第二十五話 戸石城奪還

 幸隆ゆきたかたちが兵を進め、海野城うんのじょうの門の前にたどり着いた。昔と、そのまんまの門に幸隆は不意に懐かしい気持ちを覚えるのだった。その門の前に二人の男が立っていた。一人は小県ちいさがたの領主である棟綱むねつな嫡子ちゃくし海野幸義うんのゆきよしだった。ちなみに、この男は昔と比べて大きく、大きく太っている。

 以前は幸隆のことを腰抜けとバカにしていた彼だが、幸義の第一声は「プププ。幸隆さーん。」であった。しかも、その声は間抜けときた。

 馬に乗った幸隆は彼に近づきみおろすと、真顔を作ったうえで「久しぶりだな豚。すっかり立場逆転だな。今や俺は関東管領上杉家の武将。でもって、テメェは豚で七光り。」とバリバリに威圧感をはっしながら言った。

 すると、門の前に立っていた。もう一人。小県の領主で幸義の父である海野棟綱が「幸隆殿、久しぶりだの。」と幸隆に話しかけるのであった。

 幸隆は「殿どのなんて、つけなくていいですよ。棟綱様、久しぶりです。」と棟綱と握手をする。

 すると、幸義はドサクサにまみれて「プププ。それじゃあ幸隆ちゃん。」と幸隆を茶化すという意地の悪い行動に出た。

 幸隆は、そんな幸義を、ギロリとニラみつけて「焼き殺すぞ、ボケ。」と言うのであった。

 そんななか、幸隆の横にきた頼綱は「焼き殺すのはこっちの話だ。幸義様にさっきから無礼がすぎるぞ、クソ兄貴。」と幸隆をたしなめた。

 幸隆は、その鋭い眼光を、今度は頼綱にむけて「しゃしゃるなボケ野郎。こっちは、ついに親父の城を取り戻すときがきたって思うと。血がタギって、タギって仕方ねぇのによ。」と不気味に笑った。

 すると、頼綱は呆然とした顔をして「俺は、タギらねぇ。俺は親父を知らねぇからな。」と言うのであった。

 幸隆は、それに対してニヤリとして「あっそう。でも、テメェにもきっちち協力してもらう。」と笑いながら言った。


 一月後の戸石城。幸隆が言うところの親父の城だ。今のこの城の城主は寺岡てらおかという村上の武将が務めている。海野兵は一か月ほど前から、この城に攻撃をしかけているが、戸石城は陥落する気配を一切見せていなかった。それもそうで、戸石城は四方を山と海に囲まれた、よくできた山城だ。今日も、海野兵が城を取り囲んでいた。城主の寺岡は城の上から「また、海野軍がこの戸石城に攻めてきたぞ。村上の兵よ、痛い目みせやれ!!」と城の門を開き、村上兵に海野兵を追い返すように指示をだした。

 しかし、今日はいつもと違った。門が開くと同時に門付近の茂に隠れていた海野兵に味方する兵団が村上兵を蹴散らし門へ侵入したのだった。その数は三千。

 その兵団の先頭には佐太夫の姿があった。佐太夫はただちに寺岡がいる城の中央を目指した。その中央の一室に入ると佐太夫は簡単に寺岡を討ち取ってしまった。そして、一言「真田幸隆が家来。鷲塚佐太夫を見くびんな!!」と。


戸石城は、あっけなく陥落したかにみえた......。

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