第三十八話 脱獄

数日後


「......幸隆ゆきたかが生きてる。」


「キョウ!?これは夢か???」


「夢じゃないですよ。」


「......!?」


 幸隆は突如、オリの中に出現した、眼の前のキョウと業正に驚き「業正なりまさ様!!。なんでここにいるんだよ!?。」と叫んだ。

 業正はニッコリと笑い慈悲深い声で「君たちを、この牢獄から出すためです。」と言った。

 幸隆は、嬉しそうに、慌てて「佐太夫さだゆう、目を覚ませ!!俺たちに生きて、ここを出れるぞ」と言って寝ている佐太夫を叩き起こした。

 佐太夫は目を覚ますと業正とキョウを見て「うぉおおお!!久しぶりだな!!!」と興奮した様子で狂うように大声をあげた。

 そのあとで幸隆は思い出したかのように「そういえば、俺のガキは?」と自身の息子の心配をするのであった。

 すると、キョウは不器用に笑い「......源太たちは、もう甲斐にいるわ。業正様が全部手引きしてくれたの。」と答えたのだ。

 幸隆は「マジで。てか業正様、なんで、俺が甲斐へ行こうとしてたこと知ってたか!?」と言って、業正を凝視した。

 業正は幸隆を見つけ返すと、高笑いをして「そうですよ。だって棟綱の話を聞いて、君を投獄させたのは僕ですもん。」と衝撃発言をした。

 まさかの発言に「えぇぇえええええ!?」と佐太夫が幸隆よりも先に驚いた。それが原因で幸隆が驚けなかったことは言うまでもない。

 そして、業正は再度ニッコリ笑うと「幸隆君、最初に会ったときは僕は君を殺そうとした。でも、殺さなかった。しかも、今回は甲斐へ逃がそうとしてる。この理由はなんでかわかりますか?」と幸隆に尋ねた。

 

 「......」

 

 幸隆の沈黙に業正はヤレヤレという顔をしたあと「まさか、見当もつかないとはね。僕は君と同じで血が苦手なんです。だから、僕は君をほっとけないんですよ。」と言った。

 幸隆は、まるで漫画のように驚いた顔をしたあと「それ、マジで!?あと、関東管領かんとうかんれいに尽くす理由ってなんなんすか?なして、あのポンコツと仲良くするんすか???」と、ド直球の質問を業正に浴びせた。


 業正は、少し目線を上にすると「昨日、関東管領こと上杉憲政うえすぎのりまさ様は八分ノ一ほどの兵力しかない北条軍に負けました。準備を怠らなければ、必ず勝てたのに。バカなお方だ。そんな人についていこうとしている僕は、もっとバカです。僕は学問が誰よりもできていました。でも、幼い頃は血が怖いというだけで周囲にバカにされてました。そんなとき僕に優しくしてくれたのが現・関東管領の上杉憲政でした。」としみじみと言った。


 幸隆はそんな業正をマジマジと見ながら「尽くす人を間違えたましたっすね。」と言った。


 業正は、そんな幸隆をちらりと見ると「甲斐かいの現国主の武田晴信たけだはるのぶは、尽くすにあたいすると思うんですか?」と尋ねた。

 

 幸隆は途端に凛々しい顔になり「わからねぇ。でも、あの見るからにヘタレそうな関東管領よりはマシだろ。なんせ、俺の恩人、平賀源心ひらがげんしんを討ち取った男だからな。」とはにかんだ。

 

 業正はニッコリと笑い「それは失礼な男ですね。そして、期待しています。キョウ君、佐太夫君。この真田幸隆をよろしく頼みます。」と佐太夫とキョウに頭を下げた。


 業正に別れを告げると幸隆たち一行は森の中へ入り上野の国境までむかい、幸隆は「ここまできたら案内人がいるらしいが。」とキョロキョロしながら案内人を探した。

 大木の横に武田方の忍び千代女ちよめが幸隆、一行を待ちわびていた。そして、彼女はおもむろに前へでて「佐太夫、久しぶり。」と言うのであった。

 佐太夫も前へ出て「千夜女、キレイになったな。」と言って笑った。

 千代女は帆を赤らめて「佐太夫もカッコよくなったね。」と言うのであった。

 キョウは、それを遠目で見て「......出会った頃の私たちみたい。」と苦笑いをした。

 それを受けた幸隆は真顔で「知らず、知らずのうちに扱いが雑になっていくのが夫婦だ。俺がワルい訳じゃないぞボケ。」と言うのであった。

 そんな中、千代女は爽やかな笑顔で「皆!!ついてきて、甲斐の道はこっち。」とハツラツと声をあげた。



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