


「褒美???」


幸隆は周囲を煽るかごとく「信虎の仇とりたいんだろ?」と村々の有力者たちに尋ねた。

 丸刈りの有力者は「なんだ、板垣を倒すってことか?」と神妙な面持ちで幸隆に聞いた。

 幸隆はこれで口から火をはいたら、いよいよ地獄の化け物だぞという顔をして「そんか生優しいもんじゃねぇよ。ブッ殺そうぜ。無惨に、より惨めに。ゾクゾクするだろ!!」と狂ったように大声をあげた。

 隣の十兵衛は「アンタよく見たら、人相悪いな。」と引き気味の顔ながら言った。

 すると、幸隆はなぜか嬉しそうに「うるせぇ、ボケ。」と言うのであった。

 有力者たちは「どうしたら、いい?」と口々に幸隆に尋ねた。


 幸隆はまるで悪役大将のような笑い方をしたあと、こう言った。


「次の村上との戦いで、テメェらは、その場でじっとしてろ。それだけだ。そんでもってこれをできるだけ、多くの村人に伝えろ。いいな、ボケ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る