第六章 真説・上田原の戦い

第四十六話 事件発生

 1547年。この日、戦国の世に一人の男児が産まれることになった。名は真田源五郎さなだげんごろう。のちに天下の徳川軍を二度も破ることになる赤子は真田昌幸さなだまさゆきの名で後世に知られることとなる。


 赤子が産まれるやいなや、真田屋敷の出産が行われた部屋で産後の疲れで寝込むキョウに幸隆ゆきたかは「よくやった!!」と激励すると、源五郎、のちの真田昌幸を抱きかかえた。

 幸隆は、そのあとで屋敷の外の道を「るんるん」と口ずさみながら歩いていた。

 すると、道の横で草のところに、たまたま立っていた虎胤とらたねが、その光景を見て「キモいですね」とガチで苦笑いをするのだった。

 恥ずかしいところを見られた幸隆は「なんだ、虎胤」と言い、顔を真っかにさせた。

 そして、虎胤は幸隆に近づきながら真面目な顔を崩さず「その歳でルンルンはないですよ。」と言った。

 幸隆はなおも照れ続け「うるせぇよ」と言うのであった。

 そんなとき、佐太夫さだゆうが「みんな、オッス。大変だ!!」と幸隆たちのもとへ息切れをしながら走り込んできた。

 虎胤は佐太夫を見たあとタメ息を吐き「貴様は相変わらず騒々しいですね」と言った。

 まだ状況が掴めずにいる幸隆は佐太夫に「どうした?」と尋ねるのであった。

 佐太夫はゼェゼェと息を吐いたあと「幸隆のところの三男坊がさらわれたぞ」と声を震わせて言った。

 幸隆は驚いて神妙な面持ちで「なんだと!! キョウは大丈夫か!?」と尋ねる。

 佐太夫は「キョウは大丈夫だぞ。」と答えた。

 そして、矢継ぎ早に幸隆は「誰に、さらわれたんだ!?」と尋ねる。

 佐太夫は「子をさらった兵士が板垣様に報告だって言ってたらしいぞ。きっと、板垣って奴の仕業だ。」と返した。

 幸隆は「チキショー、こいうときは、どうすればいいんだ!?」と滅多に見れない弱気な表情をした。

 そして、幸隆の表情をうけて「晴信様に相談するしかないんじゃないか??」と佐太夫は笑顔で言った。

 幸隆は発狂して「あ!?なんで、あのボケな大将に相談しなきゃなんねぇんだよ。」と大声を荒げた。

 虎胤は幸隆を凝視したあと「なにいってるんですか貴様は!!大将だからに決まってますよ。」とドドーンと正論を言い放った。

 幸隆は目を白目にして「俺が、アンナ奴に頭を下げろってかザケンなよ。」と言葉に力を込めた。

 虎胤はまたも幸隆を凝視して「貴様は自分の息子より、己の見栄を優先させるのですね。見損ないましたよ。」と肩を落とした。

 佐太夫も心配そうな顔で「悪いこと言わねぇよ。今は、そんな見栄捨てることが大事だぞ。」と言った。

 すると、幸隆は顔を真っ赤にして「わかった。……佐太夫、テメェがいけ。」と佐太夫の顔を指でさした。

 佐太夫は、その発言に驚き「俺がいくのか???」と今世紀最大のキョトン顔をした。

 幸隆は「そうだ」と言って、何故か途方もなく威張った顔をした。 

 虎胤も、驚きのあまり冷や汗をたれながしながら「正気なのですか、貴様は??」と言った。

 幸隆は完全に開き直った顔で「俺は武田晴信が嫌いだ。マジで。アンナ奴に頭下げるくらいなら死んだほうがいい!!」と堂々と言うのであった。

 虎胤は思わず「じゃあ、死んでください。」と言ってしまった。

 その瞬間だった。幸隆はなにかをひらめいた顔をして「わかった。威張りながら頼めばいいんだ。」と意味不明な発言をするのであった。

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