第二十六話 謎の男登場

 幸隆ゆきたかは城の中央の建物に勢いよく入ると、なかにいた佐太夫に近づきながら「よくやったぜ、我が家来。」と言って、彼の手を掴み労をねぎらった。

 佐太夫さだゆうは真剣な顔をして「オッス!!殿。ありがたき幸せでございます。」と言うのであった。

 少し沈黙があいたあと、幸隆は佐太夫から手を離すとゲラゲラと笑い「この、やり取り、マジ最高だなボケ。」と狂ったように手を叩いた。


 「楽しそうだな、クソ兄貴。」


 幸隆は、気が付くと自分の後ろにいた頼綱よりつなに一瞬驚くも「俺を祝いにきたのか、ボケな弟。足音くらい立てろ。」とツッコミを入れた。

 頼綱は恐ろしいほどに真顔になり「周りはアンタを腰抜けと呼んでいたし、俺はアンタのことを武士の恥だと思っていた。こうもあっさり城を落とせるようになると誰が予想できたろうか」と兄を称えだした。......右手に桶をもちながら。

 幸隆はニヒッとまんざらでもない顔をして「褒めるなよ、ボケ。」と笑った。

 すると突如、頼綱は桶から「これが、さっき死んだ寺岡てらおかの生首だ」と言って、血まみれの寺岡の生首を幸隆にみせつけた。

 幸隆は、それを見た瞬間、トラウマがよみがえり「うわぁぁああああ!!」と雄叫おたけびをあげて、途端にその場に倒れ込んで気絶した。

 頼綱は、倒れている兄を死んだ目で見つめると「恥さらしは、最後まで腰抜けとして死ねばいい。これより俺は村上むらかみにつく。」と言うのであった。そして、右脇の鞘から刀を抜き、幸隆を斬りつけた。

 しかし、頼綱は兄を斬れなかった。佐太夫が間一髪で幸隆を自分の背中にのせて、すこしとおくにある、扉の前へ走ったからである。そして、佐太夫は珍しく怒った口調で「お前、自分の兄ちゃんを殺そうとしただろ。なんでだ?」と言った。

 頼綱はさらに目を曇天どんてんのようにくもらせて「そいつは兄貴じゃない。ただの腐れ縁だ。」と言い放った。

 それと同時だった。だれかが、部屋に突然現れたのだ。その男は若々し童顔に似合わない白髪をしていた。その男は悪意のある笑顔で「いいところに来ちゃった。」と言ってヘラヘラしていた。

 思わず佐太夫は「お前は誰?」と彼に尋ねた。

 その男は手を叩いて笑い転げ「いきなり、どんな質問だよ!!君、おもしろいね。名前なんて言うの?」と佐太夫の質問を完全に無視して、彼に尋ねる。

 その対応に佐太夫はカンカンに怒り、手を握りしめながら「無視するな!!名前教えろ!!この、童顔空気読めない君。」と、その男にあだ名をつけるのであった。

 しかし、その男はあだ名をつけられても動じることはなく「どうしようかな!?それから、最高のあだ名ありがとう。」と逆に感謝してきたのだった。

 佐太夫は男のまさかの反応にニコニコになり「俺にあだ名つけられて感謝してくる奴はお前が初めてだ。お前、おもしろい奴だな。改めて、お前は誰だ?」と再び同じ質問をなげかけた。 


 「じゃあ教えてあげる。僕は村上の忍頭しのびかしら霧隠きりがくれ鹿右衛門しかえもんだよ。よろしくね!!」


 「俺は鷲塚佐太夫、よろしく。」

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