第三十七話 投獄

 トラが景持かげもちを連れて越後に戻ってしばらくたって幸隆ゆきたか海野棟綱うんのむねつなと一緒に関東管領かんとうかんれい·上杉憲政うえすぎのりまさと謁見した。ちなみに、このときの幸隆がもった上杉憲政の印象は「言ってることバカすぎて頭に言葉が入ってこねぇ。」であった結果、幸隆の中で関東管領を見限り、甲斐かい武田たけだにくみすることが決定するにいたった。

 そして、幸隆は一緒に廊下を歩いていた棟綱に「お話があります。関東管領を見限りませんか?」と突然、自分の思いをつげた。 

 突然の幸隆の申し出に感情的になった棟綱は「オヌシ、自分が何を言ってるかわかってるの!!ワシらをかくまってくれてる恩を忘れたか!!!」と激怒した。


「だって関東管領は頼りにならないでしょ」


「そんなこと言うもんじゃないの!!」


「俺は本気ですよ!!関東管領は育ちがいいだけのミジンコ頭脳!!!人格破綻者!!!出来損ないのカス!!!見切りをつけない理由なんてねぇよ!!!!わかれよ海野ボケ綱樣よ!!」


そして、次の日。


「幸隆、おはよう!!」


 幸隆は驚いた。なぜなら目の前に投獄されてるはずの相棒がいたからだ。幸隆は一瞬、考え込んだ。でも、答えはでなかったため、彼は佐太夫さだゆつに「ここどこ?マジでわかんねぇ......」と聞くのであった。

 佐太夫は幸隆と会えてよほど嬉しかったのか歯グキをむき出しにしてニコニコに笑い「元気だせよ。幸隆!!ここは牢獄だ!!!地面がジメジメしてるし、外が見えないし、ゴキブリもいるし、最悪の環境だ!!」と言い放った。

 幸隆は透かした顔で「寝言は寝ていえ。」と、その場でぐっすり寝てしまったのだった。


 次の日。


「幸隆、おはよう!!」


 目を覚ました幸隆は寝起きとは思えないほど、しっかりとした口調で「おい、佐太夫。ここはどこだ。」と尋ねる。

 すると、佐太夫は真顔で「......ここは牢獄だ。元気だせよ。見てみろよ、あの鉄格子がその証拠だ。あと先輩の助言だ。看守とは仲良くしておいたほうがいいぞ飯イッパイくれるしな。」と幸隆の肩を叩いた。

 幸隆は佐太夫の手を一瞬で払うと「元気がでるか、ボケ!!なんで、俺が投獄されなきゃいけねぇんだよ。囚人に先輩もクソもねぇだろ、ボケ。一体、なんで俺はここにいんだ!!」と状況も掴めぬまま、騒ぎたてた。

 佐太夫は得意のキョトン顔を披露して「なんで?俺が知るわけないだろ???」と言うのであった。

 幸隆は、しばらく黙ったあと、話をそらし「......てめぇ、よく見たら毛むくじゃらになってるな。」と佐太夫に尋ねた。

 佐太夫は、その質問を華麗に流すと「幸隆のことだから、関東管領の悪口を誰かに言ったんじゃないの」と名推理を披露した。


「そういえば、棟綱樣に言ったな。......寝てる間に拉致られたか。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る