第四十二話 ......期待を裏切ったはずなのに!?

幸隆は意気揚々と躑躅ヶ崎館に乗り込み、晴信の部屋までズンズンと進んでいった。部屋のフスマをバカみたいに勢いよく開け、目視で晴信を捉えると、これまた勢いよくドヤ顔を決めて「手柄、あげてやったぜ。ボケが。」と幸隆は言い放った。

 晴信は、辺りにそよ風が吹いたかと誤解するほどに、さらりと「……よかったな。」と言った。

 思ったほど動揺がない晴信にイライラを覚えた幸隆は「見事、テメェの期待を裏切った俺様に、なんか言うことあるんじゃないか?目つきの悪い肥満野郎!?」と晴信をののしった。

 晴信はなおも泰然とした様子で「……ぬかせ、目つきが悪いのはお互い様だ。」と言い返すのであった。

 すると、部屋にもう一人の男が入ってきた。男はヒョロヒョロしていて、目はタレ目、口と鼻の間に特徴的なギザギザヒゲを伸ばしていた。その男が晴信に一言「今回の手柄は、どこのどいつだ??」と、海野幸義を彷彿させるようなムカつく喋り方をして晴信に尋ねた。

 幸隆が晴信が発言す前に「誰って、俺だ!!」と大声をあげた。

 すると、その男は下品に笑うと「ウヒョヒョ。じゃあ、その手柄。アチキによこすのだ。」と言うのであった。

 その発言にあっけにとられて、幸隆は佐太夫さながらキョトン顔で「はぁ!?」と言った。

 その男は顔を晴信のほうにクルリと向けると「いいだろ、晴信。」とニッコリと笑いながら尋ねた。

 晴信は感情のこもってない顔で「勝手にしてくれ、板垣。」と棒読みの言葉を発っすのであった。

 呆然とする幸隆は、一転して「おい、テメェ、ボケかますな。なんだ、今のやりとりは」と顔を真っ赤にして子供のようにジタバタした。

 『パチ』晴信は指パッチンをすると一言「つまみだせ」と声を発した。その途端晴信の後ろのフスマがガラッと開き、力士が6人ほど現れた。力士は駆け足で幸隆のほうへむかう。

 

  「近寄るなデブ、やめろ。」


力士たちはあっという間に幸隆をかつぐと躑躅ヶ崎館の外へ運んだうえで、門の外へ放り投げた。倒れ込む幸隆はある捨てセリフを吐いた。

 

 「みっともねぇ大将だな、ボケが。切腹して果てろ!!ボケ!!」


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