第四章 脱出

第三十四話 リベンジ????

 村上むらかみと同盟を結び、一緒に小県ちいさがたを攻めた武田たけだ家では謀反が起こり、当主武田信虎たけだのぶとらは失脚。これを契機に関東管領かんとうかんれいは再び村上討伐の軍を興すことになる。


 佐太夫さだゆう箕輪城みのわじょうの廊下を勢いよく走り、幸隆ゆきたかが眠る寝室の扉を勢いよく開けると、目を覚ませと言わんばかりに「関東管領の上杉憲政うえうすぎのりまさ様が直々に村上討伐へのりだすらしいぞ。実は俺も、その軍に呼ばれてるんだ。お前はどうなんだ?」と爆音の鐘のように叫んだ。

 幸隆は布団から上半身だけでた状態で「ボケ、あいにく俺は呼ばれてねぇ。」と寝起き全開の声で答えた。

 佐太夫は「えっ。」と表情を曇らせると「関東管領もケチだな。」とシュンとして言ったのだった。

 幸隆は布団で顔を隠すと「この前の大敗の責任は俺にあるからな。仕方ねぇよ。俺のかわりに村上義清の首とってくれよ。」と言って、再び眠りについた。

 佐太夫はそれをうけて「当たりまえだ!!」と元気よくニコニコで返答した。

 その瞬間。幸隆は布団の横にある柱を思いっきり殴りつけ、飛び起き、立ち上がると、ジタバタして「なんかムカつく、やっぱり取り消し。関東管領、いつかボッコボコにしてやる。あのボケ!!!なんで俺を呼ばねぇんだ!!そして、右手が滅茶苦茶いてぇー!!」と目つきのワルイ目をさらに目つきを悪くして叫ぶのであった。ちなみに、これがきっかけで幸隆は中指と人差し指を骨折してしまった。......残念。


 数日後、佐太夫は村上討伐軍の兵士として騎馬にまたがり行軍していた。軍が進むなか彼は、はやる気持ちを抑えられず突然「早く、義清倒してぇ!!」と叫んでしまった。

 すると、横にいた同世代の武士である、嫉妬深いことで有名な甘粕影持あまかすかげもちは「黙れ!!残念ながら、ヤツを倒すのは僕だ。」と真面目そうな顔で佐太夫をにらんだ。

 佐太夫は大海原を連想させるほど純粋な目で彼に「なんで?」と景持に尋ねた。

 景持はヘドロよりヘドロの薄汚い目で「決まってるだろ。なんにも関係ない僕が義清を討って、お前らが悔しいがってる顔を見たいんだ。」と。あまりに涼しい真顔、その真顔はできることなら遠ざかってほしい冬を連想させた。

 佐太夫は真剣な顔で「だから皆に性格わるいって言われるんだよ。こっちは幸隆の思いだけじゃない。七光りだったとはいえ息子に先立たれて、何日もふさぎ込んで部屋からでないでいる棟綱樣の思いもあるんだ。」と言った。

 景持は今の佐太夫の発言を跳ねのけるようにニコッと笑い「知らないな、そんなこと。あとワルイが、僕の性格の悪さは洗練されている。いがいと友達多いから困ったことない。」と堂々と言った。

 佐太夫は絶句したのち「......確かに景持の性格のワルさは清々しいからな。」と言ってツバをゴクンと飲み込んだ。


 軍の最前列には長野業正と関東管領こと上杉憲政がいた。彼らもまた騎馬にまたがり行軍していた。

 長野業正ながのなりまさは君主の上杉憲政がなにやら考えごとをしていることに気づき「憲政様、どうかなさいましたか?」と尋ねる。

 すると、憲政は突如、しまったヤッパリという顔をすると「そういえば関東管領と諏訪って同盟関係にあったよな。この進軍路は諏訪の領土を通らなくてはならないが、ワシは諏訪に許可をとるのを忘れてた。」と言った。続けて彼は子供のように顔を真っ赤にして「このままだと撤退せねばならん。でも、それだと、ワシの面目がたたん。この付近に依田という勢力があったはず。そっちを攻めよう。」と早口で言った。

 すると、業正は即座に「......なりません。」と言うのであった。

 しかし、憲政は、その言葉に負い被るように即座に「俺の命令は絶対だ。」とニヤケヅラで言い返した。


 そのあと、すぐに「標的を村上から依田に変更する。これから戦うのは村上ではなく依田だ!!!」という通達が後続の軍にも流された。

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