第三十五話 密談

 こののち武田たけだ諏訪すわを攻めに入り、これを滅ぼす。このゴタゴタに乗じて、村上義清むらかみよしきよは、かつて幸隆ゆきたかたちの本拠の小県ちいさがたのほぼ全域を支配下においた。


幸隆は布団の中で「......ボケが、奪還するどころか義清のヤツに、小県の全部を奪われちまったぜ。佐太夫が関東管領をぶん殴って、投獄になってから、わりと日数がたっちまったけど。アイツは生きてんのか?」とふと佐太夫さだゆうのことを考えた。


 「佐太夫が気になるか?」


 幸隆は突然聞こえた天の声に「滅茶苦茶、気になる。......て、テメェは誰だ!!ボケ!!」と果敢にもツッコミを入れた。


 「佐太夫の元カノとでも言っておくか。」


 空耳だと思っていた天の声から返事がきて途方もなく驚く幸隆は「イヤ、色々意味わかんねぇけど。テメェは誰?ただのヤバい奴か?。佐太夫は生きてるのか?」と慌ててふためき、未だ姿を見せない佐太夫の元カノに尋ねた。

 元カノは少し笑ったように「喜べ、佐太夫は生きてるぞ。女の子にヤバい奴は失礼だな。アナタ、きっとモテないでしょ。」と言ったが、自分の素性は一切幸隆に教えようとはしなかった。

 幸隆は「じゃあ、一安心だ。ちゃんと最愛の妻がいるから安心してくれ。」と言うと、再び寝ようとするのであった。

 次の瞬間、佐太夫の元カノは「でも佐太夫は、このままだと処刑される。」と衝撃発言をする。

 幸隆はドデカイ鐘の音でも聞いたかのように布団から飛び起き「マジで!???」と佐太夫の元カノに詰め寄るように大声をあげた。

 そして、元カノは続ける「でも、佐太夫を助ける方法が一つある。」と。

 幸隆は立ち上がった状態で「なに!?教えろ、ボケ!!。あー、別に姿は見せなくていいぞ。テメェはきっと人見知りで不細工なんだからな。」と姿を見せない佐太夫の元カノに失礼なことを連発しながら尋ねた。

 そして、佐太夫の元カノは衝撃の提案をする。それは「関東管領を捨てて、武田に寝返れ。」というものであった。

 幸隆はハアという顔をすると「なんだと。てか、テメェ、マジで何者だ!?イイ加減、姿を見せろ!!!不細工な猪顔拝んでやるよ!!」と頭にキーンと響くような大声をあげるのであった。

 すると、幸隆の部屋は煙まみれになり、それが突如消えたあと、幸隆の眼の前に一人の女が立っていた。その女は「私は武田方の忍びの者。望月千代女もちづきちよめ。さっきからアナタ、失礼。」と名乗り、少しムッとした顔をした。

 幸隆は打って変わって、小さな声に変わり「なぜ、俺を武田方に誘う?佐太夫の元カノっていうから野生の猪に育てられてそうな、いかにもヤバそうな女かと思ったぜ。ブスではないな。中の上って感じだな」と色々と、かなり失礼な幸隆は千代女に誘う理由を聞いた。

 千代女は怒りたい気持ちをおさえ、真顔を保ちながら「武田は小県を含む、信濃しなのの全部を自分の領土にしたいと思ってるの。そのためには信濃の案内人が必要だと考えてるわ。成功したら小県をあげるよ。」と実直に答えた。

 

 「俺は戦で一度も勝ったことねぇのにいいのか?」


「何をおっしゃい、見事に戸石城を落としたじゃないですか。......返事は二年待つとします。」


「その二年ってどういう数字だ。」


「鷲塚佐太夫が処刑されるのが二年後。」


「俺とアイツは運命共同体。わかったぜ。」


「イイ返事待ってる、野蛮人さん。」


 この捨てゼリフのあと、また煙が巻き起こり、望月千代女は姿を消した。


 そして、そのあとだった。幸隆は腹を抱えて「はぁああああああ!!!佐太夫の元カノに野蛮人言われた。ボケ程に笑いが止まらねぇーぞ!!」と布ん団の上を散々に笑い転げるのであった。その直後、天井があき、大量の水が幸隆めがけて降り注いだ。

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