第三十二話 宿敵との初対面

「......なんだ、ここは。」


 幸隆ゆきたかが目を覚ますと、そこは木々が生い茂る森だった。彼は、さっきまで城の中にいたはずなのにと驚きながら頭をキョロつかせると。眼の前に色黒で白い着物に鎧を身にまとった長身の男が立っていた。その男の周辺には兵士の姿も数十名の姿も見える。


 佐太夫さだゆうがふと後ろを振り返ると、自身の背中で寝ていたはずの幸隆が目を覚ましていることに気づく。そして、嬉しそうに「おー幸隆!!ようやく目を覚ましたな。村上義清むらかみよしきよが、今、目の前にいるぞ。」と言うのであった。

 その目の前にいる村上義清は、背中の幸隆に大してアレ?という表情を一瞬だけ浮かべて「ひょっとしてお前か戸石城を落としたっていうのは?もっと強い奴なのかと思ったが、弱そうだ。オンブされてる時点で弱者のニオイしか感じねぇ。頼綱の奴もお前のことを口だけの武士の恥だと言ってたしな。」と彼は妙に納得して言った。

 幸隆は弟に対する怒りで顔を真っ赤にした。そして彼は歯ぎしりをしながら「な、なんだと!?童貞が、そんなことを??......童貞のくせにぃぃいいい」と言うとドカッと佐太夫のケツを蹴り、強引に彼の背中がおりた。しかし、足に力をこめられず、そのままバタッと倒れてしまった。

 義清は、その光景を見てクスッと笑った。しばらくするとある音に気づく「なんか、足音が聞こえるな。これは関東管領の軍に違いない。奴らを相手にすると、めんどくさくなりそうだ。帰るぞ、お前ら。」と自分の兵士に呼びかけ、自身の領土に帰るべく幸隆に背をむけて歩き出した。

 その光景をみながら、幸隆は地面に倒れた状態で「待て、村上義清!!やっと会えたってのにそりゃねぇだろ。誰が弱そうだ、ボケ。俺を弱そうって言ったことを、必ず後悔させてやる!!絶対にな!!!」と宣言という名の大砲をドカンと義清におみまいした。

 義清はニヤリと笑い、体をひるがえして、幸隆の方へむかうと「邪魔だ雑魚介。俺は後悔なんかしねぇ。お前は俺に勝てねぇよ。」と言って倒れている彼の腹にお返しとばかりに蹴りをドカンとおみまいするのであった。


「うぎゃぁあああ」


幸隆の叫び声が、周囲に響いた。森の獣たちも驚いて逃げる音が聞こえるほどだった。義清は再びニヤリと笑い「じゃあな。雑魚介」と言って、自身の兵士たちとともに、その場を立ち去った。


 しばらく静寂が流れると、幸隆の叫び声に気づいたトラが軍を率いて二人の前にあらわれた。彼女は心配そうに「幸隆!!佐太夫!!大丈夫か!!!アタイがきたからには、もう安心だ。」と彼らに駆け足で接近すると、そう喋りかけた。

 このとき倒れ込んでいた幸隆は、まるで死人が蘇るように立ち上がり「安心!?。ここはどこなんだ!!ブス!!」と目覚めがワルイ、幼児のように叫んだ。

 そして、トラは幸隆を殴ってふっ飛ばすのであった。幸隆は空中を舞うと、地面に叩きつけられ、出来損ないの蚊のように倒れ込んだ。

 佐太夫は驚いて「トラ、どうした!?幸隆が無残な姿になってるぞ。」とトラに尋ねる。

 トラは佐太夫を見ると眉毛をピリピリと揺らしながらニコッとして「ムカついたからに決まってんだろ。心配して駆け付けてやったのによ。アタイを二度と怒らすな。」と決してスッキリとはしていない笑顔で言った。そのあとで「ここは小県と上野の国境だ。」と幸隆の質問に付け加えるように答えるのであった。

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