第三十三話 生還

 幸隆ゆきたかはまたしても、死人が蘇るように立ち上がった。しかし、今回は顔が死んだままだ。彼は「ボケ、そんなはずねぇ。俺は戸石城といしじょうを落として、それで......」と終始驚いた様子で声を震わしながら話した。

 そのあとだった。突然、佐太夫さだゆうは腰をストン落として「......帰れた。おめでとう、俺。」と涙をにじませながら気が抜けた小声を吐いた。

 そして、幸隆は「あ!?テメェ。帰れたってなんだよ!!」と少し怒り口調で佐太夫に詰め寄るのであった。

 すると、唐突に佐太夫は幸隆を勢いよく殴って吹っ飛ばした。宙を舞った幸隆は茂みに倒れこんだのだった。

 トラは「え!?」と驚いて「アイツ、ひょっとして何も知らないでここまで来たのか。なんでだ????アタイに教えろ。なんか知ってんだろ佐太夫?」と佐太夫に尋ねる。この女は、まさかの佐太夫が幸隆を吹っ飛ばしたことについては関心がないようだった。

 佐太夫は途端にシンミリした顔をして「トラ、実は裏切り者がいたんだ。そいつは幸隆の弟で、しかも童貞なんだ。その童貞は幸隆に血だらけの生首を見せて気絶させたんだ。しかも、それが原因で、コイツは、さっきまで、寝てたんだよ......」とトラに説明した。

 トラは深々とタメ息をしたあと倒れこむ幸隆を見て「寝てただと。使えねぇ奴だな。マジで情けねぇわ」と言って、あわれみの表情をした。

 すると、幸隆は、ゆっくりスーと立ち上がり「テメェら、あとで殺すぞ。」と悪霊も泣いて逃げるほど怖い顔で二人をニラみつけた。

 短気なトラは、それに反応して破壊的な大声をだし「やれるもんならやってみろよ。」と言って、再び幸隆を殴り飛ばそうとするのであった。そのときだった。

 佐太夫がバタッと倒れこんだのだ。

 イビキをかきながら寝込んでいる佐太夫にトラが「今度は、こっちが寝るんかい。......まあ、でもコイツはお前をおぶって一日中走りまわったんだからな。疲労でガタがきても仕方ねぇな。」と言った。

 すると、幸隆は即座に男気を見せて「しゃぁねぇな。今度は俺がおぶってやる。」と言い、佐太夫を自身の背中にのっけた。

 トラは「お、友情だね。」と感心感心という顔をした。

 幸隆はトラをチラっと見て「あ!?茶化すな。大事な俺の相棒なんだから、こんなのあたりめぇだろ。」と言って清々しく笑った。

 トラは心臓でも射貫かれたような顔を一瞬したあとで、二人の友情がうらやましくなり極端に体をモジモジさせながら「アタイも、今度、キョウにおぶってもらおうかな」と言うのであった。

 幸隆は、とてもドン引いた顔をして「なんで、そうなんだよ。俺の妻おぶる暇あったら旦那見つけておぶってもらえよ。.....あ、無理か。」と残念そうに言った。

 トラは「お前、そりゃどういう意味だ。マジでぶっ殺すぞ!!」と言って、また幸隆を殴り飛ばそうとした。

 幸隆は、それを避けると上野の方角に全力で走りだし「同じ手はくらわねぇよ。じゃあな、モテないボケ女。イイ夢見ろよ!!」一瞬立ち止まるとトラに屈辱の投げキスをお見舞いした。

 その瞬間「お前。許さねぇ!!!」とトラの悔しがった大声が、この森にこだまするのであった。


 幸隆がトラから逃げるように走っていると、すぐに箕輪城の門の前にたどり着いた。すると、幸隆は兵士四人にとりかこまれてしまう。そして、彼らは「佐太夫樣におぶられし者よ!!佐太夫樣は無事か!!」と口々に声を荒げた。

 幸隆は、なんのことか分からないという顔をしてサッと「生きてるぞ。」と言うのであった。

 すると、彼らは突然泣き出し「よっしゃぁぁあああ!!」と叫んだ。

 ちなみに、この四人は佐太夫と途中まで行動をともにしていた四人である。

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