第三章 VS村上

第二十四話 決戦まじか。

 1541年。幸隆ゆきたかたちは夜盗討伐任務など実践を積み上げていた。彼らは塾生から長野業正ながのなりまさ配下の武将という立場になっていた。

 業正は大部屋の中央奥の座布団に座ると、こっちを見て座っている幸隆、トラ、景持かげもち佐太夫さだゆうに「実は近いうちに信濃佐久郡しなのさくぐんにいる村上義清むらかみよしきよを付近の海野うんの勢と諏訪すわ勢で協力して討伐する軍をおこそうと思います。突然ですが、その大将を真田幸隆さなだゆきたかに任じようと思います。頼みましたよ、幸隆。」と本当に突然、表明したのだった。そして、ちなみに現在、キョウは子育てに専念しているため大部屋にはいない。

 幸隆はシャッと一言はっすると「ついに、このときが。佐太夫、気張って行くぞボケ!!これで親父の仇がついに討てる。」と獅子の雄叫おたけびのように声をはった。

 佐太夫はウキウキのニコニコで「幸隆、俺が村上義清の首は俺が吹き飛ばてやるぜ!!」とこちらも甲高かんだかく雄叫びをあげたるのだった。

 トラも後ろの座席から「よかったじゃねぇか」と拍手した。ちなみに、景持は無言を貫くのだった。

 業正はさらに「明後日。さすがに、これだけ上野に居れば小県ちいさがたへの道も忘れてしまったと思います。ですから、この箕輪城みのわじょうに小県への案内人を呼びました。」と説明する。


 そして、明後日。馬にまたがり幸隆と佐太夫は三千の兵士を従えて、案内人の到着を今か、今かと待っていた。すると、身の覚えのある騎馬武者きばむしゃが数千の兵を率いてこっちにきた。思わず、幸隆はクスッと笑い「まさか、童貞どうていが案内人とはな、幸先さいさきがワルいぜ。」とその者をからかった。

 案内人とは真田幸隆の弟、頼綱よりつなだった。頼綱は威勢よく「黙れ。武士の恥のクソ兄貴。安心してくれ、童貞は卒業した。ちなみに俺は真田家も卒業した。理由はアンタが慕ってる長野業正が俺を強引に諏訪の殿様の家臣の養子にさせたからだ。だから、今の俺は諏訪家の武将、矢沢頼綱やざわよりつなってことになってる。」と言うのであった。

 すると、幸隆は悪の化身かよと思うほどに意地悪く笑うと「これまた安心してくれ、俺は妻をめとったぞ。真田家は、俺だけいれば充分だ。負け犬の頼綱ちゃん。」と頼綱を徴発した。

 頼綱のマジメな顔は一瞬で無惨にゆがみ「『頼綱ちゃん』だと?アンタのような男にだけは『頼綱ちゃん』だなんて言われたくないな!!」と渾身の怒鳴り声をだした。

 幸隆は、その要望を完全に無視し、人をこれでもかとバカにしたような顔をして「よ、頼綱ちゃん。よよ、頼綱ちゃん。よよよよよ、頼綱ちゃん。」とわざとムカムカする発音で言った。

 頼綱は目尻にシワを寄せて「言い方がムカつくんだよ!!」と腸を煮え返させながら激怒する。

 幸隆は変顔の最終進化系のような、ムカつく変顔をして「ムカつくように言ってやったんだよ。我が弟、ボケちんがー!!お兄ちゃんのせいで島流しになった哀れな弟よ!!」となおも頼綱をあざ笑った。

 そして、頼綱は怒りのあまり「...この武士の恥。」と唇を噛み締めた。

 それを見ていた佐太夫は、微笑ましい顔をして「素晴らしい兄弟愛だな。ケンカするほど仲がイイ。」とニコニコした。

 頼綱は佐太夫を目で殺すかのうよう「こんなクソ。兄だと思ったことない!!」と言ってニラミをつけた。

 佐太夫は、ゾッとした顔をして「...スミマセン 。」と丁重に頼綱に謝罪した。

 頼綱はその眼光を次に幸隆へむけると「こいよクソ兄貴。俺は諏訪に行ったあとも小県へたびたび戻っていた。はぐれるなよ。」と忠告した。

 幸隆はフッと笑うと「兄貴のことを腰抜けって言わなくなっただけ褒めてやるよ頼綱ちゃん。ついていってやる。」と言うと、ともに小県へ向かっていった。

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