第二十話 見取り図のありか

 佐太夫さだゆうは感慨深そうだった。彼は町にある一軒の民家をジーと見て「ここが千代女ちよめの家か。俺が好きな女の家だと迷子になんないんだな。不思議なもんだ。」と顔を赤くして笑うのであった。

 民家の玄関から、佐太夫の思い人である千代女がでてきて「佐太夫じゃん。珍しく迷子にならなかったね」と優しく笑った。

 佐太夫はニコっと笑い返すと、何やらカッコつけた表情をして「まさに愛の力だな。」と中二病発言をした。

 その発言をうけて千代女はクスクスと「なに言ってんのよ。佐太夫の柄じゃないわよ」と笑うのであった。

 佐太夫はクゥーと一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべると「しかし、千代女の顔は綺麗すぎてアダ名つけようにも、思いつかねぇぞ!!」と言って、ニコニコッと笑った。

 すると、千代女は微笑ましい顔をして「......そんなことで悔しがるな。さあ、さあ、我が家に入った、入った。」と言い、佐太夫を自分の家へと招き入れた。

 佐太夫は千代女ちよめの部屋に入ると、ここが女の部屋かと、嬉しそうにあたりをキョロキョロとあたりを見まわてしていた。そして、部屋の角に置いてあった箪笥たんすの引き出しに目をとまらすと「あれ、あそこの引き出しに、紙がはみ出てるぞ......見取り図。」と不意に箪笥たんすの引き出しに箕輪城みのわじょうの見取り図がはみ出てることに気づいてしまう。

 すると、佐太夫は背後から何者かに木刀で殴打されてしまう。佐太夫は、思わず後ろを振り返ると千代女が木刀を持ちながら泣きじゃくっていた。

 千代女は涙声で「なんで、見つけちゃうのよ!!」と悲しそうな声で軽く叫んだ。

 すると、佐太夫は真顔で「なんで、木刀で俺を殴った?」と千代女に柄にもなく冷静に尋ねる。

 

 「アナタを殺すためよ。」

 

 「木刀で俺が死ぬ訳ないだろ。だったら真剣使えよ。」

 

 「なんで、そんな意地悪な質問するの。本当に柄じゃない。」

 

 「泣くなよ、千代女。いつもみたいに笑ってくれ。これを見取り図なんかじゃない。」

 

 「破ったって無駄だよ。」

 

 「無駄じゃない。......て思いたいな。」

 

 「なんで泣いてるのよ佐太夫。」

 

 「野生の勘かな。今度、祝言あげよう。」

 

 「冗談は顔だけにしてよ。」

 

 「振られた上に涙が止まらねぇな。そんで千代女のせいで、もうすぐ気絶しそうだ。」

 

 「本当だ。足がグラグラしてる。佐太夫を殺すにはもってこい。」

  

 「好きな女に殺されるだなんて。本当にイイ人生だった。」

 

  千代女は、今にもグラリと倒れそうな佐太夫の顔を両手で押さえつけて「佐太夫のせいで任務失敗だよ。でも、楽しかったよ。」と言ってキスをした。


  そのあと、千代女はとある神社へむかった。彼女が鳥居の前にたっていると、神社の境内けいだいから左目に斬り傷があり、酔っ払いのような動きをした住職が現れた。その住職は「千代女。見取り図は?」とイヤらしい声で言うのであった。

 千代女は凛とした真剣な表情で「スミマセン。勘助かんすけ様。失敗しました。」頭を下げる。

 勘助と呼ばれている住職は顔をツブれた饅頭みたいにして「コイツは珍しい。失敗しない女の名が泣くぞい。」と笑うのであった。恐ろしい表情だが、本人としては普通の笑顔だということになっている。

 すると、千代女は「スミマセン。」と、その目に涙をのぞかせて謝った。

 勘助は千代女の涙に驚き「てか、泣いてない?アッシのせい??アッシの笑顔がツブれた饅頭だから!?」と慌てふためいていた。

 千代女は神々しい笑顔で「まさか。失敗して悔しいだけです。」勘助を安心させるべく、二コリとした。

 千代女の気遣いに勘助はホッとして「さすが、仕事人。武田の若君、武田晴信たけだはるのぶ様にはアッシから謝っておくぞい。」と言って、再び境内の中へ入った。

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