第二十七話 絶望

 頼綱よりつな佐太夫さだゆうを獅子の如く鋭い目でにらみつけ「おいアンタ。その腰抜けを俺によこせ。」と柄にもなく絶叫するのであった。

佐太夫もニラみ返し「誰がお前なんかにわたすか!!この童貞野郎!!」と、臨戦態勢で叫んだ。

 一瞬口ごもった頼綱が「もう、俺は童貞じゃない!!」と言い返そうとしたとき。その殺伐とした雰囲気に割って入るように鹿右衛門しかえもんは中央に鬼と書かれた自身の額アテを抑えてけてヘラヘラ笑うのであった。そして、彼は「ドゥドゥ頼綱、別に今、そこのヘバってるダサーイ人を殺す必要ないよ。どうせ、海野うんのの人たち全員死んじゃうんだからさ。」と、とんでもない発言を不意にするのであった。

 佐太夫は突然の発言に呆気に取られて「なに言ってんだ?お前??」と言うが、頼綱達は彼の発言を押しつぶすように無視した。

 そして、頼綱は狂った言い回しで「コイツだけは俺が殺さなければ気が済まない。それに、どうせ死ぬんなら誰が殺してもかまわないはずだ。」と声をはった。

 鹿右衛門は納得したかのように「確かに、そりゃそうだ。」と首とカワイイ小リスのように頷いた。

 鹿右衛門の同意をえた頼綱は「アンタ、そこの武士の恥を俺によこせ。」と絶叫に近い怒鳴り声をあげた。

 佐太夫は「ヤダね。不意打ちとか、お前のほうが武士の恥だろ。さっきからマジメ童貞弟の個性が崩壊してるぞ。じゃあな発狂童貞弟君。元気でな!!個性取り戻せよ!!!」と言ってアカンベェをした。

 頼綱は、そのツンツンした髪型をさらにツンツンにして「なんだと!!」と叫んだ。

 その瞬間。「じゃーな。」と佐太夫は自身の近くにあった扉をこじ開けて、城の外にでた。

 鹿右衛門は屈託のない不気味なニコニコ顔で「あー、あ。逃げられちゃったね。」と言ってヘラヘラ笑った。

 頼綱は歯が震えるほどイライラして自身がもってる槍を振り回し「どうせ、皆死ぬって言ったのはお前だろ。アイツも逃げられない。」と言った。彼の目から、幸隆への殺意がほとばしっていた。

 

 「ところで君?童貞なの???」


 「ちがう。」


 「信じないでおくよ。君って『武士の恥』で『男の恥』なんだ。」

 

 「アンタ、殺すぞ。」

 

 幸隆をおぶりながら佐太夫は走って味方が大勢いる、ある砦まできた。門の前に立つと彼は「あけろ!!」と大声をあげた。

 カラカラと門が開くと兵士たちが数名が幸隆に近づき「幸隆殿が気絶してる。」と口々に言った。

 数名で佐太夫たちを取り囲んで騒いでると、別に血まみれの兵士が砦に走り込んできた。あまりに突然のできごとに砦の兵士が「なんだお前?どうした???」とキョトンとしながら尋ねたのであった。

 血まみれの兵士は涙を落としながら「我らが本拠地。海野城うんのじょうが陥落しました。」と言い放った。

 あたりの兵士は「はぁ。なんで。なんで。なんで!?攻め手に出ていたのは我らではないのか?」と血まみれの兵士に尋ねる。

 彼は「突然、甲斐の武田が北上して、あっという間に城を......。」と倒れ込んで、そのまま息絶えた。

 砦の兵士は一様に肩を落とすと「嘘だぁ。」と言って、しばらく黙った。

 と、次の瞬間。地鳴りのような音が辺りを包み込んだ。少し遠くのほうにいる兵団が、こっちに攻め寄せてきていた。しかも、その兵団の兵士たちが背中にかざしている旗は村上でも、武田でもない。


「あれは、諏訪の旗だ。」


「ひょっとしてこれは村上、諏訪、武田の三国連合を相手にしなくてはいけないのか。」


「俺たちは終わった。」


砦の中に残っていた兵士も、これに気付き、絶望したものは腰を落として動かなくなっていた。しかし、佐太夫は気づいた。絶望せずに、臨戦態勢を決め込む兵士たちが少なからずいることに。佐太夫は、そういった兵士にむかって「生きたい奴、こっちへ集まれ!!」と、そのときの佐太夫の目は珍しく猛っていた。

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